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NPCs  作者: 米川 米三
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第1話 模擬人格の僕

『あなたの分身、メモリー・バックアップ・NPCを作成してください』


 僕はキャラクター生成画面に入力する。

 体型はだいたい自分と同じ設定。


 名前 ドッグ

 種族 人間

 性別 男

 年齢 十六才

 技能 戦士


『続いて容姿を作成します』


 これはあまりにもパーツが多くて面倒だから、ランダム生成して気に入ったのを選ぶ。

 結局、自分の素顔に似た雰囲気の顔立ちに成った。

 眼鏡はかけてないけど、少し目つきの悪い不愛想な感じの顔。

 髪の色は黒。

 髪型はやや長めのざっくりした髪型。

 声は身元バレしないように自分の声とサンプル音声を適当に合成した。


『あなたの分身が完成しました』


 目を開けたら真っ暗な部屋の中。

 そこにはもう一人の僕がいた。


「僕が主人格の犬飼翔一いぬかいしょういちだ。分かるよな?」


「僕がMBNPCのドッグか。一通り遊んだらキミの中へ戻るんだな」


「そういう事だ。せいぜい楽しんで、後で僕を楽しませてくれよ」


「ああ、試験勉強頑張ってくれよな」


「……キミが羨ましいよ」


「後で記憶を共有するんだから、損してると思わないで欲しいな。兄弟」


「そうかもな。それじゃあログオフするからな」


「ああ、それじゃあまた明日。鶴見先輩と仲良く成れるといいな」


「誰にも言うなよ」


「もちろんだ」


 僕の主人格〝犬飼翔一〟は姿を消した。


「さて、どこからスタートするのかな」


 暗闇に出現した扉を開いて、僕は仮想現実世界『グローリー・オブ・ファントム』へと旅立った。




【G・O・F(グローリィ・オブ・ファントム)】

 田舎の町。

 割と平和に見える。

 なんて事のない、異世界ファンタジーによく出てくる平凡な風景。

 でもこれが凄い。

 現実だと言われても信じてしまうレベルの緻密な仮想現実。

 五感が全て再現されてる。

 温かい春風が頬を撫でて、身体が少し押される。

 カラスの鳴き声や村人の会話も左右の耳からサラウンドで聞こえる。

 夕飯時らしく、そこかしこの家から立ち昇る美味そうな匂いが食欲をそそる。

 調理スキルが高いキャラが作った食事はかなりいけるらしい。

 なんでそこまでと思うけど、時間経過で身体は汚れて入浴したくなるし、オシッコやウンコももよおすシステム。

 不摂生してると病気のペナルティまである。

 色々とリアルに作り込まれてるけど、性行為はキスまでしか出来ない。

 未成年も参加するコンシューマーゲームだから当然だ。

 もしも最後まで出来てしまったらゲームが荒れて収拾がつかなく成るだろう。

 ちなみに、死んでも最寄の教会の神父が「なんと嘆かわしい」と言って、下着以外のアイテムと所持金を全部没収で生き返らせてくれる。

 これは非現実的でややヌルゲー。

 だからホントに死ぬ事は無いけど、HPがゼロの時はちょっとだけ痛いらしい。

 初期装備は旅人の服と皮のブーツ。

 腰にはブロードソード。

 所持金は五ゴールド。

 とりあえず定番の酒場かギルドに行って、仲間と仕事をゲットしようか。でも、それってどこだろう?

 町の広場までたどり着いてキョロキョロしてたら、知らない男に声をかけられた。


「おい、キミはMBNPCメモリーバックアップエヌピーシーだな」


 っていうか、全員知らないヤツらだけど。


「ああ、ついさっき生成されたてのホヤホヤ」


「俺もそうだ。良かったら組まないか」


 彼の名前は『エビオ』。

 二〇歳、金髪ロン毛でたくましい北方人。

 なのに何故か職業は学者。

 北方人は筋肉種族だから普通は戦士じゃないのかな。

 でも袖振り合うのも多少の縁、一緒に冒険してみようか。





 翌日。

 ログインした主人格の翔一に召還された僕は、また真っ暗な小部屋の中にいた。


「首尾はどうだった?」


「聞かなくても記憶融合ですぐ分かるさ」


「そうだな」


 僕たちは互いの額に出現したアクセスマーカーを近づけ、接触させる。


 仮想現実の記憶は、エビオと一緒にゴブリン狩りをした事。

 エビオは冷静沈着なタイプで戦闘能力は低いけど、学者スキルを使って的確に敵の弱点や地形利用の方法をアドバイスしてくれた事。

 儲けたお金で飲み食いして、乾し肉とワインが美味かった事。

 次回はドラゴンが見える丘を探索してみようって、エビオと話した事。

 それらの記憶が伝わる。

 地味だけど、初日にしてはまぁまぁ楽しめた気がする。

 エビオとは仲良くやっていけそうだ。


 現実の記憶は、勉強は思うように進まなくて、放課後に体育館の入り口でスケッチをしてたら、剣道防具姿の鶴見つるみ先輩に声をかけられた事。

「何を描いてるの?」って訊かれて「美術部の先生に許可をもらって、デッサンの練習をしてます」って説明して、納得してもらえた事。

 家に帰ったら、父さんが風邪かぜを引いて寝込んでた事。

 そしたら隣から幼馴染のりんがまた訪ねて来て「勉強教えて。その代わり晩御飯作ってあげる」って、恩着せがましく言ってきた事。

 作ってもらった野菜炒めが焦げてて不味かった事。

 凜にGOFでNPCのドッグを作った話しをしたら「私もやりたい」って言ってた事。

 現実で良かったのは先輩に話しかけられた事くらいかな。


 とりあえずまたログオフ。

 明日に備えて今日はもう寝よう。




【現実】

 現実で動きがあった。

 相変わらず試験勉強に追われる日々。

 時間が無いのは塾通いのつらいところ。

 でも美術デッサンと称して、憧れの鶴見先輩の姿を眺めてられるのは幸せ。

 今日も僕はイソイソと体育館まで足を運んで、剣道部の練習風景を眺める。

 剣道部員は男子が十三人で女子は八人。

 鶴見先輩は当然女子のトップで女子部長。

 それに男子の中でも先輩から一本取れるのは猪澤部長と鹿取副部長の二人しかいない。

 女子であの強さなんて全国大会レベルだろうな。

 男子部員も凌駕する先輩の華麗な竹刀さばきに見惚れる。

 ひらめく白袴があまりにも上品で、美しい。

 稽古の後に面を外した時の、少し上気して火照った白い肌に身悶えしそうになる。

 僕は夢中になってデッサンを続けた。


 そんな事をしていたら今日も部活終わりに先輩から声をかけられる。


「どんな絵を描いてるの?」


 少し汗ばんだ頭に手ぬぐいを巻いた姿。

 これがまた可愛い!萌える!

 しかも剣道防具の荒々しい臭いの中に、ほのかに混ざる柔らかな女子の匂い。

 僕は震える手でスケッチブックをめくり、ダミーとして描いておいた猪澤部長の勇姿を先輩に見せた。


「ふーん、猪澤くんの絵か。絵を描くのって楽しい?」


「ええ、まあ」


「私は絵よりも竹刀振ってる方が楽しいから。人それぞれって事ね」


「ええ、まあ」


 やばい、せっかく話しかけてくれてるのに気の利いたセリフが何も浮かばない。


「絵以外には趣味とか無いの?」


 しゅ、趣味ですか。強いて言えば……。


「グローリィ・オブ・ファントム」


「グロォ? リィ……?」


仮想現実バーチャルリアリティゲームです。そこでは僕も剣を振ってます。『ドッグ』って名前で」


「ドッグ? ふふ。犬飼くんの〝犬〟で、ドッグって事ね」


「ええ、まあ」


 こんなオタクっぽい話しても、先輩みたいな体育会系女子は興味無いだろうな。

 僕がそう思ってたら、先輩は頭の手ぬぐいを外しながら笑う。


「せっかく〝犬飼〟って名前なんだから〝現八げんぱち〟にすれば良かったのに」


 現八げんぱちって、里見八犬伝のあれか。

 先輩って侍とか好きなのかな。


「ふーん。ゲームで剣を振ってるのか。そういうのがあるんだ」


「ええ。スキャニング・ヘッドギアはレンタルなら安いです」


「ごめんなさい、そう言うのちょっと分かんないな」


 そうでしょうとも。

 リア充のあなたには無縁のツールです。


「自分の分身に遊ばせるゲームです。時間が無い人用です」


「ふーん」


 やばい、引いてる。

 こんな話しなきゃ良かった。


「お絵描き、頑張ってね」


 先輩は微笑み、背を向けて立ち去る。

 立ち去って行くその後ろ姿にまで萌えてる僕の気持ちなんて、知りもしないだろうな。

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