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五話「ピクニックは二日酔いの後で」(麦藁帽子とか服とかどうやって持っていたんだ?)(企業秘密~!)

 俺はまだ少し陰りが残る頭をさすりながら、二日前のことを必死に思い出していた。

 今こうして、サンドイッチを作っている理由を。


 ――二日前。

 デヴァオールを決行した俺とレミアは夜通し飲んだ。

 ダバダだけではなく、缶チューハイとか別のストックしていた焼酎とかも空けて。

 そしてその宴会開けの翌日である昨日は、二日酔いでまともに動けるはずもなく洗い物だけで精一杯だった。

 そんな折にレミアが言ったのだ。

 「ソウタ~~、明日はさんどいっち?と飲み物お願いね~~」

 「頭痛え~・・・あー?何の話だ~?」

 「昨日話したじゃない~~明日はピクニックだーって」

 「そんな事言ってたっけ~・・・」

 「言ったよ~~」

 そんなことを、二人でタオルに包まってごろごろしながら話した。


 そして、昨日の明日である今日。改めて聞くと本当にピクニックに行きたいそうなので、こうしてサンドイッチをこしらえていた。

 ――ああ、なんとなく。思い出してきた。


 「にゃはは~!レミア初号機いっきーまーす~~~!」

 「馬鹿野郎!初号機は俺だ~~!はははははっは!」

 「なにお~ぅ?なら私は零号機だ~~!!ソウタは私が守るから死なな~い!」

 「わっ!飛びつくなって~~も~~!はははは!」

 「あはは!そうだ、ソウタ~ピクニック行こうよ~~!」

 「ピクニックか~いいな!サンドイッチと温かい紅茶持って~~飛び切り旨い奴作ってやるぞ~~!」

 「にゃはは!じゃあきまりらのら~!そうだのそうた~!あははは~~、はははは!」


 ――ああ、なんかそんな話をしたような。

 別に、ピクニック自体は俺も賛成だ。

 仕事に囚われず、自由に暮らせてる。そんな仲で、もちろん引きこもってゲームやアニメを見るのも楽しい。

 見たいアニメも積んでたゲームも働いてた三年で大分溜まっているからね。

 だけど、水族館だとか美術館だとか、そういうものへの関心も年を重ねて出てきていた。

 観光地とか行きたいところも沢山ある。

 しかし、レミアが人の多いところは得意ではないからこの二ヶ月は出かけるとしても買い物くらいだった。

 それはそれで楽しく暮らせているし、別にいいかくらいに俺も考えていた。

 前述の通り家でもやれることは沢山あるのだ、ビバ情報化社会!

 とと、野菜の水気切らなくては。


 「それで、どこに行こうか。この辺なら片瀬山とか、ちょっと電車に乗って高尾山とか吾妻山公園とかもあるっけ桜の時期が終わってるのが少し残念だなー。でも以外だよ、レミアがどこかへ行こうだなんて。」

 「ふっふっふー!馬鹿ねソウタ!小さい、小さいよ!考え方が小さいよ!私がそんな人の多そうなところに、しかも電車なんて乗るわけ無いじゃない!!」

 その見た目年齢小中学生の女の子の姿で、そんな事を堂々と言っている姿はかなり心配になるな・・・。

 「ほら!行こう!」

 そう彼女の小さな手が俺の手を引いた。

 そして俺は風になった。



 「あああああああああああああああああああ、落ちる落ちる!!!無理無理無理ぃ!!!」

 時速、めっちゃ早い。高度、修学旅行で見た飛行機の窓くらい。シートベルト無し、捕まる所も乏しく、現在地はおそらく日本海上空。

 本日天気晴天なれども波みてる余裕無し。

 『大丈夫!落ちないから!・・・落ちてもすぐ拾ってあげるし!』

 「無理!無理だって!落ちたらショック死するわ!!」

 『大丈夫だって、もーソウタは心配性だね~』

 ウォーターボールと言うものをご存知だろうか?

 直径二メートルとか三メートルくらいの大きなビニールボールに入って、水面の上を転がったりしたりするものだ。

 俺はそのウォーターボールのようなものに包まれ、レミアの背に居た。

 そしてそのレミアはというと・・・・。

 竜の姿になっていた。

 始めてみたレミアの竜の姿はレミアの髪と同じ白銀の鱗、大きな翼はなく、細くそれでも30メートルほどありそうな体躯はただひたすらに清らなかなものに思えた。

 例えるなら・・・そう、モン○ンのミラボレ○スの白い肌を持った、ラギ○クルス希少種といった感じか。

 希少種は装備かっこよくてクエストに篭ってたから、あの姿は焼きついている。


 空を流れる。空を泳ぐ。空をたゆたう。

 清らかな川が、空を流れる。地上から見れば、白昼の天の川のように見えたことだろう。

 俺だって、余裕があれば「君の名はニギハヤミコハクヌシ!」とか言いたいくらいなのだけども。

 無理です。

 飛行するジェット機の翼の上で、冗談言うスキルなんて持ち合わせてはおりません。

 しがみついて、しがみついて、リュックを必死に掴みながら、目を開けるとびびって心臓が飛び出しそうだったから必死に目を瞑っていた。


 そして、たどり着いた場所は――。

 「あのレミアさん、どこですかここ。」

 レミアの背から降りて、レミアも人型に戻っている。

 目を開けるとそこは、広大な高原。

 空は高く高くただひたすらに――大きく、まるで自分がミニチュアの世界に入り込んだように思えるほど、電線やマンションがない空が高く見えた。

 何者にも区切られない大きな雲があちこちに流れる景色はプラネタリウムを見ているようで、自由に流れる風は一つ一つが生き物のように思えた。

 「えっとなんだっけ、ネットで見たの・・・チベット高原?ってところ!」

 「チベット!?」

 地上は一面に花が咲き、まさしく花の絨毯といったところだ。

 確かに、俺の考えが小さいのかも知れないな。

 そう俺は隣に居る少女の認識を改めて、改めたのでした。

 「とりあえず、ブルーシート敷くか。」

 もう、なんか、それしか出てこなかった。


 自由な風が気ままに散歩する。

 時折、花の香りと共に過ぎて行って、また別の風が来る。

 突き抜けるようなスカイブルーはそれはそれは鮮やかで、手元にある紅茶の温もりがなければそのまま溶けて行きそうなほどに魅せられた。

 「しかし、今日はどうしたんだピクニックなんて」

 「うん?ただの気紛れだけど?それともソウタは嫌だった?あっ!何か番組の予約して無いとかだったらすぐ帰るからね!」

 「いや、別に無いし俺も好きだよこういうの。」

 自然と二人共、息を吐く。

 五月のチベットの気温は関東よりも少し低いが、太陽光をたっぷり含んだ大地は心地よかった。

 そうしていると、落ち着いたからかレミアの腹が小さく鳴った。

 「あっ・・・えへへ・・ソウタ、久々に飛んだらおなか空いちゃった。」

 「はいよー、沢山作ったからどんどん食べな」

 サンドイッチを入れた籠を出すと、ものすごい勢いで飛びつくレミア。

 人目が少ない場所だが、尻尾まで動員して一気に頬張るのはどうなんだ・・・?

 「お!この卵いっぱいの美味しい!こっちはレタスとチーズとハムね!これもおいひい!そしてこれは・・・菜の花とベーコン?」

 「ああ、それは漫画に乗ってた奴でな。作ってみたかったんだ。」

 「菜の花の苦みがまたベーコンの脂やマスタードと合うね!」

 「うん。これはうまいな。」

 昔俺も、こうやって母親の作ったサンドイッチ食べたっけな。

 「ソウタ?どうしたの?」

 訝しげにそんな事を思っていた俺の顔を覗きこむレミア。

 「ああ、いや。俺も子供の頃、両親と一緒にこうやってサンドイッチ食べたなーって」

 「ソウタの子供のころ!!どんなだったの?!」

 「うんー?母親に話によるとゆで卵が好きで、サンドイッチ作るときはほとんど卵サンド作ってたって言ってた。俺は良く覚えていないけどな」

 「可愛かったんだろうなー!」

 「とはいえ、チベットまで来た事はなかったのは確かだな」

 「えへへ!すごいでしょ!」

 そういえばレミアの格好だが――

 「凄いけども・・・そういえば出かけるときは麦藁帽にワンピースが多いけど、やっぱりこういう場所だと一段と似合うな」

 「そう?可愛い?」

 「可愛い可愛い。」

 「ふふーん!当たり前だけどね!まーそれでも尻尾が窮屈なのだけどね」

 「そうだ、あの竜の姿とか大丈夫なのか?明日のニュースとかツイッターで話題になってたらやばいんじゃ・・・」

 「認識阻害っていう便利なものがあるのでだいじょーぶ!」

 「え、それなら普段の買い物とかもそれでいいんじゃ?」

 「いやー、あんまり人の多いところでそういうことやるとあいつらがうるさいからね・・・。」

 「あいつら?」

 「いるのよ、私のように上界の者が人間界で悪さをしないように管理する――って言ってるんだけど元は勝手にやりだしたのに規模が大きくなって、便利だからって黙認されて調子乗ってる奴らがね。うるさいのよ。」

 「ほーん。」

 それから、サンドイッチ片手にレミアと色々話したり景色を眺めたりのんびりした。

 一息、空気が身体をめぐるたびに浄化されていく。

 こういう所の空気は何でこんなにも旨いのだろう。

 あ――そうだ。

 俺はリュックからデジカメを取り出す。

 「なにこれー?」

 「カメラだよ、こうやって・・・」

 レミアに見せるように、高原を収めてシャッターを切る。

 「こうやって写真を撮るんだ」

 「あ!そうだカメラなら、ほら私のスマホにも!」

 パシャ、パシャとお互いにいろんなところを撮った。

 レミアにデジカメを貸したりもしながら。

 「でもソウタこれ、結構古くない?」

 「そうだなー、俺が中学あがった年の誕生日に貰ったやつだから10年は使ってるな。・・・そうだレミアを撮っていいか?」

 「いいよ!やった!」

 画面に映るワンピースで、角があって、麦藁帽子で、尻尾が見える少女を俺は自身の眼に焼き付けるようにシャッターを切った。

 いつか、10年経って20年経ってレミアが居なくなったとしても写真はきっとひょっこり出てきてこの時間を思い出さしてくれるだろう。

 俺は、写真は上手いとか下手とかではなくて、その切り取られた確かに在った時間。

 それが思えるだけで素晴らしいものだと小さい頃に感じ、今でもそう思っている。

 そんな事を思い出しながら、俺は今撮った画像を確認した。


 「どうどう??」

 ああ――可愛く撮れた、ほっぺに卵ついてるけどな。

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