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四話 「せめてニートらしく。」(鰹を食っている・・・!?)(どう?)(美味しい!)

 「とりあえずレミア、帰りましょう。」

 「やだ。」

 「じゃあ、ソウタさんには悪いけれど私と暮らしましょう?」

 「絶対、断固、無理。」


 食事を終えた、シルさんとレミアは今後の話に展開していた。

 話?展開?いやただただレミアがそのレミアの姉らしいシルさんの言葉を拒否し、シルさんは徐々に涙目になっていくだけか。

 「私はこのままソウタと一緒。シル姉(シルねえ)は二度と来ない。これで決定!はい!この話は終わり!」

 「待ちなさい!ソウタさんはオスで・・・いや失礼、男性ですよ!レミアなんていたら毎晩猿のように欲情してしまうのに決まってます!」

 「でもソウタのご飯美味しかったでしょ!」

 「それは、そうですが・・・」

 「いやいや、え?それでいいの?」

 だが俺の言葉は二人には聞こえていないようで二人の語調はどんどん強まっていく。

 「それにソウタが求めるならいくらでも差し出すわ!」

 「ぶっ!・・・げほっげほ・・・お前!何を言い出すんだ!?」

 「何よ!この前だって言ったじゃない!」

 訂正、聞こえてはいるようだ。なんか無駄に俺が攻撃受けてないか?

 「シルさん!俺はそんな気ないですからね!?」

 「........は?」

 最大の地雷を踏んだのではとフォローを入れるがシルさんの反応はこの数時間で一番怒気の込められたオーラを発するものだった。

 「あなた何いっているんですか!?レミアと一緒にいたら―いえ!一度見ただけであの美しい脚を舐めたいとか!踏まれたいとか!三角締めされたいとか!小さな口に三本指入れて掻きまわしたいとか蔑まれたいとか泣かせたいとか首輪つけたいとかつけられたいとかきっと小さく綺麗なお尻を真っ赤にしたいとか×××を××して○○を△△たいとか○△×とか!!思うでしょう普通!」

 決壊したダムのように欲望が流れ出した。

 シルさんは一息で言い終えるとふうと息を整えている。

 (この人は一体何を言い出しているんだ?)

 レミアと同じくらい真っ白な肌の顔が血走りすぎて太い血管が額に浮くと目立って怖い、超怖い。

 俺の思いと同じくいや、それ以上にドン引きしたようなレミアの表情は真っ青通り越して黒い影が落ちているようだ。

 「い、いや、レミアとは普通にゲームしたりとかそういう生活が楽しいのでややこしくなりそうな関係は考えて無いですね・・・あとそんな特殊性癖も兼ね備えておりません。」

 「む、むむ、本当のようですが・・・ですね・・・ですが」

 話が早くて助かるが、今までの勢いは何処へやらやけに素直に話を聞いてもらえたシルさんに疑問を覚えつつも多分今一番の問題はそこで絶句しているレミアだろう。

 「ですが、男性の心など日々移ろい行くものです!だから、だからレミア私と帰りましょう!」

 話を聞いても変わらないシルさんに対してレミアは立ち上がり、シルさんの手を引き玄関へ向かった。

 「なにレミア?あはっ!お姉ちゃんの想いが通じたの、ねえええええええええええええええええぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

 「二度と来ないで!」

 玄関の扉を開くとそれはそれは流れるような見事な巴投げでシルさんの身体は放物線を描いて青空の中へ消えていき、反動の突風で揺れた髪を

 「ソウタ、こういう時何を撒くんだったかしら?火炎蜥蜴(サラマンド)の灰だっけ!」

 「いやそんなよくわからない物じゃなくて塩だけども・・・大丈夫なのか?一応五階だから人間なら助からない高さだけど」

 「大丈夫よこのくらいじゃ。きっと喜んでるくらいだと思ってしまうのが頭痛いくらいだわ・・・。」

 「それも・・・まぁそうかもな。」

 踏まれたいとか、それよりもえげつない願望も口にしていたしそうだな心配要らないか。

 「シル姉は私以外のことならすごく真面目でいい人なのよ?あれ、あれ・・・・何とかコン・・・あ!そうファミコン!」

 「シスコンな。」

 「それ!それ!シスコン!・・・しかもかなり拗らせてる・・・」

 「うん、まぁなんとなく解った気がする・・・・。」

 「ま!シル姉はまたやってくるだろうし、そんなことより二人でおよこしストリートやろ!」

 「そんなことって・・・ま、いいか。その前に食器片付けるぞー。その間にレミアは服、背中破けてるから着替えて来い。」

 「あら本当?なんかスースーすると思ったら」



 「何あのNPC-----!!」

 結局二人でおよこしストリートを遊び、一息ついたのは時刻は午後の四時を過ぎた頃だった。

 「何よあれ!難易度高いとかそういう話じゃない!チートよチート!」

 「ラッキーカードで自由に移動が出て、次のマークのところ飛んでそこで引いたカードは買い物料アップ。しかもそのNPCのお店が多いエリアに。」

 「前のターン別NPCのラッキーカードでその価格上昇の所に集められていて、私が2を出して全財産出費しても足りずに破産ってやっぱりおかしいわ!

 「確かにラッキーが過ぎるが、逆にレミアのラックに問題があるのかもな」

 「何よ・・・うう、確かにシル姉も来るし・・・それにしても流石にお腹空かない?」

 「ああ、お腹空いたな」

 丁度、今日ゲームと一緒に別箱で届いたものが合った事を思い出す。

 「じゃあ、ちょっと晩飯の準備するわ。『デビモン』も届いたろ、やりたがっていたし先に進めてな」

 「いいの?ソウタより早くクリアしてしまうわよ?」

 「俺は初代からやってるから大丈夫だ。しかも今回はゼン・アクのリメイクだから余計にな。」


 通称『デビモン』はゲームソフトのタイトルの愛称だ。

 デビル・モノノケ。ネットなどで『もののけ』をキーボードで打つときに『デビル・もんおん』になることが多くそれが略されてついた愛称らしい。 

 内容は、多様な悪魔や物の怪を捕まえ、育て、戦うといった具合。

 ジムバッチを集めたり、美しさを競うコンテストをしたり、友達と通信交換したりと、子供はもちろんその戦闘システムから大人にも注目を集めつつあるタイトルだ。

 ちなみに俺は最初、炎タイプを選ぶのが子供の頃からの自分ルール。

 


 「さて俺は、と」

 俺は二つ並ぶ500リットル容量の冷蔵庫の前に仁王立ち思案する。

 先日しこたま買い込んだおかげで献立の幅は広い。

 スーパーで話した豚カツもいいが、今日届いたアレに合わせるとなると・・・よし。

 メニューを決め腕をまくると背筋が伸びる気がする。

 「よし、始めよ」

 「ソウタ、これ開けてくれない?」

 レミアの手にしたゲームパッケージに施してあるビニールラッピングの所々にレミアの奮闘の形跡が見られた。

 俺は包丁でゲームを開けるときに指を掛ける凹みに小さな切込みを入れて渡すとレミアは「ありがとー!」と言い残してパソコンの前に戻っていった。

 俺もあれ開けるの苦手だけどどうやるのが正解なのだろうかね。


 ことこと、と小さな音を上げる鍋の淵を見つめていると徐々に意識が、思考が溶けていく。

 ただただ黙々と研ぎ澄まされるように集中していくと自分の手の動きと思考が乖離し、鍋にあがる気泡の様に自問が浮かんでくる。

 ――昔から趣味は様々で、そのどれもが中途半端だった。

 ゲームが好きだ。料理も好きだ。バイクやカメラ、釣りなんかも手を出したことがあった。

 一つ年下の幼馴染の影響で絵を描こうとしたり、漫画を描こうとしたが、あれは一ヶ月と頑張る前に諦めてしまったな。


 野菜を切り、魚の水気を拭き、下味をつけ、油を引き、時折手を止めながらネットでレシピをみつつアプリゲームも弄る。

 集中力散漫な行動すらも料理作業の流れのように感じてくる。

 ただ無心に手だけが進む。

 進んで、進んで、少し他所に向いて、また進む。

 何故だろう。手と思考が分かれていくような感覚が鮮明になっていくといつも考えることは自分の過去だとか、ちょこっと記憶に残ってる失敗とか――これからの不安とかそんな事ばかりだ。

 耳に聞こえる音が全てBGMの様でただひたすら見たくない自分が見える。

 「レミアが帰る、か」

 きっとレミアと過ごすこの時間は刹那の夢なのだ。

 そう思うと少しやる気が出る。

 俺ではなくレミアのために

 限られた時間ならばまず今を楽しく出来たのなら

 

 ああ、良い匂いだ。もう少し、あと少し――。


 きっとそれは俺にとっても有意義なのではないだろうか?



 「おお豪華ね!さすがソウタ!しかし一皿料理が沢山並んでいるね!」

 「そうはだな・・・・これだ!」

 ドンとテーブルに置いたボトル。ラベルには『ダバ○火振』と書いてある。

 「わー!お酒!これ何?」

 「これは栗焼酎。日本最後の清流四万十川の水とその水を受け育った栗を使った焼酎なんだ、前から飲んでみたくて買ってみた。豚カツでも良かったけどせっかくだから――」

 並ぶ料理は、解禁されたばかりのしらすの和え物や初鰹のたたき、つくしのきんぴらなど春を意識したものを作ってみた。

 「秋の栗と米で造ったお酒に、春の旬を肴って贅沢だろ?」

 「ふむ、その辺はまだよくわからないけど美味しそう!そうだ、ソウタ今日番組良いの無さそうだからアレみたい!」

 「あー、前からデヴァみたいって言ってたな。BD持ってくるかーちょっと待ってろー」

 「はーい」

 『デヴァンゲリュスン』通称デヴァ。革新的なOPはアニメが初放送されてから20年が近い現在でもカラオケランキングの上位に位置し、ただのロボットアニメには収まらない深遠なストーリー。

 その様々な考察や監督の意図の推察などの議論も白熱する作品。

 今日は新劇場版の『序』と『破』を晩御飯の肴とした。

 ちなみに俺は綾波派。


 「ちょっと!ソウタ!シンジが!初号機が・・・綾波ちゃんがちょっ・・・ちょっ!!」

 とくとくとく。

 切子のグラスと中にある丸い氷の淵をなぞるように酒を注ぐ。

 氷の頭が少し出ているくらいで止めると甘い香りが軽く鼻を撫でた。

 グラスを軽く回して一口含む。

 「うん、旨い。」

 独特の焼酎の癖よりも栗の甘さですいすいと喉を通っていく。

 口から鼻へふわりと香りが抜けていく感覚が楽しい。

 「レミア・・・って、ああ。デヴァ面白いよな」

 「はふっはふっ!うん!」

 画面に釘付けながら、手には白米のお椀を持ちながら箸はどんどんおかずを取り、白米を掬い、置いてグラスを手にし、一口含んでまた箸を進めだす。

 そんな姿もまた良い肴に思えた。

 「あっ!ごめんソウタ!料理も凄く美味しいよ!このお酒とも凄く合う!」

 目線があって少し恥ずかしそうにレミアが言った。

 学生時代から料理も好きなことの一つ。

 作り手はそれぞれに嬉しいことがあるだろう、「美味しい」ってちゃんと言って欲しいとかそういうの。

 俺は――俺自身もそうだが、旨い物って自然と無言になって箸が進んでしまう。

 そういう姿が一番好きだし、達成感もある。

 レミアは改めて口にしてくれたが、それが無くとも伝わっていた。

 それでも口にしてもらえるのもまた嬉しいものだな。

 「ありがとう。あー、そっか新劇だとここはこうだったっけ、TV版とごっちゃになってたなぁ。」

 「出たN2兵器!好きだねこれ!」

 「左様さんだ。劇場で見たとき笑いかけたんだよなー」

 初鰹は戻り鰹と言われる秋の鰹に比べて、脂は多くないがさっぱりしていて薬味たっぷりのたたきが香ばしく鰹の味も濃く味わえる。

 そしてそのしつこくない脂の余韻が、また酒を旨くさせる。

 「つくしだっけ?この苦味もいいわね!なすの肉詰めも、このトマトに長ネギがたっぷり乗ったのも合う・・・しあわへ・・・ああ!」

 「そういえば、シルさんどうしたのかな?」

 「んん~?あっちの世界に帰ったんじゃないかしら・・・あ!二号機が!!」

 「それもそうか。」

 俺もレミアも特に食事中にグロシーンは平気だった。

 のんびりのんびりと家だからこそ誰憚る事無く好きなときにつついて飲む。

 『笑えばいいと思うよ』

 「「綾波ぁぁぁぁぁーーーー!!!」」

 二人で叫んでいた。

 そして俺は心で決めた。

 ――オンラインでTV版デヴァを借りようと。

 肴も酒もまだまだ。今日の宴もまだ始まったばかり。

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