三十話「空をかけるドラゴン」(マカルさん…)(なに?)(AR○Aの後にブラクラですか…)(うん…面白い)(そうですか…)
「なぁ…レミア…」
「何かしら…ソウタ…」
ずるりとコントローラーが俺の手から滑る。
不快な感触。しかし今更気にする気力も無いのが本音。
リビングに男女が二人。呼吸は徐々に荒く、吐息は熱を持っていた。
「レミアは嫌かもしれないけどさ…」
「ソウタ。私はドラゴン、貴方は人間よ。だけどそんな事は関係ないわ。でもね…それはまだ尚早だと思うの」
横に座る薄着の彼女。肌はうっすらと赤く火照り、瞳は潤んでいる。そして、自身の尻尾を必死に回していた。
あんなもの、割り箸で扇いでいるのと同じくらい無意味だろうに。
「もう我慢なんて出来ないんだよ!」
「やめて、ねえ…やめてよ…ソウタ。ソウタは優しい人間でしょ?」
尻尾をこちらに向けて抵抗の意思を見せるレミア。
俺はそれでも彼女の肩を強く掴む。俺から逃げる彼女の視線を必死に追って。
言わなきゃいけない――これ以上はぐらかされては俺の身体と心が持たないのだ。
彼女の顔が近い、不意に香るシャンプー。
我慢とか冷静さとかそういった理性は既に焼き切れた。
誤魔化して、誤魔化して、彼女を傷つけないために我慢してきたのだ。
――だがそれも無理だ。
俺の思考は気を緩めてしまえば、最後の最後の部分がもう切れてしまいそうだった。
言葉が喉まで来た。もうここまできたら言うしかない。
彼女の白い肌に紅潮した肩、それらが視界に入る度に無意識に力が入ってしまう。
俺だって男だ、よし…言うぞ――
「絶対、エアコン壊れた…」
「ぁ――――」
その言葉にレミアは俺の手をすり抜け力無く倒れた。
揺れたその銀髪や彼女の頰から振り払われた大粒の汗。
とっくに気付いていた、熱気にうなされ目覚めた3時間前から俺も、きっと彼女も気付いていたはずだ。
俺はそれ以上は何も言わず窓を開けた。外から入り込む風は心地よく冷たかった。
湘南の夏は俺の地元よりも暑い。なによりも蒸し暑い。
それでも冷たく感じたのはこの部屋が恐らくは40度近い軽いサウナ状態で、衣服や握っていたコントローラーすらも滲むほど汗をかいていたからだろう。
二台のゲーミングパソコン、5画面の液晶モニター、二台の据え置きゲーム機、そして熱を発する生き物が俺と彼女。
エアコンがいつ止まったかはわからないが部屋が熱気に包まれるのはそう時間はいらないだろう。
ならばこそ夏の湘南の外気よりも部屋の温度が高く、外の風が心地よく思えるのは道理だ。
俺は二つのコップに水を注ぎ、うんともすんとも反応しないリモコンのボタンを無心で連打する彼女へ戻る。
一時は外の風が涼しく感じても焼け石に水、サウナに風呂場の風、サーバールームにUSB扇風機。
「あちぃ……」
コップを置いて俺も床に倒れる。フローリングが冷たくて気持ちよかった。
しかし、直ぐに汗で肌が吸い付く感覚が最高に不快なので気持ちのプラマイは寧ろマイナス。
「ねえ…ソウタ…もしも、もしもだよ?暑さにやられたソウタの妄言が本当だった場合…どうなるのかしら?」
余裕があまりないのでレミアの回りくどい言い方はイラッと来るのでやめてほしい。
とはいえ、レミアの感情も理解ができる。
彼女とて打開策くらい想像はできるだろう。人間界で暮らして半年、 まとめサイト巡回などで知識を得てきた筈だ。
だから、だからこそ彼女には受け入れ難い現実が目の前にある。
「修理だろうなぁ…どれくらいかかるのか調べてみるか…」
「そ、それよりもよ!修理ってエアコンを運んで――」
「それは無理だ。修理なら業者の人を呼ぶ、これは絶対だ。いくらレミアの容姿からは想像できない力を持っていたとしても、ガス管とか下手に傷つけたらそれまでだからな」
そう――レミアにとって一番避けたい事は他人をうちに入れること。
通販サイトアマゾネスを頻繁に利用する癖に配達員の訪問ですら嫌がるのだ。
引きこもりで人が苦手な竜、それがレミア。
「お、ほら長くても二時間くらいだってよ」
「うんん…むむむむむぅ…うん……やっぱいやぁ…」
「そっかー、お日様があんなに高いよー。暑いなー。」
「ちょ、ちょっと!ソウタ!?お水!お水飲んで!」
ああ。暑い。意識が――。
ひゅーひゅーと風のする様な音が聞こえる。
心なしか冷んやりと…気持ちいい…?
「ん…あ…」
臨死体験が見せる錯覚でも起こして涼しく思わせるのだろうか。
瞼が重い。
それでも再び繋がった意識が無理やり持ち上げる。
「ソウタ!よかった!」
「わっレミアお前はまた!ごっふ――」
瞼よりはレミアの頭が重かった。
飛び込んできたレミアの頭が腹に一撃。ダイレクトアタックです、恐らく俺は死ぬ!
「わわっごめん!ソウタ、ソウタ?ソウターーー!」
で。
「で。」
「ごめんって!心配だったんだよ!」
心配してくれたのは床からソファー移して、水やらコンビニ袋に氷を突っ込んだ氷嚢もどきを見ればわかる。
「いやいや、ありがとなレミア。それよりもさ」
「うん?」
それよりも、だ。
「部屋が涼しいのとあの不自然に浮いてる穴の関係は?ないわけないよな?」
そう、俺が気を失ったか、なんかあって目覚めて見れば部屋は一変して涼しくなっていたのだ。むしろ少し肌寒いほどに。
そして部屋の隅、目の前に並ぶモニターたちの上、普段は何もない空間に穴が浮いている。
元気があればエアコンが壊れたのは気のせいだったんだなーとか言いたくなるが、そんな元気もないので単刀直入に行こう。
なにより瞼を開ける前から聞こえていたこひゅーこひゅーと言う音はそこから出ているのだから。
「あ!そうね!あれはね、コキュートスと人間界を繋ぐ穴なの!凄いでしょ!」
こきゅーとす。こきゅーとす。こきゅーとす?
レミアがふふんと得意げに鼻を鳴らすのはいつもの事だとして、コキュートスってなんだっけか。
「えっと、レミア…」
「凄いでしょー凄いでしょ!」
「凄くないわよ!あなた達何をして――」
どんがらがっしゃーん。
「な――なんだ!? …え。」
「ちょ、ちょっと何よ!」
色々状況が追いつかないのだが。
「ネリ。突っ込みすぎ。」
オノマトペと謎の声で繰り広げられる現状を簡単に認識しよう。真面目にやると疲れそうだ。
まず、「凄くないわよ!」と言った女性。
恐らく閉めて鍵をかけ忘れたのであろう液晶達の裏側の窓から飛び込んできた。
しかし、勢いよく入ってきたせいであまりよく見えていなかったのか液晶の縁に脚を引っ掛けてモニター諸共地面へ突っ込んだのだ。
そんな様子におどろいたレミアと驚きつつも呆れた俺。
そして、その後にゆっくりと部屋へと降り立ったもう一人の女性が小さく先に入った女性をたしなめたのだった。本を読みながら。
「ちょっと…ってネリじゃない!あんたmモニター壊れたらどうするのよ!」
外から入ってきたと言ってもここはマンションの五階、そして侵入してきた女性二人には尻尾が生えてるのも見ればレミアと同じ――ドラゴンだろう、違ったとしても普通の人間ではないのは間違いない。
「何よ!それよりもあなた――」
「いいから配線直すの手伝いなさいよ!」
「それよりも私の話を!」
「いいから!」
とりあえずモニターは無事なようだ。体を起こすなりレミアと口喧嘩を始めた女性をレミアも俺も見たことがあった。
ネリさん、前にレミアと…今考えて見れば不法入国ハイキングを行い、 ビキニ環礁で出会ったドラゴン。
尻尾に見える赤い鱗、髪は綺麗な黒髪をポニテに縛ったスーツが似合う女性だ。
大きく口を開くと八重歯が見えるのもまた特徴だろう。
そんなネリさんは確か、レミアとそれ以前からの面識があるようだ。…が、あまり良い面識では無いようで前もこうして言い合っていた。
「ちょっとマカルも何か言ってよ!」
「…うん? ――あ、お邪魔します」
「そうじゃない!」
おっとり…というかマイペースな女性もビキニ環礁でネリさんと共にいた。
しかし、会話はしなかったので名前も今のネリさんの言葉で知ったくらいだ。
ぎゃーぎゃーと言い争いを始める二人を他所に俺はマカルさんに近づく。
「えっとマカルさんでいいのかな」
「うん。貴方、冷静ね」
「まぁ慣れたというかね。最近はびっくりしなくなってきたよ」
「そう…凄いのね」
褐色肌の銀髪。レミアは青白い感じだが、マカルさんは薄いクリーム色といった髪色だ。
短めのボブカット、前髪の左にはピンクのヘアピンが二つ並んで止められている。
日本人の女性と比べると長身でスタイルが良い部類であろうネリさんと比べると、マカルさんはレミア寄りの発育これから体型だ。
この夏場でもジャケットをしっかりと着たネリさんに比べ、マカルさんは袖の長すぎるシャツを第三ボタンまで開けただぼだぼスタイル。
あと目の前で起こっている事は二の次にずっと本を読んでいるマイペースな女性だ。
「マカルさん、質問してもいいですか?」
「ん…読みながらでいいなら…。」
今も読みながらなんですけどね。
「コキュートスってご存知ですか?」
「うん。コキュートスは人間界だと…魔界だか地獄だかにある…一面銀色の凍土。氷結地獄とも…」
「ほほう、そりゃ涼しそうな」
――なによ!だからあんたは昔から!
――な!それはあなたが!
――なによ!
――なによ!
「そうは言っても、私達でも死後の世界はよくわからない。だから真似だけ。」
「真似?」
「ん…、私達の世界にある一面雪しかない階層の名前も人間達から真似て、コキュートスと…名前に…うん…」
疲れたのか、内容が盛り上がってきたのか言葉尻がおざなりになったマカルさん。
しばらくの間、俺は喧騒という言葉の意味を思い出しながらレミアとネリさんを眺めていた。
ね…、と本を閉じたマカルさんが声を掛けてくる。
「どうしました?」
「本、読んでいい?」
と、本棚を指差す。
「どうぞ」
「おすすめある?」
「どんな本がお好きですか?」
「何でも…漫画でも、小説でも」
「じゃあ、あの本棚は俺的に外れはないのでお好きに」
「ん…ありがと…」
昔、こういうタイプの知り合いがいたなぁ、と不意に思い出す。
マイペースというか、なんというか。
俺は不思議とこういうタイプは嫌いじゃない、踏み込まなければさして気を使う必要はないし、嫌に思えば顔に露骨に出るだろうし。
一通りタイトルを眺めて『AR○A』を読み始めた。
「マカルさん」
「なに…?」
「なんでレミアとネリさんはあんなに仲が悪いのでしたっけ」
ブレーキがないのか俺たちの前で言い争う二人はますますヒートアップしていく。
「学校で海溝行ったのは知ってる?」
「ああ、修学旅行みたいなので人間界の海溝に来て、探査船に手を振った…でしたっけ」
「そう。それで人間界赴任したてのネリの初仕事はそれの後始末になったの…」
「大問題になったんでしたっけね、それならしょうがないか」
「その後も…別の事とか色々あった…」
「犬猿の仲というやつですか…でもシルさんや俺もそうだけど気を許すと大声出すもんだな」
俺が断片的に知ってる彼女の過去を考えればきっと、ああして元気すぎるくらいがレミアの本当に姿なのだろう。
だが、俺からすれば最初に出会った時の彼女が焼き付いている。
雨の中に見えた蜃気楼の様な、今すぐにでも消えてしまいそうなあの姿が。
言葉数が少なく、泣きそうな瞳でこちらを警戒していたあの頃のレミアが今も鮮明に覚えている。
だからこそ――
「なんか楽しいそうだ」
「…ネリも…同じ…」
小さく呟かれた一言に無意識に口角が上ずってしまう。
「そっか。」
きっと、俺はまだまだ彼女の事を知らない。
嘘か真か伊達に400年以上生きている訳ではないのだ。
そもそも。始まりからおかしかったといえばその通りで、そんな消えそうな彼女の姿に一目惚れだったのだから。
これまでの人生で人と深く関わる事をどこか面倒に俺は思っていた。
人に好かれるタイプでもないし、俺もそれをどうにかしようとしてきた訳でもない。
恋愛に関する知識など、不自然に初対面から好感度のやたら高い漫画や小説などの知識しかなく、実経験がないからこそ「そんなのありえねーよ」と穿った見方が染み付いている。
専門学校時代に偶に地元の友達と話せば、大学デビューしてサークル全員と寝る様になった女子の話とか聞いたが全く異次元の話だった。
知らない事が不安になる――とか、そんなのもまた恋愛ものでよくある定番。
レミアに当てはめれば、俺は不安というよりは知りたいと、そう思うし――なにより、なにも知らない訳ではない。
最初こそなにも知らなかったが、この半年見てきた彼女を俺は知っている。
だからそれでいいかなとか思ってる、徐々に知ったり知らなかったり、そんなので。
「マカルさん達、夕食食べて行きます?」
「ん…いる。」
「何か食べたいものありますか?」
「肉。」
「食べられないものは?」
「特に…大丈夫」
「了解です」
「了解です、じゃなーい!なに二人で仲良くしているのよ!」
「お、レミア。そっちも終わったか?」
「終わってないわよ!大体こっち完全無視って酷くないかしら!?」
「知らないよ、めんどくさい」
「ちょっとあなためんどくさいってなによ!」
「あんたさっきから『なによ!』しか言ってないわよ!」
「なによ!」「なによ!」
言葉までハモっちゃって本当、仲良く見え始めたぞ。この二人。
「あー、わかったわかった。というか、今更ですがネリさん達なんで日本にいるのですか?」
そういえばネリさん達はビキニ環礁近くのなんとか協会の支部に居たはずだと、本当に今更な疑問が浮かんだ。
「ああ、それ?私達ね日本に異動になったの」
「あそこ、支部自体…忘れられてた」
「ちょっ!マカル余計なこと言わない!」
うわぁ。
「うわぁ…」
あれ?俺の心の声がもれた?
と、思いきや、すごく苦い顔したレミアから溢れた一言だった。
「そ、それは…なんというか…御愁傷様です…」
「ち、違うの!予算申請とかちゃんと通っていたし、昔はあのあたりグレムリン達の観光が多かったけどここ十年くらいは誰も来なくなったから、もう必要なしと言われただけなの!決して経理担当が変わって「この予算どこのだ?」と上がって誰も答えられなかったとかそういうのじゃ…」
墓穴を掘る。もしくは証拠一つで全てを語る火サスの犯人。
なんというか、この人レミアに似てるな、こういうとこ。
「と、とりあえず夕食用意しますからレミアとゲームでもして待っていてください」
もうなにもいえなくなった俺はレミアに任せてキッチンへと戦線離脱。
「とはいえ、あの二人で大丈夫か…?」
冷蔵庫を確認して適当なメニューを決め、キッチンから二人の様子を覗く。
――ちょっとあんた今の赤甲羅あんたでしょ!
――知らないよーって一位狙う青甲羅投げないでよ!今ゲットしてたの見えたんだから!
「ああ、大丈夫そうだな」
ネリさんも相変わらず本を読んでいるし。
不意にネリさんが二人の様子を本の隙間から覗いて微笑んでいるのが見えた。
釣られて俺も笑みが浮かんでしまう。
俺は下拵えを始めながらつぶやく。
「ドラゴンってゲームとか漫画とかオタク文化好きだな…」
と。
「――ご馳走さま。びっくりするほど美味しかったわ…」
「うん。ソウタ、凄い」
なんやかんやあって、いや単純にゲームやってた二人の「もう一回!」「もう一回!」が繰り返されただけなのだが、夕食を終えた頃にはすっかり日が暮れていた。
「でしょう!でしょう!」
と俺よりも得意げなレミアを他所に片付けを始める。
「それでこの後ゲームやる?なにやる?」
「え、あ、いや…今日はこれで帰るわ。すっかりお邪魔してしまってすみませんソウタさん」
「え、ああ、いや構いませんよ」
いきなり体裁よく敬語で話されるとびっくりする。
酒も仕事中だから、と口にしなかったし本来はきっちりした人なのだろう。
窓から入ってきて、レミアと喧嘩を始め、ゲームして夕食も綺麗に食べたが、きっちりした…うん?
まぁ、本当この生活してると来客などシルさんか綾乃くらいなので、新鮮で楽しいから別にいいのだが。今更感。
「ほら、ネリも帰るわよ」
「ん、わかった」
「あ、本いくつか持っていきます?貸しますよ」
「ううん、また来て読む」
「来ないわよ!変なこと言わないの!」
「じゃ…一人で来る。ネリはここ、嫌なのね」
「そんなんじゃ…でもレミアだって私嫌いでしょ?」
いきなり振られたレミアはもじもじと煮え切らない様子で黙った。
「俺は別にいいと思うが…レミアは?」
「う…いや…別に嫌いじゃ…うう…ま、まぁ?ソウタがそう言うなら別にいいわよ…またゲームしてあげるわよ」
ツンデレった。
ツンデレというかこの場合日和ったが正解か。喧嘩するほどなんとやら、色々過去から付き合いがあってこんな空気ならお互い別に嫌いなわけではないだろう。
単純に二人共面倒くさいだけで。
ていうか、そういえば――
「というか、そもそもなんで来たのよ?」
そう、なんで二人はうちに窓から来たのだっけか。
「あ――…。あーーー!そうよ!そうよ!そうだったわ!穴よ!穴!閉じなさい!」
玄関まで来ていたネリさんが思い出したようにリビングへ戻ると指からビームみたいなものを放ちモニターの上に浮かぶ穴を閉じた。
「ちょ、ちょっと!今エアコンが壊れて暑いからいいじゃない!」
「ダメに決まっているでしょう!雪蟲ならともかくこの時期はコキュートスは大寒波が来るわ、そんなの流れ込んだら一時間でこの建物が氷漬けよ!」
「えっとマカル先生、大寒波とは…」
「大寒波は…半年に一度、一ヶ月くらい続く寒波。さっきのテレビの…」
「ああ、南極で濡れタオル振り回したらカチコチみたいな」
「あの比じゃない…呼吸した凍って…ポキン。」
「ポキン…ですか…」
「指も腕も首もポキンよ。どう?」
「いや、なんでそこで楽しそうな顔になるんですか…」
想像して顔色を青くしていた俺の元へネリさんが戻ってくる。
「大寒波も危ないのはもちろん、そもそも上界から人間界へ影響与えるのがダメなのよ!」
「でも暑いし…」
それでもレミアは抵抗の構え。
「私達ならともかく、暑い暑いの前にソウタさんが死ぬわよ」
「う…それは…」
「レミア、諦めろ。流石にお前の負けだ」
「うう…」
――で。
氷嚢とレミアの魔法かなんかで作ったウォーターベット(風呂桶に溜めた水をそのまま動かしたスライムみたいな見た目のただの水)で、それでも寝苦しい一晩を過ごした俺たち。
朝を迎え、早々に綾乃の家へレミアを向かわせ、大人しく業者を呼んだのでした。
暑いと思考って鈍くなるんだなと色々感じた1日だった。
エアコンはいい文明。