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二十二話「実家へ帰った(6)」(蒼君!ほら、レミアちゃん呼んできて!)(え、ちょっとまて、何が・・・)(いいから五分後また集合!)

 綾乃が先頭を歩き、それに着いていく。

 俺のさらに後ろにはレミアとシルさんが続く。

 俺の街。というのは、些か過大な言葉だがそれでもやはり俺が二十歳まで住んだ事は僅かにでも、この街から見ても歴史を残していることだろう。

 「この公園で、小学校上がる前はよく遊んだものでした!でも・・・今見るとこんなに小さかったんですね」

 俺の仕事も終わったことで、綾乃はドラゴン姉妹を連れて俺達の地元を散歩しようと言い出した。

 「ね、蒼君覚えてる?昔、私が逆上がり出来なかったときにここで練習したよね!」

 「ああ、『鉄棒の授業はなんで、冬にやるんだ!冷たいじゃないかばかぁ~~!』って泣いてたな」

 「そんなことは忘れてしまへ!」

 「ソウタの小さい頃かぁ、どんなだったのかしら。きっと可愛かったのでしょうね!」

 んー、と記憶を紡ぐように綾乃は頬をこねると。

 「確かに今よりは(・・・・)可愛かったかもしれないけれど、口は昔から悪かったですよ!」

 「うるせー、というか可愛いとかいうな」

 「えーだって、好きな子に年賀状出したいって、電話プルプルして顔真っ赤で住所聞いてた子だよ?可愛いじゃない?」

 「ばっ!やめろ!!」

 「ふふ、そう言われるとソウタの幼い頃がますます見てみたいですわね!」

 「そういえば、シル姉。なんだっけ、あったよね一時的に小さくする薬」

 「あれはなんでしたっけ、サキュバス族が確か・・・」

 「お前らが言うと洒落に聞こえないからやめろぉ!!」

 猫型ロボットよろしく、またはそれ以上のことが出来る可能性があるのがこの人外ドラゴン娘だ。

 迂闊なことは、冗談でも口にして欲しくない!


 街を歩く。

 高く昇った日は熱く大地を焼く。梅雨の空気はどこへやらもう夏がひょっこりと顔を出しているほどに、暑かった。

 いつもの麦藁帽も、体の変化に合わせて大きくなっているが、それでも普段とは違うサイズの身体に疲れているのかレミアはいつもに比べたら静かだ。

 「レミア。大丈夫か?」

 歩を、少し遅らせる。

 前を歩くシルさんと綾乃は、構わず楽しげに進んでいた。

 「な、なにが?」

 「なにがって・・・へろへろで言われてもな。とりあえずこれ飲め、ドラゴンでも水は飲んでいたほうがいいだろう?」

 「うん・・・ありがと・・・」

 途中、買っていた俺のスポーツドリンクをレミアに渡す。

 普段のレミアと違い、シルさんの似せた肉つきのよい身体はペットボトルを口にする唇すら艶めかしくみえた。

 「しかし、ソウタ」

 「んー?」

 「この街良いね。」

 「そうか?何にも無いぞ?」

 「ううん。ソウタの香りがする!」

 「しねーよ。」

 「する!・・・・でも不思議。隈なくは見てないにしても、以前にも歩いた街の筈なのに、あの時と比べたら景色も、匂いも、思い入れも、全てがまるで別世界のように違うわ。」

 「そうかもな、あの時のレミアはおとなしくて、本当無口だった」

 その俺の言葉に、自嘲気味に笑いながらレミアは「そっちの方が好きだった?」とか言い出すので麦藁帽子を深く押さえて――

 「今の方が楽しい」

 そう言った。


 俺の手を抜け出し、レミアはふふん!と笑う。

 一瞬見えた彼女の普段の顔が浮かんで、俺も自然と笑みが零れる。

 「おーい!蒼君、レミアさん遅いぞー!」

 離れた綾乃がこちらに手を振る。

 「悪い悪いー!ほら、いこう・・・レミア?」

 「手・・・」

 差し出された彼女の手を握み、歩き出す。

 普段と異なり今日のレミアは様子が何か違うことに心配を覚えたが、それでも彼女の顔が明るくなったので大丈夫なのだろう。


 「ちょっと、遅いけどここでお昼ご飯にしましょう!」

 「ここは・・・?見たこと無い店だ」

 「もう電話してあるからはいろー!」

 この街では珍しいまだ新しさを感じる看板には『麺処 ふくふく』と書かれている。

 綾乃が先頭切って扉を開けると「いらっしゃーい」と元気な声が飛んだ。

 「おう、綾乃いらっしゃい!それに蒼太じゃないか!久しぶりだな!」

 「お前・・・幸樹か!?」

 多少年を重ねて、大人っぽくなっていても見間違うはずも無かった。

 年中短くしたスポーツ刈り、端正な顔立ちから野球部でも随一の人気を誇っていた幸樹という同級生を。

 「幸樹先輩がお店出されたってお母さんから聞いて、丁度帰ってきていたので来ちゃいましたです!」

 「でも、幸樹お前絶対帰ってこねえ!って東京に行ったはずじゃ・・・」

 「あー・・・それは後で話すけどその前にその美人二人は誰だ?もしかして蒼太帰ってきたのって――」

 「多分お前の想像とは違うな。こっちの桃髪がシルさんで、銀髪がレミア。綾乃が向こうでお世話になってる人たちだよ」

 「そうか、シルさんにレミアさんいらっしゃいませ。俺は綾乃の小中の先輩で、蒼太とは高校まで一緒だった幸樹と言います。んじゃ、とりあえず席に案内するわ」

 店内は静かで、テーブル席や座敷の席まであった。

 醤油の香りがほのかに鼻をかすめ、掛かっているメニューを見るとラーメンや炒飯といった中華に混ざってそばや掻き揚げなどもあった。

 「ここは何屋なんだ?」

 案内された席は座敷だった。

 とはいえそこまでしっかりしたものではなく、小さく区切られたフロアの一部といったところだろうか。

 「うーん、一応ラーメン屋かな。でも、じいちゃんばあちゃん達には蕎麦の方が好評でそっちの方が多くなってる」

 「そうなんだ・・・何だレミア?」

 ちょいちょいと俺シャツを引くレミア。

 「掻き揚げってなに?」

 「作ったこと無かったっけえーとこれが・・・」


 「な・・・本当にあの二人何にも無いのか?」

 「野暮なことは言わないのがもてるコツですよ、先輩」

 「確かにな、あれじゃどう見ても。昔からあいつ結構、人気あったのにセルフシャットアウトというか自然に恋愛事からは離れていってた。」

 「ほんと、女の子泣かせのバカですよ!」

 「というか、綾乃はいいのか?昔から仲良か――」

 「だからそういうのは私はないのです!あ、シルさんも私からメニューお教えしますね!」


 「お、蒼太とレミアさんは注文決まったか?」

 「ああ、ラーメンとざる蕎麦大盛りで、掻き揚げ二枚。それと取り皿も二つもらってもいいか?」

 「りょーかい。ああ、分けるのか!じゃあ、叉焼二枚おまけしとくぜ。綾乃とシルさんも決まったら言ってくれ!それとレミアちゃん、がんばってな!」

 そういって笑みをレミアに向けると、幸樹は厨房のほうに走っていった。

 ちなみにこの時間、本当は夜に向けて閉店しているそうだが特別に開けてもらったそうで他のお客さんはいない。

 「・・・・?」

 幸樹が去った後、レミアはきょとんと首を傾げてこちらを見たけれど――。

 俺にも幸樹の最後に言った言葉はよく分からない。

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