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二十一話「実家へ帰った(5)」(いやぁ、シルさん家事上手ね~!綾乃あんた、迷惑ばっかりかけているんじゃないの!?)(い、いえ!アヤノには、とてもよくしてもらっていますわ。お母様。)

 ピピピ、ピピピピと鳴った携帯のアラームに目覚める。

 会社を辞めてから、約三ヶ月ぶりにアラームで起きたことに何故か懐かしさを覚えた。

 「いつつ・・・重た・・・ああ、レミアか・・・てこと、はそのまま寝たのか」

 二日酔いに少し痛む頭を摩りながら、起きようと思ったが体が起こせなかった。

 胸元にレミアの頭があり、左半身にレミアの体が被っていたからだ。

 俺は昨晩の記憶を呼び起こしながら、携帯で時間を見る。

 時刻は4時20分。店の仕込みは家族で5時から行い、納品を受けたり朝に店頭並ばせる分の弁当をつくり、パートさんたちが8時半頃にやってくると昼に発注された分を作る。

 元々、朝は両親二人でやっていたところに母親が倒れてしまったということで、今は朝に黄瀬さん(※綾乃の名字)が着てくれているそうだ。

 勿論、自分も手伝うために来たのだから早朝に起きるわけだが・・・。

 「よし、ゆっくり抜けばおきないだろう・・・あ」

 「ん・・・ソウタ?おはよう」

 「おう、おはよう」

 寝ているレミアをどうやって起こさず抜けようか考えていると、レミアがおきた。

 「ん・・・あ!ごめん!ソウタ重かったわよね!」

 俺の胸元から、俺の顔を見て挨拶をしたレミアの頭が遅れて状況を認識したように、飛び跳ねて隣の布団へ移った。

 普段のレミアを考えると、珍しい反応だ。

 いつもなら、もうちょっとだらだらしよーとかいってそのまま寝そうなものだが。

 まあ、いいか。

 俺は身体を起こし、レミアの顔を見る。

 俯いて、頬を掻いているレミアにやはり普段との違いを感じたが、きっと昨日の道中で疲れてしまったのだろう。

 俺はリュックからポケットティッシュを取り出し。

 「昨日は、なんだかんだで飲んだな」

 と、レミアの眼元を拭う。

 沢山泣いたからか、その目元には涙が固まっていた。

 布団の傍にある一升瓶が空瓶になっていたが、そこまで呑んだのかすら覚えていないほど飲んでだのだろう。

 「ね、ソウタ。」

 「なんだ?」

 「前に、コンビニでくじ引いたことがあったじゃない?あれ、もし私が外れたらどうしていたの?当たったからなんかソウタが良い話のように丸め込まれたけれども」

 「ああ、そしたら自分の運の無さに諦めがつくかなって」

 「やっぱりソウタ鬼なんじゃない!?」

 「残念ながら、か弱い人間ですよー」

 俺がそういうと、レミアは少し寂しげな表情になった。

 やはり、レミアの様子は少し変だ。

 「レミア、体調悪いか?別にまだ寝てていいからな?」

 「ううん、大丈夫だよ。それよりもソウタ、あの時言っていたじゃない?『今ある大切なものを実感して、大切思うほうがいい』って。もしさ、今ある大切なものに気付いたらどうすればいいの?」

 その言葉に、俺は戸惑う。

 結局それは人それぞれの感覚の話だから。

 例えば、サッカーボールがあるとしてそれを大切なものだと思えば毎日磨いて飾る人もいれば、毎日ボールを蹴りに出かける事で大切にしてると思う人もいることだろう。

 結局はその人の自己満足でしかないのだ。

 無機物に思いは無い。毎日バイクは走りたいだろうか?走ることがバイクの本分と思うやつもいれば、寒い日にわざわざエンジン温めて走ることないじゃないかと思うやつもいることだろう。

 結局、エゴイズムの代弁をさせているだけなのだから。


 「そうだなあ。人それぞれだけど俺の場合は、その大切な物を大切な物のままであって欲しくて頑張ると思う。だけど」

 「だけど?」

 「でも、そういうものはいつか気が付いた時に無くなっていたり、無くなってから大切なものだったと気付いたり。俺の人生はそんなことばっかりだな」

 「そう・・・じゃあ、じゃあもしもソウタの大切なものに私が入ったら大丈夫だね。私はきっとソウタより早くなくならないもの」

 震えた声でそう言った彼女は、まるで初めて会ったときに戻ったかの様だった。

 「そう・・・だな、ありがとうレミア。」

 「うっ・・・ソウターー!!」

 「わっ、だから飛びつくのは・・・」

 笑って、飛んで。ああ、やっぱレミアはこうでないとな。

 「ま、いいか。もう少し時間もあることだしな」

 布団に大の字で倒れこみ、俺はレミアの頭を撫でた。

 

 ――結局。自己満足なんだよな。

 レミアと初めて会ったときから、彼女になら殺されていい。その思いは変わっていないのに、今の生活が楽しくて楽しすぎて、壊したくなくて彼女の見えない、あるかも分からない地雷が怖いのだから。


 「やっぱり、蒼ちゃんは包丁上手いわ~」

 「ヨシさん、あなたも止まってる暇は無いわよ」

 「わかっているわよ!サキさーん、盛り合わせそろそろできる?」

 「はーい、大丈夫よー」

 業務用の大型フライパンや、冷蔵庫などの音や働く人の声がお互いにかき消しあう。

 なれば、ここは戦場だ。

 卓越した、熟練の動きを三年ぶりに俺は味わっている。

 朝は親父と綾乃ママと三人だったのもあるし、事情も常連さんには理解してもらえていて少なめの仕込だったので多少は動けていたが、ここに至るとやはり返って邪魔になってしまうほど勢いに圧せられていた。

 「蒼太君、こっちお願いしていいかしらー?」

 「はぁい!」

 それでも、なんとかついていった。


 「それじゃ、親父気をつけてなー」

 俺は、配達に向かう親父のトラックを見送る。

 「蒼君!」

 声に振り向くと、綾乃がいた。

 「お、綾乃も着いていたんだな。」

 「申し訳ない、私は何も出来なくて」

 「いや、何言ってんだ。朝おばさんが来てくれてる分の仕事は綾乃がやってるって聞いたぞ。」

 「いやいや、そんな事は・・・シルさんもいるし」

 「綾乃、そして綾乃家のおかげで、本当助かった。ありがとう」

 「まぁ、どういたしましてだよ!それで、蒼君今日はもう終わりなの?」

 「ああ。本当はまだあるんだがパートさん達にもういいって追い出されたよ」


 俺がそう言うと綾乃は俺の手を引いて――。 

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