十九話「実家へ帰った(3)」(よし片付けた!けど時間が怪しい・・・シルさん一瞬で行けちゃったりしますか?)(場所のイメージが・・・でも綾乃の実家でしたね、なら大丈夫ですわ)
新幹線から乗り換え、鈍行に揺られまたバスに乗り換える。
東北にも、夏は歩みを進めているようだが関東ほどに比べるとまだ少し涼しくすら思えた。
とはいえ、六月半ばで30度に届く東京がおかしいのだが。
俺の子供頃なんか八月でも28度を超えたら特に暑い、30度超えなんて猛暑だったはずなのに恐るべしヒートアイランド日本。
そんなことを考えながら、たどり着くは我が地元。我が実家の弁当屋「ひまわり」。
流石に、手持ちがお土産を買った袋だけというのは不自然なので、あたりに人がいないのを確認し、レミアが出現させた扉から荷物を引き出して店の扉ヘ向かった。
扉を開くと、弁当が並ぶショーケースと数組のテーブルと机が置かれ、二組の老夫婦が食事をしている。
染み付いたソースの匂い、業務用機材のごわんごわんという稼動音、そして俺に気付くと一斉に出迎えてくれるおばちゃん達。
なにもかもが変わらないで在るというのは、帰る場所があるのだと実感できて嬉しかった。
弁当屋でもあるが、長く続いているうちは一つの集会所の役割も担っていてそのため、机なども用意してあり祖父がよく知り合いのじいちゃん達と将棋を指していた姿は今でも焼きついている。
「ただいまー」という俺の掛け声の時を待たず、パートのおばちゃん達が出迎えてくれた。
「今日は蒼ちゃんちゃんと、連絡してくれてたから皆で待ってたの!疲れたでしょ、とりあえずお茶でも・・・蒼ちゃんその人は?」
パートの中で最年長、サエ子さんが俺の後に入ってきたレミアを指す。
道すがら話し合って決めた、今のレミアの姿はシルさんに似せた大人バージョンになっている。
「ああ、えっとこの人は――」
「きゃー!ついに蒼ちゃんが彼女を連れてきたわ!」
「いやー!ちょっと皆!みてみて!!」
「あの、ちょっと落ち着いて――」
「外国の方?髪の毛さらさらだねえ!」
「胸も大きいのに腰がキュッとしてて私の昔みたいだわ!」
「あなた、今も昔もドラム缶じゃない~」
「やだ、も~あっはっはっは!」
「俺の話を・・・」
「ねえ、あなた幾つ?蒼ちゃんの何処に惚れたの?」
「・・・え、えっと・・・ご飯が美味しい・・・所かしら・・・」
「そう!蒼ちゃんのご飯は美味しい!わかるわぁ~」
俺を押しのけ、おばちゃん達に一斉に囲まれたレミアが、質問攻めに合う。
怖がるレミアの表情に気付かずおばちゃん達はヒートアップしていく。
流石に、まずいので俺がレミアの前に割り込む。
「すみません、彼女注目されるの苦手なので。この人はレミアと言って、綾乃がお世話になっている方の妹です。後で、綾乃も来ると思いますが先に俺達だけ来ました。」
「あら、そうなの?ごめんなさいね。レミアさんもお茶をどうぞ」
「も~あんた達、若い子が雫ちゃんしかいないからってよってたかりすぎよ!」
「なによ、あんたもわんわん言ってたじゃない!」
後ろにいるレミアが、俺の服の裾をつかみながらお茶を受け取り、「ありがとう・・・」と会釈をし、俺は本題の話に入る。
「あの、母さんはどうなんですか?」
「佳恵さんね。でもそんなに心配しなくても大丈夫、ただの過労らしいよ。それでも数日は安静にしてろってことらしいわ。三月から忙しい日が続いていたから、少し無理しちゃったのかしらねえ」
「そうですか」
一先ず、俺は胸をなでおろした。
ちなみに、俺の母親の名前が佳恵で父親が直治。
「私達も流石に蒼太君に連絡しましょうって直治さんに言ったのだけど聞かなくてね。でも来てくれて直治さんも助かると思うわよ!」
「はい。サエ子さんたちにもご迷惑をおかけしたでしょう、ありがとうございます。俺も明日から手伝いますので、こき使ってください。」
「私達は何もして無いわよ、でも久しぶりに蒼太君と厨房に立てるなんてお化粧してこないといけないかしらね!」
「50年前でもチャンスなんか無いわよ!」
「なんですってえ、私だって昔は東京の男をぶいぶい言わせてたものよ!」
「ははは・・・そういえば、雫さんって?」
「あら、前に言わなかったかしら?週に何度かレジをやってくれてるバイトの大学生の子よ。」
「ああ、言ってました」
「そうそう、今日はもう帰ってしまったけど明日も来るから・・・でも蒼太君あの子を狙うのは少し難しいわよ」
「あんたがやかましいから距離とられただけでしょうに~」
「そうよ、それに蒼ちゃんは最近のちゃらちゃらした男達は違ういい子よ!」
「そんな事言ってこの前、『ジェニスターズ☆西☆』のクリアファイルをコンビニで貰ってるの見たわよ?」
「あの子たちもいい子だもの!おばちゃんの生きる力ですもの、『炎川あつし』よりも若い子よ!若い子!」
「じゃあ、これ東京土産です。みなさんで食べてください、明日からしばらくお願いします」
おばちゃん達の話が脱線して、それはそれで盛り上がり始めたので程ほどの所で、そういってレミアをつれて母屋へ向かう。
一瞬、おばちゃん達の会話が聞こえたが・・・まあ、予想通りと言うか未だに彼女連れて来たという印象をもたれているようだった。
変に否定したり、取り繕うよりはご想像にお任せしたほうがいいだろうと何も言わず、振り返らず、厨房を抜け母屋の扉に手を掛ける。
親父は出かけているというサエ子さんの話にあったので、合鍵を取り出し扉を開け中に入った。
「ただいまー」
「お邪魔します」
玄関から伸びる廊下の突き当りを左に入ると、居間がある。
普段はコタツや、この時期なら普通の机が置かれている畳の上には布団が敷かれ、母親が寝ていた。
「悪い、おこしちまったか?」
「いや、今丁度起きただけだよ。おかえりなさい・・・ってその人は?」
当然ながら、レミアとは初対面の母親にも同じ説明をした。
「そう・・・レミアさんわざわざすません。私がこんなだから何もしてあげられないけれど、どうぞゆっくりしていってくださいね」
「はい、お母様こそお体を大事にしてください」
レミアの言葉に微笑み、起こしていた身体を寝かせる母さん。
「母さん、何か欲しいものはあるか?」
「いや、お父さんが今買いに行ってくれてるからいいよ」
「そうか、じゃあ俺らは荷物置いてくるから何かあったら呼んでくれ。レミア。」
「あっ、うん」
先に部屋を出た俺に遅れて、部屋を出るはずだったレミアが扉の前で一度会釈すると、微笑んむ。
どうやら母さんがレミアに何か言ったようだが聞き取れなかった。
「さっき、母さんレミアになんか言ってたのか?」
「うん?・・・内緒!」
「そうですかい。」
俺の部屋に、荷物を置くとレミアも倒れて転がった。
「お疲れさん。」
「ううう・・・人が沢山・・・『スカシス』のごくあく難易度の百人組み手よりきつかった・・・でもやっぱり転がるなら畳の方がいいわね!」
「うちはフローリングだものなー、カーペット敷いてもいいけどジュースとかお菓子のごみとか考えると置きたくないな。」
「ふふーん、ソウタの部屋二度目だー!」
実家の俺の部屋、アルバムとか卒業文集とかそういうものだけ入った隙間の多い小さな本棚一つと勉強机だけが残っている部屋。
床は畳で、扉はふすまで仕切られている。
二号機パイロットも阿鼻叫喚のジャパニーズルームだろう。
そして前回、来たときとは全く違うキャラになってしまったレミア。
あの時は借りてきた猫のように、口数が少なく冷淡な印象だったのに・・・まぁ今の方が俺は好きだが。
ついでに言えば猫ではなく、ドラゴンだったしな。
「さて、親父帰ってくるまでどうする?本当、何も無いけどこの辺でも散歩でもするか?」
「ふふん、甘い、そして青いわ!まさに蒼になんとかと書いて蒼太!そう、私は知識を求め続け、天空から海溝までを探求する高潔で誇り高いドラゴン族。そう400年生きる私と、私に寄り添う者ソウタ!その二人がいてやることは勿論、決まっているじゃない!!」
「つまりは、ゲームだろ?前置きが長いし、携帯ゲーム機を起動しながらだと悲しく聞こえるぞ・・・その台詞・・・。」
まあ、俺もやるんだけど。
「さて、デビモン?スーパーヒゲシスターズ?それともぽよぽよ?」
「ふん、セレクトが甘いな。こういう時はまず『ロミオカート』と決まっている!まずは風船取りゲームだ!」
「お、ソウタもやる気ね!わかったわ!」
結局、親父が帰ってくるまで時間を忘れてゲームをしていた。