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十八話「実家へ帰った(2)(こう、なんか新幹線に乗って駅弁広げて、ビール飲んでるって時点でもう旅のほとんどの楽しみを感じた気がする)(凄くわかるわ・・・。なんだろう不思議な感じね!)

 東京駅。

 止まることの無い人の濁流は様々な人が、様々な目的で入り混じる、まさに日本の心臓部。

 ここに着くまではレミアも頑張っていたが、今はもう俺の胸ポケットに入ってしまっている。

 俺だって最初はめまいがしそうなほどだったのだ、人間が苦手なレミアにしたら仕方の無いことだろう。

 スマホで時間を確かめ、新幹線の時間までまだ充分にあることを確かめる。

 気疲れか、はたまた電車の揺れの魔力か俺の胸ポケットに入っていたレミアはすうすうと寝息を立てていた。

 優しくと今朝注意されたので、小指の腹でレミアを小突く。

 「レミア、レミア、駅弁食べるんだろ?何にする?」

 地下街には、一つ一つ存在感のある様々な匂いが居並ぶ。

 「んあ・・・ふぁ~・・・いい匂い・・・」

 「東京駅といえばやっぱ、牛たん弁当とかあー、牛肉どストライクも食べてみたかったんだよな」

 「私、あれ!テレビでやってたあの御寿司屋さんのお弁当がいい!」

 「ああ、あそこテイクアウトが出来るのか・・・でもせっかくなら店内でも食べてみたくなるな!」

 そんなこんなで、改札内のお店を回り二人分の駅弁と、おばちゃん達のお土産を買って新幹線の待合所へと向かった。

 途中、トイレでレミアも人間サイズに戻ってきて来てもらう時に「少し大人っぽくなれるか?」とお願いした。


 そして、新幹線が到着し俺は待合所のお店で少し買い足し新幹線へ乗り込んだ。

 ちなみに、レミアを気遣ってもあるが俺も乗ってみたくてグリーン席にした。

 そんな自分に、ちょっと、最近抑えてたタガが緩くなってきてるかもしれないという思いが浮かぶ。

 新幹線等の切符代も、ちょっと贅沢な駅弁の購入費もレミアが用意した生活代から出しているのを思い出したからだ。

 レミアは、そういうところ躊躇っていると怒るのだけど・・・それでも、社会人としての感覚は失ってはいけないな。

 そう、戒めても人生初のグリーン車に興奮を隠せなかった。

 実際、指定席でも人との距離は近くなるし自由席なんてもってのほかなのも事実だ。

 「ソウタ、来る前何を買っていたの?」

 「これな、黒ラベル。ま、ビールだ。」

 「あ!だから私に大人で、と言ったのね!」

 レミアの思う大人っぽい姿、おそらく一寸法師のようなサイズになったのと同じで変化の類なのだろうがふわふわカール、強調される胸、肉つきのいい身体。

 紅の瞳と白銀の髪色でかろうじてレミアと認識できるが、その姿はまさしくシルさんそのものだった。

 ワンピースではより一層そのラインが浮き脱されている。

 

 「だって、私の大人っぽい姿って分からないのよ!ていうか、私あの姿400年生きているんだからあれで十分大人じゃないかしら!?」

 「身分証とかあるならまだしも、あの見た目でビールを飲んでるはまずいだろ」

 「あるわよ?身分証。」

 「え?あるの?」

 「うん。ほら。」

 そういってレミアが差し出したものは、紛れもなく(おそらくだが)本物の免許証。

 名は、『蒼竜 レミア』、住所は今俺達が住んでいるマンションにしっかり記されていた。

 「おまっ、これどうしたんだ?教習所に通ってるわけでも、そもそも住民票とかないだろ・・・?」

 「ほら、前にスマホを買った時に出してたから私もあったほうがいいかなって、『三途換金』に頼んでおいたの」

 「頼んでおいたって・・・ああ、なんとなく想像できたからやめよう。外でする話でも無いな・・・。」

 特にグリーン車は静かなおかげで、あまり大きく喋っても迷惑だろう。

 そういう空間を求める人たちが高いお金出して、座っているわけだしな。

 レミアに関してはもう何処から突っ込んでいいのか、何回目かの自分の尺度の小ささを実感した。

 つまりだ、お金で戸籍とかもろもろを用意したってことだろ?漫画や小説でしかありえないだろそんなの!

 それで、あの一寸先は霧しかない川辺で、レミア達の世界と地球のお金との換金を行っている人たちの社名みたいなものが『三途換金』?

 本当に三途だったのかあそこ・・・流石、戦国時代の名家真田家は用意周到だな。俺も棺おけには六文銭とは言わないが、お金を入れてもらおう。

 持っていけるかは分からないが。

 とかそういう突っ込みも、ビールで流し込んだ。

 「ぷはぁ。じゃ、別に大人っぽくなってもらう必要なかったな」

 「まあ、これはこれで楽しいからいい!それよりもソウタ、エキベンって何時食べるの?」

 「ん、そうだな。特に決まりもないけどやっぱ走り出してからにしよう。とはいっても俺ももう飲んじゃったけど」

 「じゃあ、先に乾杯しましょ!」

 「ほい、じゃ乾杯!」

 「かんぱーい!」

 軽く缶を合わせ、一口飲む。

 ほぼ同時に新幹線も走り出した。少しずつ、確かに身体にかかる重み。

 グリーン車の座席は普通の席よりも、深く指示見込んだ気がした。

 「でも、こんなに呑気にしていていいの?エキベンを食べたいって言ったのは私だから、こういうのもおかしいのだけど・・・ソウタ、お母さんのこと心配じゃないの?」

 「ま・・・そうだな。だけど焦っても電車が速く進んでくれるわけでも無いし、それにきっと俺を気遣って連絡をしない程なんだろう。だからせっかくだし、人間の旅行をレミアに知ってもらうのはいいかもしれない。まっ帰省だけどな」

 その時、俺はそう答えたが全くの嘘だ。

 心臓に繋がる血管が鼓動のたびに千切れて行くような苦しさと、腹の底から湧きあがる焦燥に食いつぶされそうだった。

 だから、酒でも飲まないと正気を保てなかったんだ。

 ――もし、もしも。レミアが居なかったら、きっと俺はそれでも平静を保てなかっただろう。

 そう確信できる。

 なぜなら、ビールを持つ手の震えがレミアと合わせるまでやまなかったのだから。

 「そう?じゃあ、エキベン食べましょ!」

 「だな。」

 ビールを置き、二人で包みを広げる。

 レミアはお寿司、俺は牛タン弁当。

 窓際に座っていたレミアが、窓に食いつき外に流れる景色に「私の方が早いわね!」とか言っている姿を見ながらご飯を口にすると、今まできりきりしていたお腹が少しだけ温かくなった。

 「ソウタ私にも一切れちょうだい!私のもあげるから!ソウタはお寿司何が好きなの?」

 「俺は――」


 雲間から差す陽を天子の梯子と人は呼んだ。

 灰色の鉛雲から射した光は、俺からすれば地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようにしか見えず。

 そうであって欲しいと、願った。

 絶え間なく流れる景色。都市部を過ぎ、郊外に出たと思えばビルの町がすぐにやってくる。

 三時間。

 新幹線だけでも俺の焦燥はその間、生き続ける。

 それでも――。

 「ね!ソウタ写メとりましょ!シル姉に送るから!」

 「写メって、結構現代慣れしたな。おう、よし撮ろう!」


 一人じゃないのなら、大分ましだ。

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