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十七話「実家へ帰った(1)」(アヤノ、ソウタ達とは一緒に行かないのですか?)(ごめん、これ片付かないと出れないのです・・・・)(ではコーヒーでも淹れてきますね、アヤノも無理をせずにですよ)

 「レミア、本当に着いてくるのか?いいんだぞ、家にいても」

 「い、いや・・・行く。」

 「飯ならカップ麺もそこそこ用意してあるし、レミアが作っても・・・・」

 「い、いいの!行くったら行くのよ!」

 「わかった。じゃあ、最後にもう一度荷物確かめよう。」


 綾乃と企画したドラゴン姉妹の歓迎会という宅飲み。

 その帰り際、綾乃が気付いた綾乃の実家から送られたメール。

 中身は、俺の母親が倒れたから綾乃も手伝いに帰ってこれないか?という物だった。

 それを見た俺も、実家の弁当屋に電話するとどうやら本当のことらしい。

 綾乃家は俺がまだ小学校にあがる前に引っ越してきたお隣さんで、俺と綾乃が仲良かったこともあり家動詞も仲が良かった。

 それで、心配して綾乃にもメールを送ったのだろう。

 おそらく俺に連絡が来ていなかったのは親父が俺の仕事を考えて遠慮したのだろうけど、仕事を辞めたことは両親に伝えてなかったから仕方ないにしても、それでも連絡をして欲しかったのが本音だ。

 良いほうに考えれば連絡するまでではないのだろうけども、それでも心境としては複雑。

 綾乃は大きな仕事が一段落し、次の企画へ向けた準備の段階と言うことで在宅でも問題ないということでシルさんを連れて家に帰ると言っていた。

 シルさんに関しては、「まぁ、驚くだろうけどうちの両親なら多分大丈夫!」と胸を叩いていたし俺も綾乃の両親はよく知っているのでおそらく大丈夫だと俺も思う。

 問題はレミア。

 レミアは人を極端に怖がっている。今みたいに話せるようになるまでそれなりの時間が掛かった。

 それが彼女の過去に起因するものなのかは知らないが、それはレミアが話そうと思ったときに話すことだろうし、今は問題では無い。

 だが、俺の実家に帰るのであれば否応無しにパートのおばちゃん達や親父には会わなくてはならない。

 それを思って、無理に来る必要は無いと言ったが着いて来るようだ。

 俺としても付いてきてくれたほうがきっとありがたい。

 だが、レミアに無理はして欲しくないのも本当なので、彼女が行くというのなら大丈夫だろうし勿論俺も負担を掛けないように努力するつもりだ。

 「ほら、ソウタ!荷物こっちに!」

 レミアが、扉を呼び出しそれに衣服などを入れたリュックをいれ扉は消える。

 忘れがちだが、別次元ポケットは本当に便利なものだ。

 持ち物は、ケータイと財布と煙草だけという手軽さで俺たちは駅へ向かった。


 「新幹線は東京か。とりあえず、藤沢で乗り換えて、それで・・・レミア電車どうする?空飛んで着いてきたりするのか?というか、レミアに飛んでもらえば電車乗らなくてもいいのか!前みたいに――」

 「ソウタ、確か切符を買わないといけないのよね?そしたら大人二人分買って」

 俺の言葉を無視したレミアに言われた通りに、だが俺は電子マネーがあるので大人一人分の切符を買うと麦藁帽子を深く被ったままレミアに路地の方へ引っ張られた。

 鵠沼海岸駅は駅の出口から、歪なT字に道が伸びていて出て真っ直ぐ海の方へ向かう道は人通りが多いが、線路に沿う道は途端に人通りが少ない。

 レミアは周りに人がいないことを確認すると手を一回叩く。

 すると、ポンッと音を立て煙が上がりレミアの影がなくなっていた。

 「レミア?おーい・・・」

 「ここよ、ここ!」

 「うわっ!びっくりした!」

 俺が羽織っていたシャツの胸ポケットから、声がして見てみると一寸法師みたいなレミアがポケットの淵に手を掛けていた。

 「これなら、大丈夫。切符も買ってあるから協会連中にも文句言われないはずよ!」

 「な、だからレミアが前みたいにワープしたりとか、そういうのじゃだめなのか?」

 レミアが不満そうな顔を見せたかと思うと急に俯き、「テレビで見た・・・エキベンっていうの・・・食べてみたいのよ・・・」と小さく呟いたので。

 「そうか、そうだな。じゃあ、駅弁食べながら新幹線乗ろうな」

 そういいながら、人差し指の腹でレミアの頭を撫でた。

 「ちょっと!もっと優しく撫でなさいよ!」


 揺れる電車。

 ゆっくりゆっくりと、揺りかごのような心地よさを孕んだ電車は進む。。

 景色は流れ、徐々に潮の香りが薄れていく。

 十時を回った電車内は、朝のラッシュから一息ついて、主婦や老夫婦などがメインの客層へと変わっていた。

 雨上がりの雲の隙間から差す陽は、今にも夏を伝えそうなほどにじんわりと熱を肌に伝える。

 先頭車両なのもあって、運転手の窓を背伸びをして覗き込んでいる子供に懐かしさを覚えながら、俺は胸ポケットにいる一寸ドラゴン姫に小さく声を掛ける。

 「な、他の人には見えて無いんだよな?」

 『大丈夫よ、しかしこんな狭い中にこんなに人が居るなんて恐ろしいわ・・・・!』

 「かなり空いてるほうだぞ・・・これ・・・」

 レミアの言葉は直接脳裏に話しかけてくる、所謂テレパシーとか念話みたいなアレ。

 間に一駅しか挟まないので、すぐに乗換駅へと着く。

 改札を一度出て、東京へ向かう道のりも込みの新幹線の片道切符を二人分買い、改札に戻る。

 「・・・ソウタ、私も座る。」

 「大丈夫か?これから人多くなるぞ?」

 「大丈夫・・・だけど・・・」

 レミアが周りに気付かれぬように少女のサイズに戻るとそのまま俺の手を握った。その手はどこか冷たく、少し汗ばんでいた。

 「この手は離さないで」

 少し震えていた少女の手を、俺はしっかりと握り。

 「分かった。」―――と、そう言った。


 電車に乗り込むが、既に空いている席はなかった。

 だが、目を伏せながら俺の腕にしがみつくレミアを見て、椅子の端に座っていたスーツ姿の男性が俺を見て目線で席を譲ってくれた。

 俺もありがとうございますと言い、レミアを席に座らせる。

 スーツの男性は次で降りますんで、と言ってくれたが数ヶ月前の自分にも同じ事ができたかと思うときっと席なんて譲れかっただろう。

 どこかやつれた印象を受けるその男性は、前の自分と同じような雰囲気を感じるのに――。

 人として、その人が羨ましく思い。そんな事を考えてる自分がとても矮小な存在に思えた。

 俺はレミアの前に、左手でつり革を掴み右手はレミアに掴まれながら立つ。

 周りを気にして、落ち着かない様子のレミアの頭に左手を一度乗せ、再びつり革を掴んだ。

 レミアの赤い瞳が訝しげにこちらを覗くと、一度頷いて彼女は微笑み、そして俺の手を握りなおして椅子の仕切りに体重を預けた。

 

 景色が流れる。

 民家は徐々にマンションに変わり、ビルの背もどんどん伸びて行く。

 脈打つ血流のように人を降ろしては積んで、降ろしては積んで、電車は進んで行く。

 だが、現実は冷たい車両だ。だが、徐々に暖かくなっていく少女の手の温もりがただただ優しいものに思えた。

 久しぶりに乗った満員電車は、誰もが誰とも目をあわせようとしない。

 改めてみたその車内が夏を間近に来ているというのに、涼しく思った。

 

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