十六話「ドラゴンのグルメ」(レミアはあまりテーブルに来ないなって一升瓶横においてゲームしてるのかよ)(レミアしゃんみたいな可愛い子に注がれると美味しいものですよ蒼兄ちゃん!)(お前もか・・・)
テーブルに並ぶ料理たち。
綾乃がお酒好きかは、事前に聞いていたのとシルさんの話からも結構呑んでるらしいとの話を聞いていたのでおつまみの様なものをメインでつくった。
先日、圧力鍋を買った興奮もあって作り過ぎて冷蔵庫にあったものもどんどん出しながら交代交代でゲームしたりしながら綾乃、レミア、シルさん、俺での宅飲みはまだまだ続いている。
今は、綾乃とレミアが二人でゲームをしていて俺とシルさんはテーブルでそれを眺めて呑んでいた。
シルさんをみるとほうれん草の御浸しや、ぶり大根の大根などをぱくぱくとそれは軽い箸捌きで口に入れていく。
そしてその下に目を向けると、いつの間にか日本酒や焼酎が注がれたグラスとビールの入ったコップが置かれていた。
食材にあわせた酒を探りながら呑み、自分の好みに合うと目を瞑ってコクコクと頷くその一つ一つの仕草が気品に溢れた所作のようなシルさんの姿が面白くて、俺はそれを見ていた。
そうは思いつつも俺は俺で、ぶり大根なんて旬は大分違うのに圧力鍋のせいで作ってしまって少し、自分に対する呆れる感情を持ちながら次は何をつくろうか―なんて考えていた。
「シルさんは野菜が好きなんですね」
「そう・・・ですね、肉や魚も好きなのですがこのダイコンは汁に魚の脂がとても溶けているうえによく染みているのでとても美味しいですわ」
「レミアも顔に似合わず、苦いものも好きですしね。」
ソウター何か言った?とレミアが振り返ってきたが、なんでもないと答えると彼女はまた画面に向きなおし、俺はそれを見ながら豚の角煮を口に入れた。
「あの、ソウタ・・・」
シルさんが俺の眼を見据えながら、それでもどこか弱気な声で俺を呼んだ。
「あ、白米もありますよ。パンも今日ワインが無いですが、フランスパンなら――」
「いえ、あ、でも白米頂いてもいいですか・・・」
「はい、少々お待ちを」
レミアのお茶碗二号に白米をよそい、シルさんに渡すとまた箸を進め始めた。
ちなみに、洗い物を溜めたまま食事を始めたりする時がある俺とレミアの食器一式は三セット準備してあるのでお客さんがきても困らない。多分。
「そ、そうではなくてですね!あの・・・えっと・・・」
「どうしました?」
「最初、会ったとき・・・そのソウタを誤解していて、あまつさえ殺そうとしてしまって・・・ごめんなさい、と言いたくて・・・」
シルさんとの出会いは、衝撃的ではあった。
ただ、玄関の扉を開けた時、一瞬にしてレミアによってリビングに引き戻され、目の前に見えた凄そうなオーラを発しているレミアの背中だけしか印象に残っていないので――正直、殺そうとしたといわれてもあまり実感が無いのが本音だ。
「こうして首も繋がっているので気にしなくて大丈夫ですよ。普通に考えて、心配な気持ちも分かりますし」
「ありがとう、ソウタもアヤノも私の人間観が変わるほど優しいです・・・ですがソウタ、それでもレミアを泣かせないでくださいと私は言い続けますわ」
「ええ、その時は殺してもらっても構いません・・・だけどレミアを泣かせる地雷が分からないな・・・」
一口、シルさんが酒で喉を鳴らした。
ビールを飲む姿がどこか様になっている。おっさんっぽくだが。
「そうは言っておいてなんですが、人間とは強欲なものでしょう?きっとレミアも同じ事を不思議に・・・いえ、不安に思っているかもしれません。それともソウタにはレミアは可愛く見えないのですか?」
「シルさんもしかして酔ってます?・・・まあ、レミアも偶に言いますけど、そうですねレミアは可愛いと思いますよ。ですが、そうですね・・・」
多分、俺もその時は酔っていたのかもしれない。
その時の記憶は、シルさんのその言葉にレミアと暮らしてた三ヶ月がよぎってその記憶のどれもが楽しいもので気分がよくなって、それで。
「レミアは―――」
「ソウタ~!シル姉と何を話してるの!あ、私もぶり大根食べるからシル姉、お皿取って!」
レミアと綾乃もテーブルに戻ってきた。どことなく、二人の仲も近くなっているように見えた。
「流石に私も疲れちゃった、蒼兄ちゃん水を貰ってもいい?」
「了解、レミアも何か飲むか?」
「私、日本酒~」
「あいあい。」
「あ、そうだ。蒼兄ちゃんケーキ食べよ、ケーキ!」
「ああ、持ってきてくれたんだっけ。じゃあ、適当な空いた皿持ってきて」
「了解でえす!」
二人が来たとき、綾乃から渡された白い箱を冷蔵庫から取り出す。
中には一切れサイズのケーキが種類を富んで入っていた。
そういえば、出してない酒があった。
「おおー!アヤノとシル姉が買ってきてくれたの!?おいしそう、えっどれにしようかしら!」
「蒼兄ちゃん、これは?」
大きめの氷が一つ入ったグラスを四つ並べ、700ミリリットル瓶からお酒を注ぐ。
「これ、前にお世話になった上司が辞めた時に貰った物で、響の21年物らしい。何かいい機会に飲もうと思ってて出すなら今日だなって思ってな」
各々一口含む、ウイスキー特有の癖が弱くしっとりと味が広がっていく。
そして、ケーキにもよくあった。すいすいと飲んで食べての手が進んだ。
「ふあ~美味しい!あ、シルさんはチョコケーキだ」
「アヤノはショートケーキですね、レミアはフルーツタルトってものですね」
「蒼兄ちゃんはモンブランだね、流石分かってる。このお店モンブランが美味しいと有名なのだ!」
「そうなの?ソウタ一口頂戴!」
『あ』と口を俺に向けて開くレミア。その顔にさっきのシルさんとの会話がよぎる。
「レミアは、もう恋人とかそういうの超えて家族みたいなものだ。一緒に居たいというよりも居ない事が想像が出来ないっていうのが正直です。ま、俺があんまり女性と縁がなかったのもあるのでしょうけどね」
それでも、俺が口にしなかった事。
きっと彼女にとっては俺はただの一人間でしかなく、親父さんのことは分からないけどそれでもいざとなれば彼女達が上界と呼ぶ帰る場所もあるわけだし、レミアにとってはただの一興である側面も強いのではないかと少し寂しい考えではあるが、思う部分もある。
それでも目の前で『あー』と口を開くレミアを見ていると、例え弄ばれていたのだとしても、もしやこれまでの生活全てがただの一抹の夢であったとしても、この生活が出来るのならまぁいいか。
既に、レミアと出合った時に死んでも良いと思った人間だしな。
「あー・・・んん!美味しい!」
「あ、いいな!私も!」
「はいはい」
一口切って、レミアに続いて綾乃の口にもモンブランを入れる。
そんな様子を眺めるシルさんの顔には「私も」と書いてあったので。
「シルさんもはい、どうぞ」
「え・・・いやあの・・・頂きます・・・うん、うん!美味しいです!」
「じゃあ、私のも!はいソウタ!」
レミアから始まったお返し祭り。そして、甘い物を食べてから塩辛いものが欲しくなり、そしてまた甘いものへの無限ループを酒が助長する。
その後も、色んな話をして4人でゲームやったり、途中からアニメも見てまた話して酒を呑んだ。
レミアと出会うときには想像できなかった、それはそれは楽しい時間で胸が熱くなった。
・・・いや、酒の所為だな。きっとそうだ。
「ら~、帰るですよ~!」
シルさんに肩を借りながらふらふらと歩く綾乃。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、遅くなってきたので綾乃が帰ると言い出した。
「大丈夫かー、すみませんシルさん、うち布団はあんまりなくて・・・」
「いえ、アヤノが帰ると言って聞きませんし仕方ないですわ」
「やって帰りたくなくなっちゃうらもん!」
「シル姉も結構酔ってるから気をつけるのよ」
「ふふふ、はい。ありがとうレミア。」
「じゃ~帰りましょうら、シルさんごめん――え?」
シルさんが綾乃をお姫様抱っこのような形で、飛ぼうとしたときだった。
「蒼君・・・おばさんが・・・・」
綾乃の紅くなっていた頬が、すーっと色が抜けていくように見えるほど表情を変えて手にしたスマホのメール画面を俺に見せてきた。
そこに書かれていたのは、俺の母親が倒れたので助けるために帰ってこれないか?という綾乃のお母さんから綾乃へ向けたメールだった。