十話「蒼太壮のドラゴンさん」(リッちゃんのこのカエル合羽可愛い!)(って、アマゾネス開いて何を探しているかと思えば・・・)
大地を、新芽を、屋根を、窓を、傘を、様々なものをたたく音がする。
たたく音が木霊して、響き渡ってタイヤの音が汚く巻き上げた。
水溜りに瞬く、幾千の花火。上塗りされ、重なり合って消しあって、それでも水面に瞬く花火。
たまに行き交う車のヘッドライトすら、細かく弾ける銀冠。
地面を這う大輪の花火の如く。
一薙ぎの強い風が吹く。傘を身体に寄せ、強い雨しぶきを堪える。
――ああ、やっぱり花火のようだ。
そんなことを思った。
目の前の少女が楽しげに跳ねた。
夏の訪れはまだ一歩足りず、数日続いている雨は指の先から冷やしていく。
そんな中で、彼女が俺を呼ぶ。
大した事はなかったけれど、それでも彼女が俺の名を呼ぶことすら唐突な出来事の一つだった筈なのに今ではそれは極自然な出来事に思える。
そう、彼女レミアとの出会いは今日と同じくらい寒い雨の日だった――。
「で、レミア。なんでこんな雨の中コンビニに行きたいなんて言い出したんだ?」
「うん?別に意味無いよ!なんとなーく!」
カッパ姿で、冷たい雨をその身体に受けながらもレミアは楽しそうだった。
現在時刻、深夜の0時を少し回った頃。
十分くらい前に遡る。
レミアとやっていた『デビモン』対決、52戦目が終わった後のこと。
俺の煙草が切れて、頃合もいいから今日は寝ようかと俺が言いだそうとしたときに、レミアが窓を見て「コンビニに行きたい!」と言い出して今現在俺とレミアは雨の降る、深夜の町を歩いていた。
レミアは梅雨が楽しみだったそうで、数日前に届いたカエルの合羽を着ている。
俺は内心、また先日のピクニックみたいにどこか遠くのコンビニにでも行くのでは?と少し構えていたが、そんなことは杞憂で俺達の住む町のコンビニを目指して歩いていた。
それくらい、レミアが外に出たいというのは珍しかったのだ。
「そういえばあのピクニック以来、出掛けてもショッピングモールに買い物行くくらいだな。」
海岸線を国道を挟んですぐにある俺達のマンションから、一番近いコンビニには歩くと十分以上かかる。
雨の音だけの橋を渡るのはどこか不思議な感覚だった。
――どこか、神隠しにでもあいそうな。
まぁ、神とか妖怪とか出てきてもレミアなら何とかなるのだろうか?
俺は前を行く少女を見る。
長靴で水溜りを蹴り上げていた。
「だめそうだな・・・」
「ん?なんか凄く失礼なことを思われた気がする!?」
「そんなことはないぞ、気のせい気のせい。レミアは雨が好きだったんだな」
「そうだね、好き・・・かな。上界ではね、雨は雨が降っているところに行かないと見られないの。だからこうして普段見ている町がこうして晴れたり、雨が降ったり、暗くなったり明るくなったり、そういうのを見るのが好きかな!」
深夜に響く音は雨の打つつける音とたまに走っていくタクシーだけ。
ただただ無ではない虚無の音が耳に焼きつく。
ふと、そんな雨音がいいなと思った。
「ね、ソウタ。今月のフリープレイに雨みたいな雰囲気のゲームなかった?」
「ああ、ヘ○ーレイン?俺も昔、PS3でクリアしたけど・・・そうだなせっかくだし今度やってみるか・・・レミアあまりやっていないタイプのゲームだしなー。」
「どんなゲームなの?」
「うーん、アドベンチャー寄りだけど、ストーリー読んでると急に来るQTEがやっかいでな・・・」
深夜でも信号機は黙々と照らし続ける。
誰もいないが、特に急いでもいないのでゆっくり変わるのを待つ。
のんびり、のんびり、こうのんびり町を歩いたのは何時以来だろう。
それとも――初めてだろうか?
赤信号に、隣でレミアがぴしっと直立していたのが可笑しくて可愛かった。
そしてレミアと他愛の無い会話を続けながら、真っ暗だった中に煌々と光るコンビニへとたどり着く。
国道から伸びる道路に面したコンビニ、そしてそのコンビニの横に沿ってバスの車庫へ繋がる道路も伸びていて、バス車庫へ向かう横に入る道路もバスが通れる用に太く作られているが街灯が乏しく、大きな闇はどこかビキニ環礁で見た深海へ向かう闇と似ている。
そんな道路を見て、改めて思い出す。
レミアと会ったときもこんな夜だったな――と。
「ソウター?入らないの?」
「ああ、ごめんごめん。」
しっかり冷えた指先や鼻先に、暖房の熱が染み渡る。
解凍された鼻腔に、色濃く中華まんとおでんの香りが直撃した。
これだからコンビニは怖い。無性に、買いたくなってしまうのだ・・・。
と、数えられる程度のお客の一人とすれ違う。
「あれ?」
「えっ!?」
「ソウター、アイス買おー・・・ん?どうしたの?」」
そして三人はすれ違う。