九話「日常。」(っていうか毎度、何で濡れたまま待っているの?)(そりゃ、ソウタに乾かして欲しいからでしょ!)(言い切ったな・・・)(許してヒヤシンス!)
前に同僚から言われたことがある。
「蒼太さんって、凄くきっちりされてますよね」と。
仕事は自分の脳内で組んだスケジュールをこなしたいタイプなので、それにあわせて準備をする。
それを周りからすればきっちりという風にも見えるかもしれない。
その時点で過大評価だとも言ってしまいたいが。
それが、俺自身にとなると、やはり少し異なると思う。
基本的なルーティンで生活ができているうちは良い、ただ徐々に何処かしらなぁなぁになっていってしまう。
――そう、今のように。
ベランダから振り返り、部屋を見渡す。
五月の半ばに一回、五月の終わりにも一回、片付けたにもかかわらず。
ゴミ袋が口をあけて数個置かれてたり、そこからごみが零れていたりそれを器用に避けて寝ているレミアがいたり、脱衣所の扉付近に落ちている洋服があったり―と。
部屋を片付け、毎日風呂に入って、ごみを出してという正しいルーティンにリセットしても、レミアに引っ張られ、俺も良しとしてしまって、洗い物を残してゲームをやったり風呂に入らず翌朝を迎えたりと生活がぐずぐずになる。
レミアと暮らす前もそうだった、まだ仕事が自転車操業始める前は定期的にデスマーチはあれどそれ以外は週2の休みがあった。
そこで『今日の休みに片付けよう!』と心に決めても、別のことをやりだして結局これはマジで生活ができないという所まで放置していたりしまっていた。
今は、毎日が休日みたいなものなので『いつでもできる』から明日でいいか。となってしまう。
テレビ番組で『近所迷惑になるほどのごみ屋敷を片付けよう!』みたいな企画の対象はきっとごみに囲まれていないと落ち着かないだとか、意図してやっている部分があるにしてニートの息子のVTRなどで出て来る部屋が絶対汚いのは、俺と似た心境なのかもしれない。
今やらない奴は、一生やらないという奴だ。
そんな事を考えながら、俺は煙草の火を消す、そして今がその生活すら危うい状況なのだと意を決して部屋に戻る。
だから、俺がきっちりしていると言われたのが凄く似合わなくて、寧ろ俺はその正反対の人間なんだと。
そう今でも言いたくて、あの言葉が頭に残っている。
――ま。そんな私生活まで同僚は知らないから、言っても仕方が無いのも分かってはいるのだけどな。
「レミア!」
「ぎゃっふん!」
起こすためにレミアに巻きついているタオルを引っ張り上げると、転がるようにして彼女はゴミ袋に衝突する。
「うう・・・・ソウタ・・・?ちょっと何するのよ・・・アイスの・・・カップに残っていた液が・・・顔に・・・?」
「顔についたじゃない!!」
遅れて状況を脳が理解したのか、少女の身体が飛び跳ね、そしてこちらを睨むレミア。
「今日は掃除をします、アイスが付いたのならちょうどいい。お前は早く風呂に行け」
「えー、明日でいいじゃない・・・見てよ!昨晩LP1000になったんだから!」
「後で見るから、早く着替えだして風呂に行けって!」
「ええー・・・ぶー・・・あ!そうね!わかったわ!!」
何かに気付いたようなレミアが、急に軽やかな足取りで脱衣所へ向かった。
一度、こちらを向いて不敵な笑みを浮かべて。
「何かたくらんでいるのか・・・?まぁ、いいや俺は俺でやることをやろう。」
一度スイッチが入れば俺だって、集中して掃除を始める。
ごみを纏め、週明けである明日に出せるごみを玄関に用意して、食器を洗い、洗濯機を回し積みあがった洗濯済みの衣服をたたみ上げる。
ゲームのカセットをしっかり入ってたパッケージに戻し、読みかけのところを残して漫画をしまう。
とかとか、一人のときなら集中すれば二時間程度で終わっていた行程もレミアの分があるので思ったよりも時間がかかる。
小休憩にしようと、扉の前に座りながら「レミアの本も増えてきたから本棚増やすか相談しよう」とか考えていたときだった。
(静かになったしそ、そろそろかしらねっ!)
そんな小声が、扉の後ろから聞こえてきたそのときだった。
「ソウター!」
「いってえ!!レミア!?・・・・ってお前!?」
後頭部を強打。
それだけならまだ良かった。後ろから扉を押され、前のめりになった重心を手で支え振り返ると――。
「お前・・・誰だ・・・?」
「い、いやね!私よ、私!!レミア!!」
目の前にいた女性は俺の知っているレミアではなかった。
見た目は人間の12歳程度なのが普段のレミアだが、目の前にいたレミアを自称した女性はそんなものではなく、どうみてもやたら胸部を強調している女子高生――いや女子大生くらいだ。
さらにレミアの、彼女がドラゴンの象徴である角や尻尾もなくなっている。
ついでに言うと、タオル一枚だけ巻いている状態。
「レ、レミアなのか・・・?というか何でそんな格好で出て来るんだよ!」
「だ、だって前もなんだかんだと言って私がお風呂入っているときに一人でナニしてたじゃない!だから今度こそと・・・・!」
前?ああ、先月のことか・・・。
先月も、こうして生活レベルが最低まで下がり掃除を始めようとレミアを風呂に押し込んだ時に、ついでに悶々と溜まったものを消化しようとして下半身を出そうとして・・・・
――その時にちょうどレミアが出てきたのだったか。
「そういや、その時も変なこと口走っていたような・・・・とりあえず、そんなあほな事してないでしっかり風呂浸かってこいって!」
「あほなことってなによ!ソウタがシル姉のことじろじろ見てたからこういうのがいいのかと思ったのに!!」
「じろじろなんて見てねえよ!!あーもうそのバスタオルだって今日干したいんだから早くもどれ!」
「ぶーぶーソウタのアホー!」
浴室にレミアを押し込む。
これで400歳を自称されても信じられるか。
一息重く吐き出す、瞼を閉じると刹那に見えたレミアの身体がしっかりと焼きついていた。
こう、柔らかそうで、すべらかで、綺麗な曲線が・・・。
「・・・・・じろじろなんて見てない。ぜったい。」
一人の部屋でそう呟いて、俺は再び掃除を始めた。
再び浴室に戻ったレミアは今度こそちゃんと浸かり始めたのか、あがって来る頃には部屋の掃除等もあらかた終わっていた。
基本的にレミアは入らなくてもある程度は平気だが、一回入ると長い。
前回のときはそれを見越してオカズ用意したりしていたが――そういうのもなんか無くなってしまったな。
何故だろう?
ま・・・いいか。俺も風呂入ろう。
「やっぱ、ソウタは髪梳くの上手い~~」
ドライヤーが鳴く。俺はそれほど長くは浸からないので、手早くあがり自分の頭にバスタオルを乗せ
レミアの髪を乾かしている。
「なーさっきの姿はなんだったんだ?」
「んー?あれは変化の術~凄いでしょ!」
「ま、角や尻尾隠すときのあれだよな。」
「もっと驚いてくれてもいいじゃない~~んあ~ドライヤはいい文明ね~」
口をあけて頭を揺らすレミア。
その銀の髪がなびく度、微かにシャンプーの香りが浮かび上がる。
少しそれにドキッとした。
その時、自分はようやく分かった。レミアを異性としてではなく子犬のように見ているのだ。
正確に言えば子犬ではなくドラゴンだが、そうだとしてもどこかペット感覚が混ざった男友達のように思うとかなりしっくりきた。
日々、ペットと戯れて遊んでいるから自然と性欲も解消されているのかも知れない。
「レミア、無理はしていないか?」
「うん~?どうしたの急に・・・」
「ほら、漫画とかでよくあるじゃん。本当はドラゴン本来の姿が楽、とかそういうの。前にピクニックに出かけた時みたいな大きさで居たいものではないのか?」
そう。レミアと買い物など人の多いところなどでは角や尻尾を隠すのだが、その時に角や尻尾を魔法みたいなもので物理的に見えなくするのを維持するのは不快だそうなので、帽子やポーチで隠している。
ならば、人間に尻尾や角がある姿ではなくもっとドラゴン要素を多く出して生活したいのでは?
・・・と、さっき今更に思ったのだ。
「あーなるほど。えっとね、あれは人間が考える竜種のイメージを真似てやってみたら結構便利だから使ってるだけで、大きな竜の姿もさっきのおっぱい大きい女性の変化と同じで身体を化かしているだけよ。このソ・ウ・タ・に・言・わ・せ・る・と、少女の姿が一番自然な姿なの。」
なんで、一部分強調したのかはともかく、問題ないのならいいか。
「乾いたら洗濯物全部干さないとなー」
「なんで今日そんなに干さないと!な日なの?」
「ん。」
ほぼ食事専用になってるテーブルの椅子に座るレミアに、スマホのワンセグでテレビを見せる。
丁度、お天気キャスターが今週の天気を告げていた。
『来週から本格的に梅雨が訪れ、曇りの予報でも折りたたみ傘をお持ちになったほうが良いでしょう。そして見てください!合羽を着た子供達が集まってくれま――』
「ねえ、つーゆー?って何?」
「レミア、プリン好きだな。」
「オイゲンちゃんの、あの言い方可愛いよね!・・・でも本当に梅雨って分からないわ」
「あ、そうなのか?まぁ、夏の前に来る雨の多い時期のことだよ」
「雨かー、だからか!今日晴れてるものね!」
「そういうこと、よしもう乾いたろ。レミアも手伝えー」
「あーい!干したらストロークファイターやろ!LP1000に乗った私のチェンリーの進化を見せてあげる!」
「あいあい、じゃあとっととやってしまおうか。」
ちなみに、俺のランクポイントは1700ぐらい。
正直、やばいかもしれない。




