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プロローグ
わたしが小学二年生のころ、両親が死んだ。
駆け落ちして一緒になった両親には親戚などなく、三人ぽっちの家族はあっという間に一人ぼっちになった。
お葬式の後、祖父だという人が来て「行きたいところを選べ」と言った。後になって、その人も選択肢の一つだったことを知ったけど、その頃は他にどこも、他の誰も知らなかったわたしの行き先は先生のところ以外になかった。自発的に選んだというよりは、わたしにほかの答えなど用意されていなかった。
先生は、わたしが三歳のころからわたしのピアノの先生だった。
先生はわたしに言った。
「私は君の親になるつもりはないよ」
「わかってる」
たとえ誰に育てられても、わたしの両親はわたしのパパとママ以外に戸籍上あり得ないし、元よりわたしは先生にそんなこと望んでなかった。
わたしにとって、必要なのは「家」であって、「家族」ではなかったから。