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第2話 クラス

第2話目です。

 俺は、教室で椅子に座り、その光景を眺めている。目の前にはかつての友人ーーいや、友人と呼べる程親しくはなかったため、知人と呼ぶのが正しいのだろうか。その知人達は、もう既に息を引き取っている。

 壁や天井には血が飛び散り、床には内臓や千切れた体の一部が転がっている。その上の、体を血で濡らした異形の化け物がこちらを見ている。

 巨大な蜘蛛のようなソレ(化け物)は、毛の生えた8本の脚を動かしこちらへ動いてくる。蜘蛛の体に加えて生えている翼は、翼としての役割は果たしていないのか、地面に引きずられている。目の前まで近づいてきているソレ(化け物)が、まるで人間ような口を開けている。

 そんな中、俺はーーーー




 身を覚ますとカーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。昼寝のつもりが朝まで寝てしまったようだ。


(また、この夢か…)


 今日、この日には毎回見続けている夢。何度も見ているため、流石に慣れたようで、初めての時のように飛び起きることはなくなった。

 俺はベッドから起き上がると、軽く体を伸ばし、時刻を確認した。

 7時40分。

 ジャージから制服に着替え、顔を洗う。


「さてと、朝飯にするか。」


 朝飯は簡単に卵とハム、トーストで済ませる。

食器を洗い、登校の用意をする。とは言っても、用意などほとんどすることはない。

 端末で時刻を確認すると8時30分を指していた。鍵を閉め、階段を降りると、俺と同じ制服を着た少女がゴミ袋を出している。


「…おはようございます。」

「あっ、おはようございます。」

「昨日からこのアパートに引っ越してきた竜口です。」

「初めまして。私は、細川ほそかわ あかねです。その制服だと、同じ学園ですよね。学年も同じようですし、一緒に行きませんか?」

「良ければお願いします。」

「ふふふ、私から言ったんですよ。鞄を取ってくるので待っていて下さい。」


 そう言い残し、茜は階段を登っていった。階段から音がして、すぐに降りてくる。


「お待たせしました。行きましょうか。」


 2人で登校すると、周りの視線が痛い。それは隣を歩いている茜のせいだろう。腰のあたりまで伸ばされた黒髪は光沢があり、朝日を反射して天使の輪ができている。大きな垂れ目は彼女の穏やかな性格に恐ろしく合っている。

 こちらを睨むかのように見ている男子には、俺や彼女と同じく、制服の一部に緑色が使われている人が多い気がした。


「竜口さん?聞いていますか?」


もっとも隣の少女が気にした様子はない。


「ごめんなさい。なんの話でしたか?」

「同じ学年なんですから、敬語はいらないって話ですよ。」

「…それは…出会ったばかりですから。」

「私とは仲良くなる気がないということでしょうか…」

「そう言うことではないですが。細川さんも敬語ですよね。」

「私は、全員に対して敬語です。子供の頃からの癖といいますか。」

「…細川さんは誰とも仲良くなる気がないと言うことですか?」

「そうじゃないですよ!うぅっ、竜口さんは意地悪です…」

「そんなことはないと思いますけど。

「じゃあ、私も名前で呼びます…から…あれ?私、竜口さんの名前を教えて貰いましたか?」

「確か…言ってないですね。」

「名前はなんと言うのですか?」

「…竜口のままでいいですよ。」

「…やっぱり…」

「涙目にならないで下さい。周りの視線が痛いです。」


 視線だけでも周りの人達から批難されているのがわかる。


「…若那です。」

「若那、君ですか。なんと言うか、その…」

「女の名前みたいですよね。」

「確かにそうですけど…なんだか、優しい感じがして似合っていると思いますよ。」

「では、若那君。改めてよろしくお願いします。」

「はい。こちらこそよろしくお願いします、細川さん。」

「ですから、私の事も名前で呼んで下さい!」


 結局、学園に着くまでには細川さんのことを茜さんと呼ぶことになった。


 校門をくぐると、昇降口の前には多くの生徒が集まっており、こちらに向けられる視線もさらに増える。


「茜さん、どうしてあんなに集まっているんですか?」

「今年のクラスが張り出されているからですよ。若那君は、転入生ですから事前に知らされていたりしますか?」

「いや、知らされてないです。」

「では、一緒に探しましょう。同じクラスになれるといいですね。」

「僕も知り合いがいた方が嬉しいです。」


 昇降口に近づき、クラス分け表を見る。1クラス30人か31人。茜さんが見やすいように他の生徒が頭を低くしたり、離れていったりしている。


「あっ、若那君!ありました!同じクラスですよ!」

茜さんは表を指差しながら嬉しそうに飛び跳ねている。人差し指で差している方向は2年3組の表。


「改めて、一年間よろしくお願いしますね、若那君!」

「はい。よろしくお願いします。」

「若那君は教室の場所を知りませんよね?こっちです。」


 昇降口で上履きに履き替え、階段を登る。


「教室の場所は学年と同じ階にあるんです。なので、私達の教室は2階なんですよ。」

「覚えやすくていいですね。」

「ふふふ、そうですね。」


 階段を登り終え、教室に入ると7割程の生徒は既に登校している。


「おはようございます。」


 茜さんが挨拶すると、数人の女生徒が近づいて来る。


「おはよ〜委員長。久し振りだね〜。」

姫城ひめぎさん、それに皆さんも、委員長だったのは去年の話ですよ。」

「でも〜、そっちの方が呼び慣れてるし〜。」


 茜さんと女生徒達が談笑しているのを眺めていると、こちらに視線が向けられる。


「ん〜?…ちょっと!委員長!?」

「ですから委員長ではないんですけど…なんですか姫城さん?」

「ちょ、ちょっと来て!」


 茜さんと姫城さんと呼ばれた女生徒は、廊下へと出ていってしまう。その場には姫城さんと共に近づいてきた女生徒と俺が残される。黒板には座席が書かれている。だが、席に着く前に声をかけられる。


「えっと…その、名前教えてもらっていい?」

「僕の名前は竜口です。」

「竜口君か。その、かっこいいね!」

「あはは、お世辞でも嬉しいです。」

「お世辞じゃないよ〜。あっ、私はかなめ 桃華ももか。こっちが間宮まみや 千尋ちひろ。」

「よろしく、竜口くん。」


 右手を差し出されるので、握手しながら答える。


「はい。よろしくお願いします。」

「ちょっと、千尋!ずるくない?」

「別に、そんなことない。」


 何故か要さんが間宮さんに詰め寄るが、間宮さんは顔を背けたままだ。


「えっと、竜口君。私とも…」


 教室の前の扉が開く。


SHR(ショートホームルーム)するから席に着いて〜。」


 入ってきたのは、昨日会った成川叶江先生。成川先生は、改めて見ると、背が高い上、スタイルもいい。現に、教室の男子は喜びの声をあげたり、鼻を伸ばしたりしていた。


「よっしゃ、今年は勝った!!」

「成川先生に、委員長に、姫城さんと同じクラス!!」

「他のクラスの奴に自慢してやる!!」

「はい、静かにして。自分の座席に戻ってね。あら?細川さんと姫城さんは?」


 2人は教室から出て行ってから戻ってきていない。すると、教室のドアが開く。


「すみませ〜ん。遅れました〜。」

「細川さんに、姫城さん。今日は大目に見ますけど、次からは遅刻ですからね。」

「は〜い。」

「はい。気をつけます。」


 2人が席に着いたのを見て、成川先生が話し始める。茜さんは俺の隣の席に腰を下ろした。茜さんは俺の視線に気づき照れ笑いを浮かべる。


「この後すぐに体育館に移動して、始業式になります。そのあと、LHRロングホームルームで本日は終了です。それじゃ、移動しますよ。」


 全員が席を立ち、廊下へ移動し始める。廊下へ移動しようとしていた茜さんが振り返る。


「若那君?行きますよ?」


俺は椅子に座ったままだ。


「あっ、はい。行きましょう。」

「?」


 茜さんに不思議がられてしまう。


 体育館に着くと、クラスごとに2列で並ぶため、隣には茜さんが並ぶ。


「この学校では、集会の時などの並び方は列になっていればいいんですよ。」

「…珍しいですね。」

「ですよね。私も初めての時は珍しくと思いましたから。一緒ですね?」


 茜さんと話していると俺の前にいた姫城さんがこちらを振り返る。


「えっと〜、竜口若那君?」

「なんですか?」

「私は、姫城ひめぎ 美空みそら。よろしくね。」

「…はい。姫城さん、よろしくお願いします。」

「…」

「…」

「えっと〜、美空でいいよ?」

「わかりました。美空さん。」

「ちょっと、待ってください。」


 美空さんと話していると、隣の茜さんが加わってくる。こちらを睨むように見てくる。


「私の時はなかなか名前で呼んでくれなかったじゃないですか。」

「まぁ、そうですね。」

「なんだかずるいです。私の事は、呼び捨てにしてください。」

「いや、それはちょっと…」

「呼び捨てにしてください。」

「ですから…」

「呼び捨てにしてください。」

「茜。」

「はい!」

「私も呼び捨てでーー」

「これより、古凪学園始業式を始めます。始めにーー」


 始業式の内容はどこでも大差なく、聞き流して過ごす。




 始業式ももう少しで終わる。内容なんて頭に入ってこない。特に変わったところなどない。

視線を校長から上に向けると、照明がふらふら揺れている。このままだと、俺か…美空さんにあたる。天井からカツンっという音がする。

 大きめの音だったため、体育館にいる全員が上を向く。照明は落ちてきている。

 美空さんの後ろからお腹に手を回す。座っているため、大した力は入らないが、美空さんが女子であることもあり、引き寄せることができる。

 美空さんが先程まで座っていたところに照明が落ちてきた。照明が大した大きさでなかったことが幸いした。この体育館がそれほど大きくないこともあり、大きな照明と小さな照明がある。今回落ちてきたのは小さい方の照明だ。

 美空さんは、抱き寄せられたごとに驚いていたが、その後すぐに自分の座っていたところに照明が落ちたと知ると震え始めた。当然だ。小さい方とはいえ、頭に当たったら死んでしまう。

 美空さんはこちらを振り返り、俺に抱き着く。体は震え、怖さからか涙を流している。こちらからも抱き返してあげると、しばらくして徐々に震えが治まってくる。周りの生徒や教師も呆然としていたが、次第に事態を飲み込み始める。


「大丈夫か!!?」


 数名の教師が生徒を掻き分けながらこちらへ向かってきていた。

クラスは最初が肝心ですよね。

若那君もヒロイン(一応)を助けてくれました。

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