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異世界は、思ったよりも楽じゃない  作者: 琥雫狐
第二章 魔王軍 セレーヌ編
8/10

6. 闇の跳梁

 人狼の里を後にして、セレーヌに帰還した俺達は、宿屋で休息をしていた。

 あれから多少の時間が経ったが、未だに疲れがとれない。

 エルザはベッドで幸せそうに眠っているし、カゲロウは俺から離れようとしない。カストリアは…酒に溺れて熟睡中だ。

「というかカゲロウ、暑い」

 俺が彼女を引き剥がそうとするが、流石は人狼、俺ごときの力ではビクともしない。

「今、起きているのは私達だけなんだよ?」

「だからどした?」

「決まってるじゃん…タクトきゅんを襲うチャンスだっ!」

 カゲロウは俺から手を放すと、俺に飛び付こうとしてきた。

 だが…甘い、甘いぞカゲロウ。

「クレイト」

 俺は一瞬の隙をついて、魔法を唱えた。

 クレイトは相手を沈黙させるデバフ魔法だ。本来は魔法の詠唱を妨害するのに使われるが、どうやら本物の沈黙状態にできるらしい。

 要は、強制的に黙らせることができるわけだ。

 便利だ、便利すぎるぞクレイト。

 因みに少々金はかかったが、気にしない気にしない。

「~~~っ!」

 カゲロウが何かを伝えようと、必死にジェスチャーする。

 だが俺はそれを無視し、眠ろうと横になった。

 その時ーーー。

「~~~!」

 カゲロウが俺にのしかかってきた。

 見ようによっては俺が彼女に床ドンされてる状態だ。

「ちょっ、おいっ、何を…」

「ハァ…ハァ…」

 カゲロウは恍惚とした表情で俺を見詰めている。息も荒い。

 様々な要因を考えて、この場を逃げることができない俺の気持ちを考えろ…。

 というか、クレイトに効き目切れてないか?

「タクトきゅん」

「あ?」

「このまま…襲っていい?」

「いいって言うと思う?」

 俺は声のトーンを低くして応えた。

「え、言わないの?」

 こ、こいつ…。

「今殺気が湧いたぞ」

「ちぇっ…」

 そのままカゲロウは…カゲロウは俺の胸に顔をうずくめた。

 効果音をつけるなら、ボスッて感じだな。

 普通はそんな音出ないけどな。

「タクトきゅーん…」

「……」

 俺は無視した。

 しかし、カゲロウはそれを気にせずに続けた。

「タクトきゅんの鼓動が、気持ちいいよぉ…」

 俺は無視した。大事なことなので二回言った。

 こんな状況で我ながら呑気だとは思うが、睡魔に身を任せて眠ることにした。


**********************


「どうした?」

 俺はただただ空を見詰めている女性に尋ねた。

「いや…カゲに逢いたいなぁって」

「…流石はシスコン」

「同類の貴方に言われたくない」

「何も言えない」

 俺にはかわいい妹がいる。名前はエルザという。

 過去に魔王軍の第三大隊長を勤めていたが、現在は我々を裏切って敵側についている。

 はっきり言って俺は彼女側につきたかったが、どうしてもそれができない理由がある。

 エルザといると、俺の欲望が抑えられないのだっ!

「それにしても…よくこんな塔を建てたねぇ」

 彼女が柵から身を乗り出して見下ろした。

「これが俺の魔法の力さっ」

「はいはい…あまり調子に乗らないでよ、"ステラ"」

「分かってるって」


**********************


「うーむ…」

 俺は今、クエストボードとにらめっこしていた。

 魔王軍関連のクエストを探していたら、偶然、砂漠の塔を攻略するクエストを発見したのだ。

「砂漠に塔…これは…」

 どうしたよ、エルザ。

「十中八九兄貴の仕業ですねっ」

「お前、兄貴いたのか」

 エルザの兄か…嫌な予感しかしねぇ。

「どうせシスコンとかその類いだろ」

「よくわかりましたね。妹としてはずかしいです…」

 エルザがため息を吐く。

 まぁ…その気持ちは分からなくもないさ。

 シスコンとかブラコンって、めんどくさいよなぁ…。

「砂漠の塔、ねぇ…塔ってだけで怠いけど。どうする?」

「それはもう、兄貴を成敗するしかないですよ」

 エルザはそう言ってクエストボードから紙を引き剥がすと、カウンターに持っていった。

「クエストは決まったか?」

 カストリアが質問するので俺は、

「…砂漠の塔」

と呟いた。

「塔…だと…」

「分かる、分かるぞその気持ち」

 でも仕方ないんだ。

 エルザの兄貴を懲らしめるため(らしい)なんだ。

 ここは耐えろ、耐えるんだカストリア!

「なんで、そんな面倒なクエストにしたんだ!?」

「…言うなよ」

 まぁ、言いたい気持ちはわかるけどさ。

 その後、色々準備をして砂漠へ向かった……。

「砂漠ってどっち?どこ?」

「そこからですか…」

 なんか我ながら心配だぞ、これ。

 エルザ曰く、山とは反対の方角らしい。

 そして、洞窟を越えなければならない。

 これは…これは…。

 想像以上に面倒なクエストだぞ…。


**********************


「ステラ様、偵察団から報告です!セレーヌより冒険者がこちらへ向かっているそうです!」

「ほう…その中に、エルザはいるか?」

「少なくとも似ている人物は確認されたそうです!」

 ついに来たか、エルザよ…。

「全勢力を以て迎え撃て。それから、その少女は殺さずに捕らえろ」

「了解しました!」

 さぁ、来るがいい冒険者。

 貴様らはこの俺が…ステラ様が消炭にしてやる…!

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