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異世界は、思ったよりも楽じゃない  作者: 琥雫狐
第二章 魔王軍 セレーヌ編
5/10

4. 狼人族

 今更だが魔王とか魔王軍とか、ありきたりな設定だと思う

 ラノベとかゲームでは定番の設定だ…これはリアルなんだぞ。

 因みに俺はアルフレッドを倒した時に、奴等に目をつけられたらしい。

 お陰でセレーヌ周辺では奴等の襲撃が相次ぎ、その度に俺とエルザは現地へ駆り出された。

 さて、問題はカストリアだ。

 体駆は幼女のくせに酒を飲み、口調は上から目線。

 おまけにこいつ、戦おうとしない。

 ロリのニートとか、ロリコンでもない限り養おうとは思わんだろ。

 俺はロリコンじゃないぞ。

「うーん…」

 そんなことを考えながら、俺はクエストボードを凝視していた。

 次は狼人族の集落で襲撃があったらしい。

 だが俺はそんなことよりも、狼人族というワードが気になった。

 亜人がいるのか、流石は異世界。

 是非一度会ってみたい。

 そういうわけで、個人的に行きたい場所でもある。

 だが受注すれば、魔王軍の撃退をしなければならない。

 非常にめんどくさい。

 …プライベートで行けばいいのか。

 あ、でも集落に行く→魔王軍いる→戦闘は必然だろうなぁ…。

 だったら報酬が多い方がいいよな。

 ということで、俺は撃退依頼を受注することにした。


**********************

        ー狼人族ー

 亜人の一種。大衆的に人狼と呼ばれ、人間と比べて腕力や脚力が強く、戦闘では攻撃性に長けている。集団で集落を作り、防衛に特化している。また、悪魔の気配に敏感である。

**********************


「人狼の集落ぅ?」

 エルザが不満げに呟く。

「なんでそんなに不機嫌なんだよ?」

 俺が尋ねるとエルザは、

「人狼は悪魔の気配に敏感なんですよ…はぁ」

と返した。

「お前、そういえば悪魔だったな」

 以前、魔王軍と戦ってた時にそんな話を聞いた気がする。

「私が悪魔だとばれたら、タクトさん達も連帯責任で殺され兼ねませんよ」

「おおう…マジかよ」

 じゃあエルザはお留守番かな?

「私も行きますよ」

「俺の心を読むなよ…しかし、ばれたら殺されるんだろ?どうやって正体を隠すつもりなんだよ?」

「認識阻害魔法を使えば、ある程度は誤魔化せるでしょう」

 そういうことか。

「危険な賭けだが、乗った」

 その後、二日酔いで寝ているカストリアを叩き起こし、例の集落へ向かうのだった。


**********************


 例の集落は山奥にあった。

 周囲は隔壁で囲まれていて、魔王軍でも侵攻は不可能だろう。

 実際、ところどころ攻撃された形跡こそあるが、貫通はしてなかった。

 門には厳重な警備が敷かれていて、正面突破は無理だろう。

 俺達は門番に身分証を見せて通過したが、門番の一人がエルザを怪訝な目で見詰めていた。

 隔壁の内側は、和を感じる村だった。

 昔の日本の村って感じだ。

「まるで極東の集落だな」

 カストリアが呟く。

 極東…って確か、欧米では日本を指す言葉だったよな。

 この世界にも、日本に当たる場所があるのか。

 世界地図とか見てみたいな。

「カストリアさんは極東に行ったこと、あるんですか?」

「過去に少し、な」

 エルザの質問に対して、彼女はそう答えた。

「極東ってどんな国なんだ?」

 俺も少し疑問を持ったので、案内所を探しながらカストリアに質問した。

「テンノウって奴が國を治めてるらしい。基本的に魔物はいない、人間と妖怪の國だ」

「妖怪か…」

 日本人としてはすごく興味のあるワードだ。

 と、そんなやり取りをしていると、人狼の少女がこちらを好奇の目で見つめていた。

 透き通った黒色の瞳で俺と同じ黒いくて艶やかな長い髪。

 道行く他の人や人狼は様々な色をしているが、黒の瞳に黒の髪を持つのは、彼女しか居なかった。

「どうしたんですか?」

 エルザが尋ねてくる。

「…あ、すまん、なんでもない」

 俺は先に行っているエルザとカストリアの方を振り向くと、

「ねぇ」

 肩の近くで、声が聞こえた。

 萌え系のアニメ声だ。

 少し驚いて、ゆっくりそっちを振り返ると、先程の少女が、吐息の届く距離まで接近していた。

「どしたの?」

 少女が小首をかしげて尋ねてくる。

 距離がすごく近いから無駄に緊張してしまう。

「あー、えっと、この村の長老?長?の家を探しているんだが」

「案内してあげようか?」

「…いいのか?」

「私も行こうと思ってたし、ついで」

 少女はそう云うと、俺の手を引いて歩き出した。

 エルザたちもその後ろをついてきた。


**********************


 集落は思いの外広くて、辿り着くまでに時間がかかった。

 少女が扉をノックもせずに開けると、

「ただいま」

と家の中に向かって呟いた。

 もしかしてこいつ、あれか?

 長の家族なのか?

「…貴女は何者ですか?」

 エルザが質問するが、彼女はただ無言で手招きした。

 全てを見透かすような、黒瞳が見詰めてくる。

 客間らしき部屋に案内され、彼女は並べられた椅子のひとつに腰かけた。

「私はカゲロウ。この集落の長の娘」

 そんな気はしたが、やっぱりそうか。

「私はエルザ、この紅い髪の人がカストリアで、黒髪の人がタクトです」

 エルザは若干不機嫌そうな表情で云った。

「そう、タクトきゅんっていうんだ」

「きゅん…?」

 わっかりやす。

 まさか最初にこっちを見詰めてたのも、そういうことなのか?

 何故かエルザはカゲロウのことを睨んでいるし、どういうことだ。

「エルザよ、嫉妬はよくないぞ」

 カストリアが云う。

 エルザが嫉妬する要素があっただろうか、甚だ疑問なんだが。

「し…嫉妬なんて、してないです」

 エルザがそっぽを向く。

「なぁ、さっきから、何でずっと俺の方をーー」

 俺が質問しようとすると、カゲロウがそれを遮って、そう発した。

「一目惚れしました」

「ーーは?」

 まてまて、今なんてーー。

「私と、交際してくれませんか?」

 カゲロウが云い放つ。一瞬の沈黙。

「なっーー!?」

 それを切ったのはエルザだった。

「一目惚れって、馬鹿なんですか?タクトさんのこと、何も知らないくせにーー」

「わかるよ、全部。年齢も、身長も、今まで何をしてきたかも、全部」

 エルザの言葉を遮って、カゲロウが反論する。

「タクトきゅん、この世界の人じゃーー」

 俺は彼女が何を言おうとしているのかを察して、彼女の口を咄嗟におさえた。

 カゲロウはそれを引き剥がすと、

「そういうことなので、交際して下さい」

改まって、そう云った。

「…まだ誰かと付き合ったりする気はないんだよなぁ」

「そう…ならその気にさせてあげるよ、私が」

 ふと、何かが俺に向けられているのに気づいた。

 それは、エルザの杖だった。

「おいお前、何をーー」

「リア充め、爆発しろぉっ!」

 その杖から魔法がはなたれるーーと思いきや、まさかの物理攻撃。

「痛っ!?」

「今日のところは、命だけは助けてあげます」

「お前、嫉妬かよ…その杖は?」

「いっぺん死にますか?」

 エルザが鬼の形相で睨んでくる。

 なるほど、今度は魔法で俺を殺そうとしてたのか。

「っておいッ!?やめろ、いますぐその杖をどけろっ!!」

 何を冷静になっているんだ俺は!?

 危うく死ぬとこだったぞ!?


**********************


 その日の晩は、長宅で寝泊まりすることになった。

「宿でよかったんだが…」

 俺がそう呟くと、エルザが反応して、

「一泊分浮くんですから、いいじゃないですか」

と的確な指摘をした。

「そうだけどさ…」

 問題はそこじゃない。

 カゲロウと同室ってことだ。

「何か不満…?」

 彼女が少し不安そうな表情で呟く。

「不満しかないんですけど」

 夜間に襲って来そうなんだよね。

 すごく不安。

「まさか、私がタクトきゅんを襲うと思ったの?」

「だから不満なんだろ…」

 俺は小さくため息をついて椅子にもたれかかった。

 するとカゲロウが俺の肩を掴んで、

「できることなら、今すぐ襲いたいっ…!」

そう云い放った。

 亜人だからか、思ったより力がつよい。

 エルザがジト目でこちらを見てくる。

 カストリア?あいつならもう酔って寝たよ。

 というかエルザさん、見てないで助けて!

 俺が目で訴えると、エルザはため息を一つ。

「離れて下さい、カゲロウさん。タクトさんが困ってます」

 エルザがカゲロウにそう指摘した。

 するとカゲロウは彼女を見るなりニヤッとして、

「ははぁん…もしかして、嫉妬?」

と返した。

 それと同時に俺の後ろに手を回して抱きついてきた。

「…してません」

 エルザは一瞬、間をおあて答えた。

「口頭では誤魔化せても、私の"眼"は誤魔化せませんよ?」

 カゲロウはニヤニヤしながらエルザに云う。

「ど、どういう意味ですか?」

 エルザが少し驚いたように反応を示す。

慧眼(えげん)と云えばわかる?」

「慧眼、ですか」

 慧眼…仏教の何かだったよーな。

「貴女のことは大体分かるよ。嫉妬してるでしょ?タクトきゅんのこと、好きでしょ?」

 カゲロウが更に云う。

「嫉妬もしてないし、好きでもないですっ!」

 しびれを切らしたように、エルザが大声で、必死に否定する。

「私が、タクトさんに気があるとでも云いたいんですか!?」

 この反応は…図星か?

 別にそんなに嬉しくはないけど。

「俺、もう寝るわ」

「一緒に寝よ、タクトきゅん」

「やだ」

 俺は少し居心地が悪くなって、寝室に向かった。


**********************


 朝起きた時、俺は違和感を感じた。

 ちょっと体が重い。

 ついでに云うと、右耳に吐息が掛かって少しゾクゾクする。

 恐る恐る右側を見やると、カゲロウが恍惚とした表情でこちらを見詰めていた。

「おはよう、タクトきゅん」

 俺は咄嗟に枕元に置いていた刀に手をかけた。

「私…タクトきゅんに斬られるなら本望だよ」

 駄目だこの娘。効かない。

 しかも抱きつかれているので、自由は奪われている。

「お前…魔王軍が近付いてきているというとに、緊張感なさすぎないか?」

「魔王軍なんて、大したことないよ」

 発言とは裏腹に、カゲロウは俺から離れて武装し始めた。

「多分今日、隔壁が破られる」

 カゲロウが呟く。

「…」

「タクトくんの力…借りるよ」

「あぁ」

 二人だけの空間に、二人の声が響き、すぐに長い静寂に包まれた。

 その静寂は痛い程に、俺達を締め付ける程に、空間を支配した。


 ーーまるで、後の出来事を暗示していたかのように。

2017/6/10 誤字訂正

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