金髪碧眼ツンデレ系少女エリザ と記号化
「まずお前は何なんだいったい?」
「ぎりぎり作家志望なんだから好きに設定しなさいよ。つくも神でも女神でも幽霊でも宇宙人でもアンドロイドでも夢オチでもタイムリーパーでも並行世界の自分でも何でもありでしょ?」
並行世界の自分だけは無しかなぁなんて暢気に思えるのは状況についていけてないだけで別にこいつを許容できているわけではない。だいたい答えになってない回答をさも答えのように返さないでくれ。
「そもそもの問題はねキャラクターが立体的じゃないことなの」
わかった口を聞いてくるじゃないか、人間かもあやしいやつが。
そういうと彼女はおもむろにパソコンのディスプレイに手をかざしぶつぶつと呟き始める。
日本人離れした容姿で何語だかもわからない言語を唱えているのは絵になるなぁなどと間の抜けたことを考えていると
「えいっ」
あろうことかこいつはディスプレイに手を突っ込みやがった。
「ちょっとおいっ!お前いきなり何を」
そんなおれの悲鳴もなんのその
すぽんという妙な音とともに彼女が画面から取り出したのはおれが最初に作ったキャラクター、金髪ツンデレ系ヒロインのエリザだった。
そのどんなもんだいみたいな顔でこっちを見ないでほしい、あと何かをする前にそういうことは言ってほしい。切実に……。
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「お前そういうことができるなら最初にいってくれよ」
「びっくりしたでしょ」
彼女は得意げにそう言ってくる。
へっへーというこいつの鼻息までいまなら可視化できる気がする。
しかし改めて目をやるとどこからどう見ても自分が書いている似非ライトノベルのヒロインの一人エリザだ。金髪碧眼のハーフ、身長はおれより少し低いくらいでスタイルがよくエルフと見間違うかのような美貌、強気なひとみは意志の強さを感じさせる。
「確かにすごいがこれでいったい何がわかるんだ?」
「別にあんたのことなんか全然好きじゃないんだからねっ」
は?エリザの方から声がする。
「何勘違いしてんの、そんなにこっち見ないでよ!」
響くきつめのソプラノボイス。おれのイメージしていたエリザの声そのものだ。
「あんたのことなんて全然好きじゃないんだからねっ!」
こいつ……しゃべるぞ……。
「うわっ!!なんだよこれ」
パソコンから引っ張り出してきたエリザがしゃべりだした、展開がいきなりすぎてついていけない。なんかもう手遅れな気がしてきた。
「ちょっとちょっと誰が出したと思ってるの、そんじょそこらのちんちくりんが出したものとはわけが違うわよ」
俺からしたら身長が150にも届かなそうなこいつはどこをどう贔屓したってちんちくりん以外の何物でもない。見くびってもらっては困るとばかりにこいつは腰に手をあててちっちっちーと指を振っている。
「いい、こいつはあなたが作ったキャラクターそのものよ?今から出しっぱなしにしておくから出来るだけ何かを吸収して作品に反映させなさい」
正直尊大で横柄なこいつの態度にはいらっとさせられるし、なんでお前の言うことなんか聞かなきゃいけないんだよと文句の一つも言いたくなるがエリザまで出してくれちゃったらもう嬉しすぎて色々吹っ飛びそうだ。自分の考えたキャラが映像化され動くなんてのは全クリエイターの夢だ。それが作家にもなってないような自分みたいなやつのキャラが動いてる。いやぁエリザかわいいなぁ。
「なにあほ面ぶらさげてんの?そんなことをのために出してやったんじゃないわよ。どう?違和感ない?」
違和感、はてそういえば自分の想像していたよりも胸が若干小さい気がする。
「バカ、現実世界でのEカップなんてそんなもんよ」
うわ、何この童貞汚いし服のセンスないみたいな目でこっちを見ないでほしい。
「今のあんたじゃそんなもんでしょ、とりあえずいまからその娘とデートしてきなさい」
オンドゥル語なんて使われても翻訳できないぞ、いきなり何を言ってるんだこいつは。だいたい7月だ、暑苦しくて外になんか出られるか。そんなに生きたけりゃお前が言ってこいよ と言おうとしたその瞬間
タクトをふる指揮者のごとく彼女はその白い右手を優雅にあげる。するとそこにディスプレイから光の線が伸びていき彼女の手首の周りにリングができ始めた。彼女の手首をくるくるとまわる文字列、その列はおれが妙に慣れ親しんだサイトのURLに見えなくもない。
ん?見慣れすぎたURL?
おい、ちょっと待て
今こいつが起こせる最悪の事態を予想して頭を抱え込む。
「やめてえええええええええええええ」
「うっかり手を滑らせてあんたの携帯かパソコンから連絡先リストにこのURLが飛んだら、あとはわかるわね?」
容姿がいい奴は人を脅していても絵になるなぁなんて諦めながらおれはこの少女に逆らえないことを悟った。もうとっくに手遅れだった。
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