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エゾムラサキ・ストーム

「はじめまして」

きいいいいいんマイクのはうったような音がした。ところどころ音量が違いノイズを帯びている。はじめましてというよりほとんど、っあぎめましたぁに聞こえる。目の前には仁王立ちをしたロングヘアーの美少女。その髪の色は瑠璃色よりも薄く浅葱色よりも青い、なんだっただろうかあの色は。服は黒の肩だしニットにミニスカートなんてこころ踊る組み合わせをしていらっしゃる。高校をちょくちょくさぼりながらライトノベルとネット小説と漫画をあさる日々を過ごしているうちにとうとうこんな夢まで見る始末だ。本当に勘弁してほしい。

「あーあー、これ聞こえてる?ちゃんと入ってる?」

なんだよ入ってるって?マイクかよ

「なんだ聞こえてるんじゃない」


それならさっさと言えよと少女は不満げな顔を向けてくる。美人は得だな、顔が不満げなのに男は全然不愉快にならない。まあいい、せっかくの夢なんだから自作で投稿している小説のネタにでもさせてもらおう。


「ネタで小説に使おうなんて思ってても無駄よ、そもそもあんたが書いてるものは作品の構成に必要な要素が絶対的に足りてないもの」

かちんときた、これでも一応はワナビの端くれだ。投稿作品だって多くないし基本的に読んでばっかりだし完結作品なんて一つたりともない上にライトノベルにとってお約束とも言えるハーレムものが書けないという体たらく。それでもいきなり頭ごなしに叩かれるなんてもってのほかだ。というより

「だいたいなんでお前、おれが小説書いてるの知ってるんだよ」

夢なのにえらく変な会話してるなとひねくれた考えをしながら聞いてみる。

学校の友達には一人も言ってないはずだ。投稿コミュやツイッター、掲示板でワナビ仲間と絡むことはあるがリアバレするような書きこみはしてない。

「そんなことどうでもいいでしょ、何が問題かこれから教えてあげる」

覚悟しなさいとばかりにその日本人離れした美少女は不気味な笑みを浮かべる。どう見ても魚を見つけたぜと嬉々している熊にしか見えなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ところでここはどこだ?」

真っ白い空間が広がるばかりであたりに何もない。脳内妄想の限界といったところか手抜きのオンパレードである。

「ああ、ここじゃパソコンも携帯もないわね。場所を変えましょ」

ぱちんという乾いた音とともに瞬きをした瞬間そこは見慣れた自分の部屋になっていた。テーブルには飲みかけの麦茶とつけっぱなしのパソコンが置いてあり、そういえば書いてる途中に寝落ちしてしまったんだなと思い出す。

「これが書き途中のやつね」

横を見れば偉そうな美少女が評論家よろしくあごを手にあてながらうんうん唸っている。


「しかしこれまたひっどいわね」

取り付く島もない、歯に衣着せぬヘッドショットだ。

「描写がなってないし、知識も足りていないし、ギャグもさむいし、あと基本的に地の文で設定を説明しすぎてるわ」

さすがに自分の夢でもここまでにべもなく、のべつ幕無しに罵倒されるのは我慢ならない。気にしてるんだからやめてくれ。

「おいお前いい加減にっ」

「何より一番の問題はキャラクターを記号化させすぎて抽象度があがっている点ね、いい?よく聞きなさい?物語を描くなんてのは基本的にただのオナニーなの」


ここにきてようやく、ぐしゅりと現実が実体化して胸を刺してきたかのような感覚に襲われる。

待て、そもそもなんだこの流れるようなボキャブラリーは。おれはこんなキャラクターを妄想した覚えはないし自分の知ってる作品にこんなやつはいない。というかこんなに強烈なインパクトのあるキャラを作れていたらとっくに自分の作品に登場させている。


「別に崇高でも偉大でもないし才能があるわけでもない、自分は特別だなんて思いこみたい人たちがしているだけ。でもね自分だけ楽しければいいなんてのは嘘、誰かに見てもらいたいからこういうところに投稿してるし、授業中も携帯いじりながら感想とかレビュー待ってるんでしょ?一番誰かに認められたいくせに認められたくないなんて言い張るのは認められたいって言うよりもみっともないのよ」

確かにおれはハーレム系ライトノベルがうまくかけずに悩んでた。書けずに仕方がないからと言って別のジャンルのものを書いたり詩や短編を並べてお茶を濁していた。だからと言ってなぜこいつはこうまで詳しく知っている。作家志望にとって一番デリケートな部分だ。頭の中をのぞきこまれているみたいで手汗が止まらない。


「まずはオナニーでいいの、だから質の高いオナニーをしなさい」

おっさんみたいな調子でそんな下品な言葉を飛ばしながら輝くように彼女は言い放った。


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