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次の街へ

エタってないですよー

 ムシャクシャしてやった。今は反省している。

 そんな冗談を吐きながら寝ようと思ったソウだが、あいにくこの日は千夜から上手く離れることができず、一日のPKノルマを達成できなかった。明日頑張ればいいかと思えば、なんだか悪い予感がした。これは夏休みの宿題に似ている。夏休み前は『一日何ページ』と決めて計画的に消化できるような構想を立てる。けれど、何らかの事情があってノルマを達成できなかった時、その分を翌日に繰り越してしまう。そんなことをしていると、計画なんてどこへやら、破たんして最終日前日に地獄を見ることになる。


「ヤバいじゃん」


 PKできず、生還できない未来まで見えた。ヤバい、死ぬ、どうしよう。

 時刻は11時過ぎ。あの後、スズランと合流してから三人でモンスター狩りをして、へとへとになってから宿屋にたどり着いたのだ。スズランと千夜は同じ宿の別室にいる。同室にしようというスズランの意味不明な提案を丁重にお断りして、布団にダイブした今。


「明日から頑張ろう」


 ニートはこんな気持ちなんだ。考えるのまで面倒くさくなる。

 それに、明日はちょっと早い。早めにゲンブを出てスズランと千夜と一緒に北東にある街、ウシトラまで行かなきゃいけない。ソウはVR内の不動産に興味はないが、今までメンテ中で侵入不可能だったエリア自体には興味がある。興味本位で集まってくる弱小プレイヤーもいるだろうから、それを集中して狙っていこう。


 こうやって日々のノルマを早々に疎かにしたり、微妙にやる気が下がってきているのはなぜだろう? ソウはぼんやり考えてみた。正義感だけで動くほど熱血な人間でもないし、リスクを考えずに危険に飛び込むバカでもないはずだ。


「あーそうか。紅輝がいるんだった」


 実家にはいない、全寮制高校にいる一つ年下の弟を思い出した。まだ大学の合格発表が出てない時に紅輝から送られた一通のメール、「俺も当選した。一緒にゲームしようぜw」。たぶん、紅輝がいるからというのも理由の一つだったのだろう。助けたいのと、一緒にゲームしたい。紅輝は頭もいいし運動もまあまあできる、何よりイケメンでソウより友達がたくさんいる……多分。ゲームなんかで死なせたくなかった。「俺が助け出す」なんて気概にあふれているわけではないが。


「何やってんのかなぁ……」


 アラームをセットして目を閉じる。ギルティ・ストライカーズは脳への負担が大きいゲームなので、睡眠時間も多めの方がいい。特に明日は朝早いのだ。


◇◆◇◆◇◆


 人間、睡眠からはどうやって目覚めるのだろう? 原因ではない、目覚め方のことだ。例えば、目覚ましで起きる人はまず初めに手が動く。そして、音を頼りに手だけで目覚ましを探すことも多々あるだろう。体内時計が正確な人は上体を起こし、体を伸ばしてあくび……なんてのもよくあるパターンだ。

 ではソウはどのタイプか。彼は目から起きるタイプだ。体を動かさず、目だけをゆっくり開けて、それから体に朝だと告げる。

 体を起こしてから目覚めたならこんなことにはならなかったはずだ。また、そうでなくても身じろぎするだけでも、こんなビックリドッキリ朝スッキリにはならなかったと思う。いや、むしろこのせいで朝はスッキリしないかもしれない。


「…………」

「……わっ……!?」


 見知ったポニーテールがそこにいる。ベッドに横たわるソウと、その顔を凝視していた千夜。見つめあうこと数秒、千夜が真っ赤になって後ずさった。

 いや、驚いたのはこっちだよ、なんでここにいるのどうやって入ったのなんで顔を見てたの……と、そんな疑問がふつうは浮かぶだろうが、あいにくソウは朝に弱かった。夢の中で出てきた謎の疑問、野球とサッカーどっちが強いのかという答えを見つけるのに頭を使っていたからだ。とりあえず、競技人口的にはサッカーの勝ち、だがハットトリックと満塁ホームランでは3点と4点だから野球の勝ち。だがボール同士を衝突したら……わからない。しかたない、野球場とサッカー場(どちらも屋根付き)を衝突させてみれば答えが出るのではないか? より原形をとどめた方が勝ち……というところまで考えて、我に返った。何考えてんだ、俺は。

 とりあえず、落ち着くために目を閉じる……もとい、二度寝を始める。朝を着たら目の前に美少女が! そんな展開だろうが関係ない、今は野球とサッカーどっちが強いかの疑問に忙しいのだちがうそうじゃない。


「いや、違うだろう」


 今日は朝から用事があるんだ。二度寝はよくない。ソウは体を起こし、脳を覚醒させる。ベッドの横には口をパクパクさせて目を泳がせて尻餅をついている千夜。

 ふとここで疑問が起こった。野球とサッカー……ちがう、これじゃない。


「なんで千夜がここに? カギは?」

「えっと、そろそろ朝ご飯食べようと思って、ついでに誘ってあげようかと思って……」

「カギは?」

「かかってなかったわよ?」


 あれー? おかしいなぁ……。イエローカードで警告試合? ちがう。だめだ、まだ脳が覚醒していない。

 そういえば、とソウぼんやりおもいだす。廊下と部屋、外とホテルなど、この世界では空間が隔離されることはなく、全部がつながっていた。ではそこで鍵を閉めないとどうなるか? 簡単に侵入できる。

 いや、だからって勝手に人の部屋に侵入するか?


「鍵が開いているから変だと思ったのよ……何も悪気があったわけじゃないし、むしろ心配して――いやっ、全然心配なんかしてないわよ!? 不用心だと思っただけッ!!」


 おかしい。なぜか怒られている。ただ寝てただけで怒られるとはこれいかに? そうか、朝だから……それもいつもより早い朝だ。だからこうなっているんだ。朝が悪い。昼が来ればいいのに。

 そういえば、朝と昼ってどっちが強いのか……? と、謎の疑問が再び浮かび、まだ自分が寝ぼけているのだということを自覚する。強いってなんだよ意味わからん。


 千夜に先に行っておくように告げ、身支度を始める。シャワーを浴びながら、水の画像処理的なものはいったいどうなっているのだろうという疑問も浮かんだ。コンピューターのことに特別詳しいといおうわけではないので、答えは出ないが、改めてこのゲームの世界の完成度に舌を巻いた。

 身支度はすぐに終わった。何より、着替えにかける時間が10秒とかからなかったのだ。さすがはゲーム、現実ではできないことを平然とやってのける! そこにしびれる憧れるぅ!!


 部屋を出るときにはすでに脳は覚醒していた。と同時に、先ほど千夜に寝ぼけて変なことを口にしてないか少し心配になった。まぁそんなこと気にしても仕方なくはないが、今更問いただす気にはなれないのでスルー。

 宿の前ではすでにスズランと千夜の二人は準備ができているようだった。装備は整っているし、何か作業をしている様子もない。本当にソウが来たらすぐに出発できる状態らしい。


「すいません。遅れました」


 昨夜決めた約束の時間より十分早くても、人を待たせたことには変わりはない。けどなんで二人ともこんな朝早く起きれるかが不思議だ。朝早く起きて早めに待ち合わせ場所に来ていることで立派な人間をアピールしたいのか。……そんなことはないってわかっている。二人は普通に立派なだけだ。ソウがひねくれているだけなのだ。それと、朝嫌い。朝の起床ってマゾゲーだと思う。


「はいこれ。フィールドを歩きながら食べよ」

「なんですかこれ? サンドイッチ?」

「そ、待ってる間に買ってきた。あ、お代はいいよ。ここまで付き合ってくれたお礼」

「いただきます」


 スズランからサンドイッチの入った紙袋を受け、歩き出す。ツナサンドだった。ソウはあまりツナサンドは好きではない。どうせならBLT(ベーコンレタストマト)が良かったが、人からもらったものに文句をつける気はないので、黙っていただく。

 サンドイッチにはいろいろな味があるが、ソウは基本的にレタスが入っているものが好きだ。レタスが入っていなくても、野菜が入っているものなら積極的に食べる。次に好きなのが肉。照り焼きチキンやベーコン、ローストビーフが入っていたら食欲をそそられる。そこを考えると、タマゴサンドやツナサンドというサンドイッチは立ち位置が微妙なのだ。個人的な好みの中には入らないし、食欲をそそられる食材というわけではない。

 待てよ……料理というものは食材が同じものなら、調理法によって美味い不味いが決定されるはずだ。いや、決定される。なら、サンドイッチのツナやタマゴもアレンジ一つで劇的に変わることができるはずだ。例えば、タマゴにジャガイモを混ぜてポテトサラダ風にするとかどうだろう? 野菜が入るわけでも食欲をそそられるわけでもないが、炭水化物×炭水化物というコンボに外れはないはずだ。じゃあツナはどうする? ツナといえばおにぎりの具にツナマヨがあるけど、あれは個人的に嫌いなんだよなぁ。お米とマヨネーズとかありえない。


「えー、でもツナマヨのおにぎり美味しいよ」

「ん……あれ?」


 突然スズランの声が聞こえ、ソウはどっぷりはまった思考の海から我に返る。

 あれー? いつの間に口に出していた? 記憶がないぞ……。


「調理法がどうのこうのってあたりかな」


 結構聞いてらしたのね。


「でもさ、料理を作っても、調理する人が違うと全然違う味になることってあるよね。お姉ちゃんの料理ってなぜだかすごくおいしいし……」

「スズランさんは料理するんですか?」

「うん。私もち-ちゃんもするよー」

「なんであんなにおいしく作れるの?」

「可愛い妹への愛が詰まっているからさッ!」

「そんなにおいしいなら、いつか食べてみたいですねー」

「いいわよー。この世界から出たらまた会いたいし。ちーちゃんはどう?」

「わ、私は……うん。会いたいかも」


 ソウが視線を向けると、ふいっとそっぽを向かれてしまった。何か機嫌を損ねることでも言ったのかと不安になるが、心当たりがない。


 しばらく歩くと、向かう先に長く続く壁と人だかり。ウシトラの街への門だ。おそらく、まだ開放されていないのだろう。時計を見れば、予定されていたメンテナンス終了時刻まであと1分弱。まだかまだかとプレイヤーはその時を待つ。

 ここにいるプレイヤーを一気にPKしていけば後々楽になるだろうなぁ……。

 ぼんやり考えるも、それが不可能だということはすぐ分かる。

 ここでPKを始めても返り討ちにされる未来しか見えない。《マーダー・ホリック》があるとはいえ、人数が多すぎる。何人か仲間がいないと無理だ。巷のMMORPGではプレイヤーキルを好んで行うプレイヤー、集団がいるらしいが、このギルティ・クラウンじゃあそれが現実の死に直結している以上、いるとは思えない。プレイヤーキルされることが脱出条件だという情報が広まればいいのだが、そんなことは夢物語だ。

 

 と、そこへ見覚えのあるような顔が視界によぎった。

 いやいやここはゲームの中。他人の空似。顔なんて改変されている……と思ったが、プレイヤーの顔はヘッドギアが直接読み取って構築していく仕様なので、現実世界とゲームの世界の顔はほぼ一緒だということを思い出す。

 その男もこちらに気が付いたようで、驚いた顔をし、大きく手を振る。


「じゃあ、俺はここで」

「え、どうしたの?」

「うん。用ができた。そっちも用が済んだらメッセージで連絡して」

「そう? じゃあ終わったら連絡するよ」

「はい。では……」


 千夜とスズランさんには不動産(?)を買うという用がある。ソウにはソウの用事ができたので、一旦ここで別れることになる。

 ソウはグループの中心で談笑する男に向かって歩く。男もグループから離れて、ソウと対峙した。


「よ、紅輝。やっぱりゲームしてたか」

「大学合格したってね。おめでとうソウちゃん。あと、ゲーム名はコウだから。リアルネームで呼ばないでね」


 世界は狭いものだとつくづく思う。

 一つ下の弟の紅輝……コウがいた。憎らしいほど完璧な……それでいて、自慢の弟。

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