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希望  作者: 酒井順
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1-2 保護室 1-3 閉鎖病棟

1-2 保護室


 ついこの前のことだったが、正月を迎えた。今年の正月だったが、その時は正月の実感が湧かなかった。3月になって気が付いたのだが今度の8月が来ると54歳になってしまう。そして、その次は来年の正月を迎える。このように時間は順番にやってくる。

 数日前に病院の相談室らしきところに相談に行った。要件は別の病院を紹介してくれという切実な思いだったが、結局その病院で治療の継続を続けることになった。それを受け入れた理由はと考えると、自分の主張を押し通してもいい結果が産まれる見通しが低かったからである。つまり主張の自信がかなり貧弱な状態だったのである。

 5年ほど前にアルコール依存症と診断されて入院することになったが、その時はさほど深刻ではなかった。喜び7分落胆3分の心境で、ようやく体調不良や精神混乱の原因がわかったという先行きに希望の光が見えたような気がしたのであった。確かにアルコール依存症は自慢のできる病ではなかったが、その時は周囲の目よりも自分の状態を知り得たことがすばらしく嬉しかったのである。

 1回目となる入院は2ヶ月間の予定であった。入院して3日間くらいは保護室という独房に押し込められて不自由だなと最初は思っていたが、さにあらずわたしの場合はかなり自由だったようである。通常保護室は鍵のかかった個室で室内にトイレもあったのだが、何故か私の部屋には鍵がかかっておらず、出入りは比較的自由だったようだ。

 保護室での日中はなんとか気丈に過ごすことができたが、夜になるとどうしても眠れないのが辛かった。眠剤も服用したがなんの効き目もなく、薬に八つ当たり的な思いも持ったような気もする。眠剤が効かないのは精神状態が眠剤に勝るほど興奮しているからと説明を受けたが、これには異論があった。どうして眠れないかというと目が瞑れないからであった。目を開けたまま眠ることはできたかもしれないが、残念ながらそういう技術は持っていなかった。何故目を瞑れないかというと、瞑ると映像が飛び込んでくるのである。その映像は脈略のないもので時としてお笑いのTV場面であったりサッカーの試合であったりした。猫の大群が横切ったこともある。このことを主治医に訴えたと記憶しているが、聞いてもらえなかった。カルテにも残っていないと思う。最近まではこういうことの積み重ねによりずいぶん人間不信に陥っていたが、そうではないと気が付いた。わたし以外の人にもなんらかの事情や理由があるのだと思うようになった。例えわたしが理不尽だと思っても、そこにはなんらかの事情があるはずである。だからといって許せるかというとそれはまだできない。喜ばしいのは人間不信が幾分緩和されたことでずいぶん気が楽になっている。


 因みに目を瞑ると映像が飛び込んでくる症状にフラッシュバックがあるようだが、これは実際に体験した酷く辛いことが映像として思い出される追体験で、わたしのように脈絡のない映像が映るわけではないようである。

1-3 閉鎖病棟


 保護室を出る日が来て、一般病棟に引っ越しをすることになった。引っ越しといっても持ち物はバッグ1つでそれも病院が預かっている。バッグの中には着換えなどが入っているだけでそれにはなんの頓着もなかったが、大事にしていた手持ちのタバコがなくなろうとしていた。お酒は飲めないのだろうからタバコだけは死守しようと固く誓って気が付いた。財布はどこだろう。財布はバッグの中にあって一安心とタバコを買いに行こうと思った。病院だから売店があるはずだ。「ちょっとタバコ買ってきま~す」あれっ、ドアが開かない。看護師さんが飛び出してきて優しく説明をしてくれた。

「まだ山田(とりあえず仮名)さんは外出できませんよ。それに病院の売店ではタバコは売っていません」

 わたしの居る病棟は閉鎖病棟だった。ドアには鍵がかかっていて、窓には鉄格子のようなものが嵌められていた。わたしが引っ越した部屋は4人部屋で、一人の人が「こんなところに閉じ込められるのは嫌だ~」と訴えていたが、わたしは閉鎖病棟にはそれほど不満なく、当面の問題はタバコの補充だけであった。幸運なことに隣のベッドの人がタバコを譲ってくれると言った。そして、タバコの購入は1週間に1回売り子さんが来てそこから買えるようである。痛かった胃も薬でおさまり、何不自由のない入院生活が始まると思っていた。

 病室で寛いでいると、看護師さんがやってきて「山田さん、ちょっといいですか」と言う。わたしは、いいですよと言った。10分くらいしてから、嫌だと言えばよかったと後悔したが後の祭りとなった。看護師はわたしのこれからの病院生活のスケジュールを説明し始めたのだ。日曜日と赤い旗の日以外はぎっちりと予定が組まれていて「これじゃ、なんのための入院だ~」と思ってしまったが、よく考えるとわたしは治療のために入院したのであった。

 ダメ押しとばかりにタバコと財布は、看護師さん預かりとなった。看護師さんの許可無しにタバコが吸えなくなった。


 入院生活は、比較的快適であった。3度の食事が据え膳上げ膳で提供されて不自由なことなど何もなかった。と記憶している。いや、そう感じているだけかもしれない。実はこの時の1回目の入院のことがほとんど思い出せない。先日の相談の時知ったが、入院は2009年の11月のことだったようだ。昔のことのように感じていたが、5年余り前のことだと知っていささか驚いている。


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