口説いてるの?
ヤツは3杯目のブランデーを飲み干して、小皿の縁を指でなぞりながら、私を見ずに話した。
「今まで付き合ってた人も、なかなか俺の方が心開けなくてさ。付き合ってたと言えるかどうか」
なんでこんな話になったのかしら。高校の頃からの腐れ縁で、私もコイツもそれぞれ別の人と普通に付き合ったりして、2年以上音沙汰がなかったりして、30歳も過ぎて、周りはみんな結婚して、久しぶりに会って、で、なんでこんな話になったのかしら。
「ふーん……」
そうとしか言いようがない。
「お前となら本音で話せるんだけどね」
何それ。
「…バカ。知らないよ」
お酒が強くて、人当たりが良くて、それにごまかされちゃうけどコイツはなかなか素を見せない。
「何、お前、口説いてんの?」
どこをどう聞いたらそうなるのよ。お調子者でノリばかりいい。
なんだか自分の状況が情けなくて泣けてきた。
「おい、泣いてんの? え…、どうした?」
そのくせ小心者。不器用で、古風で、それから、それから…。
「悪かったよ。俺が悪かった」
気持ち悪いぐらい素直。
「俺が本音言えるのはお前だけだから、つい」
何それ。口説いてるの?
口説いてよ。