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プロローグ
父と兄がタクシーに乗ってしまったのにも関わらず、わたしはあや姉ちゃんの腰にしがみついて、泣きじゃくっていた。
「美咲、早くしないと……」
母がわたしの肩をたたいた。
「……手紙を書くから……書いてね」
わたしは、あや姉ちゃんを見上げながら言った。
「うん、絶対に書くから。約束ね」
あや姉ちゃんは、わたしと視線を合わせるようにかがんでから、右手の小指を差し出した。
「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本の~ます!」
小指が離れた。あや姉ちゃんはわたしの頭をクシャクシャッとなでながら、
「もう泣かないで……笑顔の美咲ちゃんが見たいな」
と言ってほほ笑んだ。
「うん……」
わたしは手の甲で涙をぬぐった。
母と一緒にタクシーに乗って、窓を開けた。
「手紙、書くから書いてね。約束だよ!」
と、わたしが言うと、タクシーが動き出した。
「うん、約束ね!」
小さくなっていくあや姉ちゃんの姿を、わたしはいつまでも見つめていた。
小学二年生の夏休みのことだった。