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二話


「ここか…」


完治してから数週間後、学校にも復帰していた春斗は放課後、学校からそれほど遠くない一件の民家に訪れていた。

それは民家、と呼ぶには少し贅沢な造りで、どちらかといえば屋敷に近い。

春斗達が住む豪邸に比べればなんてことのない屋敷ではあったが、少し庶民と感覚が似ている春斗は、そんな小さな屋敷を見上げ、感嘆の声を上げる。


少し高い位置にあるインターフォンに指を伸ばし、家主が反応してくれるのを待った。

しかし数分待った所で音沙汰がない。もう一度ゆっくりボタンを押してみるがやはり反応はなく、春斗は息を吸い込んで大声で叫んだ。


「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかー?」


しっかりと閉まった鉄格子。奥に見える洋館は公園があるような住宅街にはすこし異質で、春斗はもう一度インターフォンを押して、屋敷に向かい声を掛ける。


「すみませーーん、お留守ですかーーー?」

「磯城川高校の子?」


キッ、と春斗の背後で自転車が停止する音がして、春斗は振り返り、声を掛けてきた中年の女性を見つめた。女性は真面目そうな春斗の容姿に安堵したのか、自転車を脇に止めて春斗に近寄った。


「何の用があるのか知らないけれど…あまり大隈さんのお家に近づかない方がいいわよ?最近ろくに姿を見せてないようだし…奥さんが死んでから益々家から出なくなってね…」

「奥さん、亡くなってらっしゃるんですか?」

「そう、丁度一年ぐらい前だったかしら…事故でね」


春斗はもう一度大隈の屋敷を見上げ、やはりターゲットはここで間違いないことを確信する。

霊はきっかり一年、成仏できずにこの世に留まると春斗達が呼ぶ所の悪魔となってしまう。この屋敷には骨董品が沢山ある上、一年前妻が死んでいるとなれば危ない状況かもしれない。

海斗からもこの屋敷から悪魔の痕跡を感じると伝えられており、今日は美術館と違って容易く入り込めない以上、美術品を確認するためにやってきたのだ。


女性は春斗に大隈とはなるべく関わらないように釘を刺し、再び自転車に跨ると走り去っていった。

あの女性の反応から見て、大隈が嫌われていたというのは事実なのだろう。

春斗は女性が完全にいなくなったことを確認し、美術品はわからないままだったが、予告状を格子の間から投げ入れ、その場を後にした。







「ねえ兄さん」


帰宅した春斗は、リビングのど真ん中にバスタブを置き、お湯に浸かる海斗を見つめて、声を掛ける。

贅沢にも大理石の床に泡やお湯を(それもリビングだというのに)

溢れさせながら風呂を楽しんでいた海斗は、振り返った春斗に水鉄砲でお湯を浴びせ、不服そうな表情をした。


「んだよ、人が風呂入ってる時は自分の部屋にでも居ろよな…」

「兄さんがリビングなんかでお風呂してるからでしょ、お風呂はお風呂場で楽しんでよ!」

「でぇ、何だよ」

「大隈さんのことなのだけど…もしかして僕…会った事ある…かな?」


海斗はしばらく春斗の顔をじっと見つめていたが、やがて再び春斗の顔にお湯を浴びせるとすぐに背を向いた。


「知らね、まあ何にせよ予告状を投げ込んだ以上、警察に連絡するなりしてっだろ。美術品は見ればわかるしまあいいだろ、お前、余計なことするなよ」

「何だよ、余計なことって」

「…この前みたいに、アバラ折れた状態で絵を盗もうとするとかそういうことだよ!」


ふてくされた様にお湯をかけられた顔を拭い、春斗は再びテレビに視線を戻した。海斗はそんな春斗を一瞥し、春斗の小さな頃を思い出しながら首を振る。


(いや、まさか…春斗が小さい頃のこと覚えてるわけねぇよな…)










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