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第二章 偏屈男の壷


「あ、あーーーー」


蜜色に輝く柔らかな色、その上に絶妙にかけられたカラメルソース。

春斗の大好物である有名な菓子店のプリンを、わざわざ病室で見せびらかすように食べていた海斗は、にやりと笑って噛んだスプーンを動かした。


海の女を盗む際、派手に怪我を負ってしまった春斗は、全治数ヶ月、アバラが数本折れていて起き上がるのもやっとの状態だった。

見舞いカゴ一杯に入ったプリンが一つ、また一つと無くなってゆくのを涙目で見つめながら春斗は海斗を睨みつけた。

海斗はそんな春斗の視線など屁でもないように空のプリンのカップをくずかごに投げ入れた。


「親父が頑張ったお前にってさ、まあアバラが折れていて体も起こせないんだ、食えないんじゃあ腐らせても親父に悪いよな?」

「食べさせてくれたっていいじゃん!」

「誰がそんな寒いことするかよアホ、全部食うぞ」

「や、やめてよぉー!」


はあ、とため息をつき、噛んでいたスプーンを口から離した海斗は、ぐいっと春斗の病院着を引っつかみ引き寄せる。アバラが折れているというのに強引な海斗の行動に驚き、痛がっていると、海斗は低い声で告げる。


「これでわかっただろ、悪魔ってのは自在に姿を想像したままに出来るんだ。俺や、お前のように」

「で、でも僕たちは悪魔じゃな…」

「そうだけど、本質は、一緒なんだ」


パッ、と春斗の服から手を離し、椅子に深く座り込む。

春斗の家系は代々、ジゼルの姿をしている時だけ、特殊な力を使うことが出来た。

それは春斗が栞に変身してみせたように、自分の想像が、力となる。

力を使っている時は額にトランプのダイヤのようなマークが現れる為、ジゼルは額の出るような髪形をしているし、現在は隠れるように長い前髪を無意識にしている。

そしてその力を使って、悪を征しているのだ。


「今度お前が下手をすれば死ぬし、お前がこの力に誤れば誰かが死ぬ。わかったらしっかり仕事しろよ、次お前がもしジゼルじゃなくなったら、…」

「わかってる…雪那せつなにはこんなこと…させられないもんね…」


ガラッ、と病室の扉が開き、看護婦が現れ、回診の時間となった。

海斗は椅子から立ち上がると、適当にカゴを冷蔵庫に投げ入れ、春斗に背を向けたまま続ける。


「でもまあ、無茶はすんなよ」

「…うん」


看護婦に礼を述べながら、去り行く海斗に、嬉しそうに目を細めていた春斗だったが、海斗に振り返った看護婦がニコニコしながら尋ねた一言に、つい声を出して笑ってしまう。


「彼、弟さん?しっかりしてるわね~」


慣れた一言だったが、今は尚更、可笑しく聞こえるのだった。








「春斗ー!無事か?」


翌日、通常の面会もできるようになった春斗は、真っ先に訪れてきた慧を歓迎した。

何だかんだとはいっても、幼い頃からの友達だからか、慧も春斗の趣向などを理解している。その手には見覚えのあるプリンのカゴが握られていた。


「ほら、お前の好きなパワフルプリンくん、十個セット!」

「あ、…ありがとう慧…」


やはり彼は友人ではなく腐れ縁だ、握られていたプリンを見てそう思ったものの、春斗は少し、嬉しそうに椅子を勧めた。


「座ったら、こんな遠い病院まで悪いなぁ…」

「いいっていいって、最近ジゼルの予告もないから暇だしさ!」

「あ…えっと、うん…」


まさかジゼルが目の前で入院してるとも知らないだろうから言うのだが、そんな一言には実はバレているのでは?と時々肝を冷やされる。冷蔵庫にプリンを入れようとする慧を引き止めると、ぱっと慧のポケットから手帳が落ち、バサッ、と春斗の視界に新聞の切り抜きが舞い上がった。


「これ…ジゼルの?」

「そう、全部とってあるんだ、ファンだからな」

「そっか……ん…?」


舞い散った新聞切り抜きの一枚がふと春斗の視界に入る。ほとんどジゼルの記事に押されていたが、春斗の目に入ったのはその記事ではなく、その下に小さく載った男の写真だった。


「ねえ、この人誰?何だか見たことがあるんだけど…」

「ん?ああ、この人この近所に住んでる骨董マニアだよ、名前は大隈達也おおくまたつや。変なオジサンでさ、性格悪いことで有名なんだ。このオジサンがどうかしたのか?」

「いや、見たことあるから気になって…」

「よく道で人にわめき散らしてるからなー見たことあるのかもよ。この人。ジゼルに狙われない為に家を改装したんだぜ?」


恰幅のいい姿は見るからに金持ちそうではある。骨董マニアともなれば、目の敵にされているかもしれなかったが、それ以外に、この男を何処かで目にしている気がしてならなかった。

春斗はじっくりとその記事を眺めていたが、慧に記事を返し、海斗に尋ねてみることにしてそのことは一度、頭の隅に追いやる。


彼の骨董品が次のターゲットになったのはそれから間もなくの事だった。




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