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1.5章~カコノカケラ クロウ~no.2「トラジティアの日々」

山間の村、トラジティア。幾重の山に囲まれた、最も空に近い町。俺の両親は、魔人を討伐したのち、都会の喧騒から逃れるために友人の紹介でこの辺境の地に移り住んだ。『紅蓮の双刃 』とよばれた七英雄の一人で、この村一番の名家の出身、グレン・ライトに紹介された小さな家。そこでドープ・ディマンシュという少年が生まれた。

父親の鋭い顔立ちと、母親の丸く優しい顔立ちの良いとこどりをしたような大変整った顔の少年。だが、彼には欠けた物があった。それは生まれて初めて目を開けた時、両親を大変驚かせた。


吸い込まれそうな漆黒の目。神に見放された、魔力のない人間…欠落人の証だった。


だから、彼は虐めにあった。同年代には後ろ指を指され、石をなげられ、挙げ句魔法の試し撃ちの的にされた。だが彼の心は強く、折れなかった。日々剣技を磨いた。近くの山の封鎖フェンスを乗り越え、魔物を相手に死ぬか生きるかのギリギリのラインを歩き、あっという間に虐めた子供達を見返した。

次に待っていたのは、無視。彼の声に答えたのは、彼の両親とたった一人例外だった少女だった。


「こらーっ!!止まれーっ!」「断る。」木造のボロッちい校舎を駆け抜ける。「待ちなさいってば!」1日魔法書にかじりついてるもやし共に体力で劣る訳がない。校庭で止まり振り返ると、肩で息をする少女が俺を睨みつけた。「ドープ…はぁ…アンタ今日掃除当番だから…はぁ…教室きて…はぁ…」大げさな奴だ。屋上から二階降りてきただけだというのに。「入っても無い教室を掃除?馬鹿じゃねえの?」「そもそもそれが間違ってるのよ!この村の住人なんだから、村の学校にきて、授業を受けなさいよ。」「本当に馬鹿だな。出来もしない魔法の授業なんざ無駄なんだよ。」「あんたの屋上で昼寝も十分無駄でしょ!」「だから昼寝を選ぶ。当然だろ。」本当は寝てなんかいない。時々様子を見にくるこいつ対策に背格好の似た人形を置き、山に登り剣の修行をしているのだが。「選ぶ権利なんか無いわよ!子供みたいな事言ってんじゃないわ!」「子供でいいね。俺に構うな。」「嫌よ。私は村長の孫、ユレイ・ライト!この名と誇りに賭けて、風紀に欠ける人間を放っておく訳には行かないわ!」「知るか。忙しいんだよ。」「う、撃つわよ!」踵を返し自宅へ向かって

いく。アイツと俺の家は真逆方向なので校門さえくぐってしまえばこっちの物だ。「[ファイアーボール]!」「げっ!」 火炎魔法の基礎基本を忠実に守った読みやすい軌道。左右にステップしてかわし、校門までストレートにダッシュ。マジで撃って来たな、と今更思いながら校門を駆け抜けた。人の目の無い裏道を抜け、我が家の庭にでると花に水をやる母が笑っていた。「前から入ってくればいいのに。」「またユレイの奴が追い回して来てさ。」いいながらドアに手をかける。「あらあら。それで…」「そうなんだよ…」ぐっと扉を押しながら玄関の扉を押しながら振り返る。「ウチに来てるのね。」へー。うちにねぇ。開いた扉の先に、鬼の形相でたつユレイ。「母さんのバカッ!」一瞬で踵を返すも、がっしりと襟をつかまれた。裏道に回った時間で追い抜かれていたようだ。「放せよ!」「嫌」「は・な・せ!」「嫌ですー。」意地悪い笑みを浮かべるユレイ。家で捕まるのは今までに無いパターンだ。「さぁ!学校に戻るわよ!」「何しに?」「掃除しに!」ずりずりと引きずられていく。「行ってらっしゃーい。夕飯までには帰ってきなさいねー。」



「………」「~♪」嬉しそうに俺を引きずるユレイ。魔力で筋力を補強しているのか、普通には抜けられそうにない。腕を切り落としてもいいが、後が怖い。「お前、なんで俺に絡むわけ?ウザいんだけど。」「ちょ…ウザっ…て…」「ああ。超絶ウザい。ウザい界に燦然とその名を連ねるウザさの伝道師。」「そこまで!?」「だからさ、俺に関わんないでくれ」「嫌です。」「なんで。まさか村長のくだりなんたら言うつもりじゃないよな?」「うー……」見上げたユレイの顔は見事に固まっていた。タイトルをつけるなら…「THE☆図星だな。」「うるさーい!」「あのなぁ。人の嫌がる事をするのがお前の誇りか?」「う…」「人を引きずりまわすのがお前の誇りか?」「ううっ!」「平穏な生活を望んでる人間の周りでウザったく騒ぎ立てるのがお前の誇りなのか?」「………」「…分かったら放せよ。俺は家族以外に関わりを持つ気は無い。」スッと力が抜け、俺は解放された。「それから。」「?」「俺を尾行するのも止めろ。」「なんで……?!」「バレてないと思ったのか?」「それは…」「お前撒くのに時間使いたく無いんだよ。俺は忙しいんだ。」「じ…じ

ゃあ」「…なんだよ」「どこに行ってるのよ。毎日毎日!あんな下手くそな人形なんかに騙されるわけないでしょ!?」「それは……」今度は俺が言いよどむ番だった。俺が修行を重ねるクラッキン山は侵入禁止区域だ。魔物がうようよいる為、フェンスがかけてあるのを無視して乗り越えている…なんて言えない。「…教える義理なんて無いぜ。じゃあな。」結局教室の掃除もせず、俺は家に向かった。ユレイが追いかけてくることは、無かった。



その夜……


私は、広間に呼ばれた時から嫌な予感がしていた。「ユレイ。」「はい、お母様。」「貴方、またあの子と話していたでしょう。」「…はい。」来た。予想通りの質問。私は名家の娘。欠落人と付き合うなんて如何なることかと、そう言われる。が、今日は何かが違った。お婆様が居ない。お婆様は私の父グレンの紹介で来た、と名乗ったディマンシュ夫妻を鬱陶しく思っている。グレンは未だ魔人退治以来帰って来ていない上、ディマンシュ夫妻は行き先を知ってて黙っているのだから。村に迎えてやった恩をこんな形で返されるとは!と憤慨していたのを覚えている。グレンは大事な跡継ぎだから、お婆様としては早く連れ帰りたいのだろう。一度ドープに直接聞いたが、「知らないし、知ってても言わない。」と一蹴されてしまった。「ちょっと貴方に調べて欲しい事があるの。」「…?。何でしょうか?」「最近、クラッキン山のフェンスの上に泥…靴の跡がついているのが見つかったの。魔物も気がたっている様だし…あの子、最近めきめきと剣の腕を上げているそうね?」「…?!」お母様の言わんとする所が理解できた。つまりドープは、あのボロ人形を身代わりに置いている

間、クラッキン山に登り、魔物相手に剣の修行を…?「貴方はいつも通り、あの子の尾行を続けなさい。まだ行き先が掴めて無いんでしょう?」「…!?お母様まで…どうして…!?」お母様は微笑を浮かべた。「私としても、グレンの親友の子には生きて欲しいからね。例え欠落人でも。よろしくね。」「…うん!」

「ショウカ!ショウカはいるかい?」お婆様の声だ。お母様を探している。「明日は学校を休める様に通しておいたわ。なんとしても突き止めて。子供があんな所に入るのは危険だわ。」「はい。」「ショウカ!今帰ったよ!」「さ、もう寝なさい。…はい、お母様!ショウカはここに居りますわ!」」

お母様はバタバタと玄関へ向かっていった。誰も居なくなった広間から自分の部屋へ戻ると、窓の外から村が一望できる。隅にある…まるでクラスでのドープの位置を暗示しているかのような位置にある、ドープの家。(……嘘だよね…?…そんな……危ない事…してないよね…?ドープ……)



翌日の早朝。



「……。」いつものように誰よりも朝早く起き、誰よりも早く学校に着く。人形をセットし、学校の裏へ。「……。」足音が一つ多い。犯人も検討がつく。言おうか。言うまいか。いつものように黙って撒いてしまうのがいいか。「早いな。こんな時間に。」「…!?」「透明になれても、足音や気配は消せないぜ。」観念したのか、空気が歪み、ユレイが現れた。「いつから気づいてた?」「人形を置いた帰りあたりで空気に違和感を感じた。」「…そう。」「…何の用だ?俺には構わないでほしいんだが。」「…そうだよね…ごめん。教室…かえるね。」「……」いやにあっさり引いた。とぼとぼと歩いていく華奢な背中に、僅かな心の痛みを感じた。これが最後のつもりだったのだろうか。もはや知るよしも無い。これでとうとう、家族以外に俺に話しかけて来る奴は居ないのだから。俺は学校の裏の林を抜け、なるべく人の通らない道を通り、クラッキン山道の入り口のフェンス前にやってきた。近くの木に登り、軽々フェンスを乗り越えた所で、周りを確認しなかったことに気づく。(浮かれちゃダメだ。気を引き締めろ!)自分自身を叱咤し、改めて確認する。ここで見つかった

ら言い訳が聞かないので、フェンス前から目視できなくなるまで猛ダッシュ。荒い山道故足が痛む。「ここまでくれば…」いつもの目印にしている岩にたどり着く。ここからは周囲に警戒しなければ。父のお古のツーハンドソードに手をかけながら、ゆっくり歩いていく。最近は七合ぐらいまでなら平気で登れるようになってきた。東西南北の4つに分け、毎日ポイントを変えて狩りを行う。今日はまだ行っていない南側六合目…ちょうど村から反対側へ向けて、俺は歩き出した。




「はぁ…はぁ…」心臓が飛び出るかと思った。ドープは周りを確認したと思った直後、ダッシュで離れて行ったから、バレた!と思わずにはいられなかった。私はドープに追い返された…のは、私が見せた幻影だ。私はこうしてフェンス前の木の上で息を潜めていたのだ。ついでに透明化だけでなく、気配消しの魔法もかけた。完璧な計画だと思ったのに。木の上を伝って追いかけるが、地上を走るドープには追いつけない。「くっそぉ…」何時の間にか背も、足の速さも抜かれてしまった。 彼は自分のずっと前にいる。自分の道を貫く力が違う。「……?」と、思ったその時、急に勢いを緩めた。急ブレーキの慣性で枝から落ちそうになる。「何…?」ドープは数秒停止した後、剣の柄に手をかけたながら、ゆっくりと歩き出した。これなら追いやすい。ここまで諦めずに追いかけた自分をちょこっとほめながら、音をたてない様に枝を伝う。「…ふぅん…」特に何も起きない。ドープがこの山に入っているのは分かったものの、本当に危険な修行なのか…?私はまだ、諦められずにいた。どこか生に執着しない面のあるドープでも、こんな事までして強くなりたがらない。そう思

いたかった。4合、5合と登っていくうち、この山に特別な何かがあるんじゃないか。と思い始めた。それならあの剣は自衛のため。いささか自分に都合のいい解釈だが、いまはこれでいいとおもった。


「…ふぅ。」もうすぐ、南側6合の辺りだ。7合から見下した時、開けた場所が見えた。取り合えずばそこを目指して、歩く。今日はやけに襲われないな、と思い始めた。いつもならもう2、3回は交戦している地点だ。まぁ、強い奴と集中して戦えるのは良いことだ。と、一人で勝手に納得する。「お。」目の前に開けた平地が見える。鬱蒼とした木が途切れる。円形の平地には、石像が2つ、並んで転がっていた。鞄からオニギリを取り出し、頬張る。「ははからはんもふっへへぇははなぁ(朝から何も食ってねえからなぁ)」呑気だな、と思いつつ、ここならどの方向から襲われても余裕をもって対処出来ると思い、オニギリの残りを口に放り込む。そう。完全に、油断してた。「ドープ後ろッ!!」聞き覚えのある声。後ろを振り向くと、石像が大きな得物を、今振り下ろす所だった。

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