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1章~黒の信念~ no,4「全力戦」

俺はいつもの装備に、色々な小道具をいれた大きいサイドポーチと剣をもう一本足して、少し気合いを入れた。《……主様……》(?どうした、紫。)思えば、紫から話しかけてくるのは珍しい。寡黙で人見知りの激しい引っ込み思案な彼女も、少しは慣れてくれているのだろうか。《……ひどい…全部聞こえてる………》(いや…ゴメン。で、どうしたんだ)「…あの人…ノワールって人…私を憑依召喚してほしい…戦うとき…」(……)そう言えば、ルゥナやクレーセンも、奴と戦うとき、「違和感がある」とか言っていた。紫もそれを感じているのだろうか。《…ん…お願い…主様。》(OK。いつでもスタンバれるようにな。)《…うん…!》



大結界が選んだフィールドは、普段あまり使わない《大広間》 だった。ぶっちゃけ、ただ何もない広い正方形の部屋だ。強いて言うなら四カ所の扉から、部屋を囲むような廊下があるくらいだ。その廊下の隅に転送された俺は初っぱな悪態をついた。L字の角から見渡す景色には、左手からフーリィが、右手からヴァイス先輩が一目散にこちらに向かってくる。つくづく運の無い転送場所だ。取りあえずヴァイス先輩の方向に走る。「うぉぉぉぉ!」大きく剣を振りかぶり、馬鹿正直に真っ直ぐ振り下ろされる剣を最低限のステップで交わし、走り抜ける。広間に続くドアを蹴破り、(ドアの下敷きが一名、死判)「うぅわぁ~……」早くも死屍累々。今も四人ばかりがすっ飛び、それに当たった数名がさらにすっ飛ぶ。そうして「俺の所来るー?!」反射だけで切り捨ててしまう。南無三、名前もわからぬただの人A、B、C。君達の悲惨な飛びっぷり、俺は忘れない。《主様!いるッ!10時の方向、15メートル!》(了解ッ!)「[精霊憑依:纏衣霧縫&琥珀ノ魔筆]!」一瞬の加速感と共に、俺の姿が変わる。剣を持たない右手に茶ともオレンジともつかない美し

く巨大な万年筆が現れ、視界がクリアになり、服はゆったりとした和装になる。動きやすくは無いものの、強固な魔結界を無意識下に張れる纏衣霧縫は魔法を唱える事に特化している。懐に入られると物理的攻撃に対して本当に無防備で、主軸となる琥珀ノ魔筆が非常にクセの強い武器である事が、この状態のネックだろう。琥珀ノ魔筆は魔力を込めている間、ペン先に光が宿り、空中に魔法陣が描ける。本来地面か壁かぐらいしか描けない魔法陣をフリーで描けるのは強みであるものの、抵抗の無い空中に陣を描くと言うのは存外難しい上、魔力を込めている間右腕以外が全く動かせない。正確に陣を描けなければ魔法は発動しないし、他人の魔力を受けると陣は消えてしまう。紫が俺の意志を汲み、最適な魔法陣の描き方を俺に伝え、俺がそれを完璧に描き、紫が解放し、発動する。この連携も大変だ。どこにもミスを許さない。しかし、これほどのデメリットを補うのが、根本にある魔法陣で魔法を発動する、ということだ。紫の知識は膨大で、発動出来ない魔法は無い、と言い切るくらい、そのレパートリーは無限だ。魔法陣なら、発動する属性の魔力である必要はないし、魔力の消

費も少ない。超魔法特化型、それが紫との憑依だ。「行くぜ!」


「[ドロップカッター]!」「[サンダーフィスト]!」細かい水の刃と雷を纏った手が衝突する。水が分解され、ヴァイス先輩は再び距離を詰めてくる。【水】では【雷】と相性が悪い。かといって腕っ節で勝つ事はまず無理だ。クロウが迷いなく逃げたのは、ヴァイス先輩が角の向こうに居たから。ヴァイス先輩は素早く的を私に切り替えてきた。相性の悪い相手を押し付けられた気分だ。「[ウェーブウォール]!」目の前に水の波を起こし、再び距離を開ける。ヴァイス先輩の剣のリーチに入ったらアウトだ。体内の水魔力が先輩の雷魔力と反応を起こし、大ダメージを受けてしまう。「うーむ。なかなか距離を詰めさせては貰えない。成長したな。二人とも。」「そんな、まだまだですよ。」「ははは。謙遜するな。二人は成長しているぞ。クロウなんかは、すれ違うだけで分かったくらいにな。」「ありがとうございます。先輩。」「何、事実を言ってるだけだ。ほら、もう一丁いくぞ!」「っ![カーレントランサー]!」「[サンダーフィスト]!」渦潮の槍も、あっけなく分解される。しかし、この魔法はそうさせるための物だ。サンダーフィストは水魔力と反応を起こし

た事で効力を失い、次発動出来るまでのリロードタイムができた。「[ウェーブウォール]連結![カーレントランサー]」一度に二つの魔法を続けて発動する。出来る人間が数少ないといわれる連結技術。ウェーブウォールで押しやった相手を追いかけるようにカーレントランサーを放つ。「……ぐっ!」狙い通りの有効打だ。「[トライデント]!」止めどばかりにカーレントランサーの上位魔法、トライデントを放つ。高圧の水流が、先輩のアーマーをぶち抜く。局所的に鉄板を入れるだけの機動力を削ぐ事のないシーフタイプのアーマーでは防御力に欠ける。心臓を貫いた水流がありありと証明していた。死亡判定だ。心に歓喜が湧いてくる。一体一では初勝利だ。しかし、それを噛み締める時間はあまりに短かった。「…[スノーナイフ]……。」「!?」突然、背後からの攻撃。遭遇戦にはよくある連戦だ。前に向かって飛び込み前転し、転がった際の一瞬の視界で背後のナイフの位置を把握、起き上がると同時にナイフを見る事なく打ち落とす。後ろを振り向くと、見慣れない少女が片手持ちにしては長く、両手持ちにしては短い…中短杖とよばれるサイズの杖を真っすぐ構え

ている。「…[スノーナイフ]…」「[ドロップカッター]!」どちらも低威力で数を発射する中距離魔法、ただ、向こうの魔法は若干威力にウエイトを置いているらしい。競り勝つのは………こちらだ!「…っつ!」切れ味を持った水が相手の頬を掠める。白い肌に赤い線が入る。「…まだまだ…[アイスブレード]…」再び向こうが魔法の体制に入る。先ほどよりふた周り程大きな氷の剣が出現する。この少女は威力と短時間に重点を置いた魔法を多用する【氷】の魔法使いタイプと踏んだ私は、距離を詰め、近距離で攻める選択肢を取った。後ろに背負った両手棍を構えながら走る。向こうはこちらの動きに動じる事も無く、氷の剣を正確に狙ってきた。「でも!」片端を持ち、ジャンプと共に大上段から振り下ろす。遠心力と体重の乗った重撃が氷を粉砕する。「……所詮氷!ここまで早く高威力の呪文を唱えようとすれば強度が落ちるのは必至!」左に大きく引き、バットのスイングのように振り抜く。「やぁぁぁぁぁぁっ!」



「はぁぁぁぁぁっ!」ダッシュで距離を詰めてくるノワール先輩。溜めておいた魔法陣を一気に発動する。「[サークルレーザー]連結[リフレクバッシュ]連結[ピンホールスナイプ]!」ズキズキと頭が痛む。(三重連結なんてやるもんじゃないな。)ノワール先輩がバネを伸ばした様な光線を体を捻る様に交わし、一気に肉薄してくる。エストックがすぐそこまで来た所でリフレクバッシュが発動する。結界から無威力だが相手を押しやるように距離を置く衝撃波が発生し、再び二人との間に大きな距離が生まれる。「嫌な戦法だね。」冷や汗をたらしながらノワール先輩が苦笑する。確実に押してる!「三つ目……っ!」おおきな円に幾重もの十字の描かれた魔法陣に手をかざし、照準を合わせる。超高威力高弾速で弾道にクセが無く、射程に優れ発動までの時間も短い。一見完璧に見えるが、致命的に有効範囲が狭い。人の小指の第一関節まで位の弾丸一発のみ、という、類い希な狭さだ。超正確な照準を要求するこの魔法を、感覚だけでぶっ放す。なんとも破天荒なやり方だが、それを紫が無意識に修正しているらしい。吹き飛んでいるノワール先輩の左足付け根から右脇腹に向

かって突き抜ける。すぐさま次の魔法陣の準備に取りかかる。「…はぁ…はぁ……っ」魔力切れが近い。小さな魔法陣をありったけ書いて連結するか、大きな魔法陣一つで勝負に出るか。逡巡の末、俺は憑依を解いて魔力を少しではあるが還元した。「[断月闇衝]!」斬月影衝を昇華し、追尾機能を持たせた一撃。刃のサイズも斬月影衝の比ではない。「行け………っ!!」

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