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1章~黒の信念~ no,3「結果」

「らぁぁぁっっ!」左右に鎌を振り抜き連撃を放つ。一撃の威力を保持しながら、反撃の隙を与えない。メリーはメリーで、その攻撃の一撃一撃を丁寧に避ける。そうした長い時間の中、一つの問題が発生した。《クロウ!時間が!》(分かってる!)そう…憑依を維持していられる時間は、そこまで長いものではない。しかし、限界があるのはこちらだけではない。「…はぁ……はぁっ…!」体力と集中力の限界。先ほどから動きが鈍り始め、一つ、また一つと、浅いものではあるが鎌の傷を受けている。そして、もう一つの限界が確実に近づいていた。建物の中でバックステップをし続ければ出てくる、当然の限界。すぐそこまで迫った壁まで押し切り、メリーに逃げる道が無くなったとあれば、鎌撃を外さない。時間切れか…押し切りか。「っらぁ!」一瞬、動きが止まった。右肩を狙った一撃は深々と刺さり、メリーが苦痛に顔を歪める。「…ふ」(…!?)その顔が笑みに変わっていた。鎌を引き抜く一瞬の隙。顔面に定められる銃口。「しまっ……」「[閃光弾]」銃声と共に視界が真っ白になる。鎌が軽くなり、気配が遠くなる。俺に時間が無いことを分かっていたのか…視界

が回復した時、メリーは遥か後方…屋敷の中心まで走り抜けていた。(左の銃は音と光で相手の動きを止める代物か。分かればこっちのものだ!)急速ダッシュで距離を詰める。「逃がすかっ!」大きく鎌を引く。「っらぁ!」縦に振り下ろし、一撃必殺を狙ったが、難なくかわされ、鎌が床に刺さる。ここまでは予想の範囲内だ。素早く鎌の柄を手放し、顔面を狙ったフック。銃で受け止められ、手袋越しに鈍痛が走る。一旦バックステップで距離をとり、鎌を拾う。



彼女はその瞬間を待っていた



「…![榴弾]!」カシャリ、という音の後、床…ジンが大剣を、俺が鎌を刺し、脆くなっていたであろうその地面に、黄色の弾丸が飛んできて。

爆発した。床が崩れ、俺は床の瓦礫と共に下へ落ちていった。

「………っつぁ……」息が漏れる。地下階の床に着地に失敗、足を捻った挙げ句、床にしたたか背中を打った。それだけならまだいい。憑依が解けた独特の身体の重みと倦怠感で、とても動ける状態じゃなかった。数分もしないうちに、金属製の階段を下りる音がする。万事休す。「……参った。今度はマジで。」「やはり…その強化魔法は長くは持たないものでございましたか。」「まぁな。奥の手の一つだったんだけど…そのリボルバーが魔法銃の飾り付けだと思ったのが運の尽き、か。」「一つ…と言うのがいささか引っかかりますけれど…確かに貴方はこのリボルバーが回転しない事で即座に魔法銃と見抜いた。これを逆に利用させて頂きましたわ。」「後退し続け、壁が近づき終わりが来ると俺が油断した所でそのリボルバーを回した。引き金が上下で分かれてるとはね…上の引き金はリボルバーを回して弾丸カートリッジを替える物。下の引き金は発射用。そうして弾丸カートリッジを変えて閃光弾を撃った。ジンの一撃でひびが入った床まで引き返し、再びカートリッジを変更、榴弾を撃ち込む。俺が気付いたのは最後だったけどな。」「さて…そろそろ試合終了ですわ。」「

…そうだな…」メリーが階段から銃を構える。俺に近づかない慎重な、かつ銃撃を外す事のない位置。バン、という無機質な音と共に、ゲームセットだ。





《クロウ・ナイトサイドによって、メリー・グロリアが死亡判定を受けました。実戦演習、終了です。お疲れ様でした。30秒後、転送します…》





「あっははははは、ははははは!」教室に帰り、配られた物やらプリントやらをカバンに詰めたあと、昼飯。今日はこれで帰りだ。「お黙りなさい!最後の最後まで…貴方は!」合わせた机の向かいでメリーがムッとする。「はぁ……はぁ……あー腹痛ぇ。」「あの短時間で、一発で人を殺すような魔法を唱える量の魔力を溜めるなんて到底無理!一体…一体どうやって!」「簡単さ。俺は魔力が切れて魔法が解けたんじゃない。自分で解除したんだ。」「…な…!」「当然、一階にあった鎌は消滅したよな。それを見て、魔力が切れたと思ったお前は、警戒を疎かにし、地下に踏み込んできた。この時、階段の死角…真下に魔法陣が引いてあることにも気づかずに。不用意に降りてこないくらいには注意してたみたいだけどな。それが仇になった。俺は魔法を発動、真下から撃って脳天まで貫通。ってことで。」「…ですけど、ならば何であんな所で無防備に寝ていたりしてましたの?それこそ扉の影から襲ったほうが確実でしょう!」「着地の時足捻っちまったんだ。動けなかったんだよ。」「言っている事が滅茶苦茶ですわ!なら階段下の魔法陣をどうやって引きましたの!」「…んー

…引いたのは俺じゃないっつーか…」「ハッキリなさい!」「よしわかった。ハッキリ、教えない。」「……(ブチッ)…」ひょいっ、と、俺の弁当、朝の残り、あと四つのハムレタスサンドの一つからハムとレタスだけを箸で掴んだあと、口に放り込み、にっこりと笑うメリー。お、鬼だ…。「何すんだよー。」「あら…」しばらくむしゃむしゃとしていたメリーの顔が変わる。「美味しいですわねー。コレ。」嫌味か。俺は残った物を食われる前に食べるべく、サンドを取り出……せない。空をきる指先。弁当の中のハムレタスサンドは残り一個(とパン2枚)になっている。両手で大事そうに持って、少しずつかじるようにハムレタスサンドを食べるフーリィ。ハムスターみたい。一口で全部食べるジン。牛みたい。取りあえず、ぽこ(フーリィに)バキッ(ジンに)と一発ずつ制裁。「今僕だけ凄い音したよね!?絶対力加減違ったよね!?」「全く…お前らのおかずもらうかんな。」ひょい、ひょい、ぽいっ、と。「無視!?しかも僕の所おかずどころか弁当箱ごと無いんだけど!?代わりにクロウのパン2枚が無造作に投げてあるんだけど!?」「ご馳走さ

ん。」「早!!弁当箱だけ帰ってきたよ!?ていうか誰にも返事されないんだけど!!」「「うるさい(よ)(ですわ)。」」綺麗に三人でハモる。黙り込むジン。ハムレタスサンドの恨み、ココに晴れり。



その日の夕方、委員長、副委員長に就任したメンバーは小ホールに呼ばれ歓迎会がある、との事で、フーリィと総合舎に向かっていた。「はぁ…ノワール先輩と会うの、気が重いぜ。」「ふふっ。クロウは会長嫌いだもんね。」脳裏にあの笑顔が浮かび上がった。「はぁー。勘弁してくんねぇかな……」「だーめ。権利争奪戦に勝ったんだから。晴れて生徒会のメンバーだよ。」「せめてノワール先輩だけでも避けたいなぁ……」中等部二年の時、一年間だけ生徒会に入った俺にとって、二年生にして三年生を押しのけて会長をやってのけるイレギュラー、ノワール・ブラッドはトラウマだ。【闇】の魔力を変幻自在にあやつる細剣使い。48戦中、39敗。次元の違う強さだった。そもそもはいつか勝つ、と胸に決めた、そして休日に月精探しが出来ない、だから生徒会を離れた。独学で鍛えた俺は少しでもあの人に近づいたのだろうか。それを少し考えただけで、ブルーになった。


「でかしたぞ!フーリィ!」入って早々に声をかけてきたのは、ノワール先輩と真逆、分かりやすい快活明朗な性格、超特攻 型【雷】の剣士、ヴァイス・ベイグランド先輩だ。ノワール先輩とペアを組むほど気心が知れている事が理解出来ない。「待ってたぞ~クロウ。生徒会一同、首を長くしてなぁ。はっはっは!」相当上機嫌だ。俺はその向こうでにこやかに笑っている人間を一見しただけで最悪の状態なのに。「やあ。お帰り、クロウ。君なら帰ってくると思っていたよ。」すらっとした鼻筋。銀縁メガネ。神出鬼没、人の心を読む、勝てる試合で手を抜く、なぜか俺に週一回の試合を強いってきた…etc…ミステリアスな男。会長椅子から立ち上がり、歩いてくるその腰には、俺が中等部二年生、最後の試合と同じ黒のエストックが下がっている。あの時と同じ……変わったのは“水無月”紫がいる事くらいか。少なくとも、見ただけで分かるのは。「もうちょっと強くなってから来たかったですけどね。俺としては。」「君の成長を見れるだけで嬉しい限りだよ。見ただけでも随分強くなってるみたいじゃないか。」「………」相変わらず読めない人だ、と思う。外見

が変わる程筋肉を付けた訳ではないし、人の魔力の最大量は本来生まれつき変わらない物だ(俺の場合、月精それぞれが持っている分の魔力が増加する)。大体魔力が目視出来る人間なんていてたまるか。俺の変化に気づく訳がない。「まあ、確かにそうだね。」「…?!?!」でたよ。読心術。どうやら俺の嫌いな部分は健在のようだ。「クロウ。試合しないか。いや……クロウだけじゃない。折角総合舎に来てるんだ、大結界を貸し切って、生徒会全員でバトルロイヤル形式の試合をしよう。それが、僕流の歓迎会だ。」言う事が突発的すぎて面食らう。二年生で高等部の頂点に立つこの男の奇天烈な言動に、ホールがざわめく。サプライズ好きな所も変わってないらしい。まぁ、こういう事があると思ったから剣だの何だのを準備してきたわけだが。フーリィもなれている故、同様に両手棍を背中に下げている。一時期でも生徒会にいたら身につく。“いつでも戦闘準備しとけ”だ。慌てふためく奴が何人かいる。そして、俺達には次のセリフが読める。「三分後、集合できなかった奴は遅刻とみなし、この小ホールの片付けをやる。あ、その後ちゃんと大結界に来ること。待ってお

くから。解散」と。 やっぱりね。すたすたと大結界に向かう生徒会組と、ダッシュで寮に向かう新参組。走っている奴らを見ると、ちょっと哀れとも思いながら、俺達は大結界に向かった。

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