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Estate.  作者: 本庄茉白
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13/15

Date 8/30

「真宏、めーっけ」

 サキのそんな声がして、すぐ隣に、サキがすとんと収まった。

「サキ」

「部屋に居ないから、探しちゃったよ」

「ああ、悪い」

「いいけどさ」

 縁側に、二人。

 差し込む光は茜。

 空は、夏の終わりの色だった。

「明日だね」

「ああ」

「もう、準備終わった?」

「大体ね。まあそもそも荷物が少ないから、準備も何もないんだけどさ」

 この家に来た時、俺が持っていたものなんて、鞄一つ。増えたモノを入れたところで、たかが知れていた。

「そっかそっか。……うーん。あっという間だったなー、この二ヶ月」

「ああ」

「真宏に初めて会ったのが二ヶ月前だなんて、なんか信じられないけど。……っていうか俺、あの時よく真宏の誘いオッケーしたよね。普通、知らない人と二ヶ月暮らすなんて、絶対しんどいのに」

「おいこら、それを今言うのかお前は」

「何言ってんの、今でなきゃ言うときないでしょーが」

 サキは、そう言って楽しげに笑った。

「……でもね。俺、真宏の誘い断んなくて良かったな、って思ってる。楽しかった。この二ヶ月。すっげー、楽しかったよ」

 キラキラした子供のような笑顔。

 この夏、いつでも隣にあった、サキの笑顔だ。

「……俺も。楽しかったよ。ここに来て、良かったと思ってる」

「本当に?」

「本当に。あの日ここに来て、お前と一緒に暮らし始めてさ。思った以上に居心地良くて、あっという間に夏が過ぎた。本当に、毎日が、楽しくてたまらなかったよ。一生分の夏をここで過した。そんな気がする」

 言葉にしながら、沢山のことを思い出していた。

 初めて会った日のこと。

 笑いながら過した日々のこと。

 夢の中で聞いた、歌声。

 子供みたいにはしゃぐ姿。

 不意に見せる大人びた顔。

 そしてあの日見た、泣き顔も。

 たった二ヶ月。

 それは、瞬く間に過ぎた、……永遠の、夏。

「……真宏ってさー、やっぱり作家だよね。出てくる言葉が、どれもみんなすごく綺麗なの」

「そうか?」

「うん。まあ、真宏にとってはそれが普通なのかもしんないけど」

 そう言うと、サキは、とん、と庭に下りた。

 サキが見上げた視線の先には、背の高い向日葵がある。

 向日葵は、告げていた。

 この永遠の夏の終わりを、そして、新たな季節の始まりを。

 その身に新しい命を抱き、まるで、過ぎ去る季節を見送るように頭を下げて。

「ね、真宏、覚えてて」

「ん?」

「俺ね、真宏の言葉が好きだよ。真宏の立ってる世界は、すごく優しい。だから、真宏の言葉も優しい」

「……」

「真宏はね、独りなんかじゃない。それを、真宏はちゃんとわかってるよ。でなかったら、そんな優しい世界に立っていられるわけないもん」

 ……ああ。そうか。

 微笑みを抱いたサキの声が、すとん、と、胸に落ちた。

 “ひとりじゃないんだってことを、知りたかったのかもな”

 そんな風にサキに言ったのは、いつのことだっただろう。

 あの日零した本音。心の奥に、ずっと抱いていた、問い。

 答えが出る日など、来ないと思っていた。

 それなのに。

 答えをくれたのは、――――サキ。

「真宏に会えてよかった。真宏と暮らせてよかった。楽しかった。嬉しかった。幸せだった」

「……ああ」

「本当に、本当に、ありがとね、真宏」

 向日葵を見上げたままのサキの表情は、見えなかった。

 サキはどんな顔をしていたのだろう。

 そして俺は、一体どんな表情で、サキを見つめていたのだろう。

 答えはただ、風に揺れる向日葵だけが知っていた。


 夏の終わりの風が、優しく頬を撫でていった。

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