落第召喚士は最弱から英雄へ
その日、俺は“正式に”落第した。
王立魔導学院・最終実技試験。
闘技場の中央で、俺の前に立っているのは監督官と、見慣れたクラスメイトたち。そして観客席には、次代のエリート候補たちを見に来た貴族たち。
「ユウ・クロード。魔力量、基準値の三割未満。攻撃魔法、初級未満。総合評価――落第。」
淡々とした宣告。
ざわめき。
「やっぱりな。」
「召喚しか取り柄ないくせに、その召喚も弱いんだろ?」
「スライム王子の誕生だな。」
笑い声が刺さる。
俺は拳を握った。
分かっている。俺は弱い。
魔力が少ない。火も雷もまともに出せない。防御魔法も持続しない。唯一使えるのが“召喚魔法”。
――ただし、呼び出せるのは小さなスライムだけ。
「最後に、形式だけでも実演を。」
監督官が冷たく言う。
俺は小さく息を吐いた。
円陣を描き、詠唱する。
「契約に応じよ。来たれ、我が眷属。」
魔法陣が光り、ぽよん、と音を立てて現れたのは、半透明の小さなスライム。
観客席から失笑が漏れる。
「はは、やっぱりそれか。」
「子どもの遊びだな。」
スライムは俺の足元でぷるぷる揺れている。
分かってる。弱い。誰よりも。
でも――
その瞬間。
警報が鳴り響いた。
闘技場の外壁が爆ぜ、巨大な魔獣が乱入してきた。
黒い毛並み。赤く光る目。全身を覆う瘴気。
「暴走個体だ! 結界を張れ!」
上級生たちが慌てて魔法を放つ。
だが。
炎は弾かれ、雷は吸収され、氷は砕かれる。
一撃で三人が吹き飛んだ。
観客席は悲鳴に包まれる。
「撤退だ! 学生を下げろ!」
だが、魔獣は闘技場の中央に陣取り、逃げ道を塞ぐ。
俺の前に、その巨体が迫った。
足が震える。
勝てるわけがない。
俺は落第だ。
でも。
後ろには、逃げ遅れた少女がいた。
銀色の髪。見覚えのある顔。
――レイナ・ヴァルディア。
元・学院首席。
禁呪事故で失脚した、堕ちた天才。
彼女は立ち上がろうとして、膝をついている。
魔力暴走の後遺症。
今の彼女は戦えない。
魔獣が咆哮する。
俺は、無意識に叫んでいた。
「頼む……!」
足元のスライムが、ぴくりと震える。
その体が、わずかに光った。
……?
魔獣の爪が振り下ろされる。
その瞬間。
スライムが跳ねた。
あり得ない速度で。
魔獣の腕に絡みつく。
次の瞬間、爆発的な光。
轟音。
闘技場が揺れる。
土煙が晴れたとき。
魔獣の腕は、消えていた。
切断されて。
沈黙。
全員が、俺とスライムを見る。
スライムは、さっきよりも一回り大きくなっていた。
体表が淡く発光している。
「……進化、した?」
あり得ない。
召喚獣が、戦闘中に。
レイナが、震える声で呟く。
「その召喚……普通じゃない。」
魔獣が再び咆哮する。
今度は本気だ。
俺は震える足で立ち上がる。
落第だろうが関係ない。
弱いままで終わるつもりはない。
「いくぞ。」
スライムが応えるように震える。
そのとき、俺はまだ知らなかった。
この力が、王国の禁忌に触れていることも。
俺の落第が、世界を揺らす始まりになることも。
ただ――
俺は初めて、戦う覚悟を決めた。
(続く)
その日、俺は“正式に”落第した。
王立魔導学院・最終実技試験。
闘技場の中央で、俺の前に立っているのは監督官と、見慣れたクラスメイトたち。そして観客席には、次代のエリート候補たちを見に来た貴族たち。
「ユウ・クロード。魔力量、基準値の三割未満。攻撃魔法、初級未満。総合評価――落第。」
淡々とした宣告。
ざわめき。
「やっぱりな。」
「召喚しか取り柄ないくせに、その召喚も弱いんだろ?」
「スライム王子の誕生だな。」
笑い声が刺さる。
俺は拳を握った。
分かっている。俺は弱い。
魔力が少ない。火も雷もまともに出せない。防御魔法も持続しない。唯一使えるのが“召喚魔法”。
――ただし、呼び出せるのは小さなスライムだけ。
「最後に、形式だけでも実演を。」
監督官が冷たく言う。
俺は小さく息を吐いた。
円陣を描き、詠唱する。
「契約に応じよ。来たれ、我が眷属。」
魔法陣が光り、ぽよん、と音を立てて現れたのは、半透明の小さなスライム。
観客席から失笑が漏れる。
「はは、やっぱりそれか。」
「子どもの遊びだな。」
スライムは俺の足元でぷるぷる揺れている。
分かってる。弱い。誰よりも。
でも――
その瞬間。
警報が鳴り響いた。
闘技場の外壁が爆ぜ、巨大な魔獣が乱入してきた。
黒い毛並み。赤く光る目。全身を覆う瘴気。
「暴走個体だ! 結界を張れ!」
上級生たちが慌てて魔法を放つ。
だが。
炎は弾かれ、雷は吸収され、氷は砕かれる。
一撃で三人が吹き飛んだ。
観客席は悲鳴に包まれる。
「撤退だ! 学生を下げろ!」
だが、魔獣は闘技場の中央に陣取り、逃げ道を塞ぐ。
俺の前に、その巨体が迫った。
足が震える。
勝てるわけがない。
俺は落第だ。
でも。
後ろには、逃げ遅れた少女がいた。
銀色の髪。見覚えのある顔。
――レイナ・ヴァルディア。
元・学院首席。
禁呪事故で失脚した、堕ちた天才。
彼女は立ち上がろうとして、膝をついている。
魔力暴走の後遺症。
今の彼女は戦えない。
魔獣が咆哮する。
俺は、無意識に叫んでいた。
「頼む……!」
足元のスライムが、ぴくりと震える。
その体が、わずかに光った。
……?
魔獣の爪が振り下ろされる。
その瞬間。
スライムが跳ねた。
あり得ない速度で。
魔獣の腕に絡みつく。
次の瞬間、爆発的な光。
轟音。
闘技場が揺れる。
土煙が晴れたとき。
魔獣の腕は、消えていた。
切断されて。
沈黙。
全員が、俺とスライムを見る。
スライムは、さっきよりも一回り大きくなっていた。
体表が淡く発光している。
「……進化、した?」
あり得ない。
召喚獣が、戦闘中に。
レイナが、震える声で呟く。
「その召喚……普通じゃない。」
魔獣が再び咆哮する。
今度は本気だ。
俺は震える足で立ち上がる。
落第だろうが関係ない。
弱いままで終わるつもりはない。
「いくぞ。」
スライムが応えるように震える。
そのとき、俺はまだ知らなかった。
この力が、王国の禁忌に触れていることも。
俺の落第が、世界を揺らす始まりになることも。
ただ――
俺は初めて、戦う覚悟を決めた。
(続く)
その日、俺は“正式に”落第した。
王立魔導学院・最終実技試験。
闘技場の中央で、俺の前に立っているのは監督官と、見慣れたクラスメイトたち。そして観客席には、次代のエリート候補たちを見に来た貴族たち。
「ユウ・クロード。魔力量、基準値の三割未満。攻撃魔法、初級未満。総合評価――落第。」
淡々とした宣告。
ざわめき。
「やっぱりな。」
「召喚しか取り柄ないくせに、その召喚も弱いんだろ?」
「スライム王子の誕生だな。」
笑い声が刺さる。
俺は拳を握った。
分かっている。俺は弱い。
魔力が少ない。火も雷もまともに出せない。防御魔法も持続しない。唯一使えるのが“召喚魔法”。
――ただし、呼び出せるのは小さなスライムだけ。
「最後に、形式だけでも実演を。」
監督官が冷たく言う。
俺は小さく息を吐いた。
円陣を描き、詠唱する。
「契約に応じよ。来たれ、我が眷属。」
魔法陣が光り、ぽよん、と音を立てて現れたのは、半透明の小さなスライム。
観客席から失笑が漏れる。
「はは、やっぱりそれか。」
「子どもの遊びだな。」
スライムは俺の足元でぷるぷる揺れている。
分かってる。弱い。誰よりも。
でも――
その瞬間。
警報が鳴り響いた。
闘技場の外壁が爆ぜ、巨大な魔獣が乱入してきた。
黒い毛並み。赤く光る目。全身を覆う瘴気。
「暴走個体だ! 結界を張れ!」
上級生たちが慌てて魔法を放つ。
だが。
炎は弾かれ、雷は吸収され、氷は砕かれる。
一撃で三人が吹き飛んだ。
観客席は悲鳴に包まれる。
「撤退だ! 学生を下げろ!」
だが、魔獣は闘技場の中央に陣取り、逃げ道を塞ぐ。
俺の前に、その巨体が迫った。
足が震える。
勝てるわけがない。
俺は落第だ。
でも。
後ろには、逃げ遅れた少女がいた。
銀色の髪。見覚えのある顔。
――レイナ・ヴァルディア。
元・学院首席。
禁呪事故で失脚した、堕ちた天才。
彼女は立ち上がろうとして、膝をついている。
魔力暴走の後遺症。
今の彼女は戦えない。
魔獣が咆哮する。
俺は、無意識に叫んでいた。
「頼む……!」
足元のスライムが、ぴくりと震える。
その体が、わずかに光った。
……?
魔獣の爪が振り下ろされる。
その瞬間。
スライムが跳ねた。
あり得ない速度で。
魔獣の腕に絡みつく。
次の瞬間、爆発的な光。
轟音。
闘技場が揺れる。
土煙が晴れたとき。
魔獣の腕は、消えていた。
切断されて。
沈黙。
全員が、俺とスライムを見る。
スライムは、さっきよりも一回り大きくなっていた。
体表が淡く発光している。
「……進化、した?」
あり得ない。
召喚獣が、戦闘中に。
レイナが、震える声で呟く。
「その召喚……普通じゃない。」
魔獣が再び咆哮する。
今度は本気だ。
俺は震える足で立ち上がる。
落第だろうが関係ない。
弱いままで終わるつもりはない。
「いくぞ。」
スライムが応えるように震える。
そのとき、俺はまだ知らなかった。
この力が、王国の禁忌に触れていることも。
俺の落第が、世界を揺らす始まりになることも。
ただ――
俺は初めて、戦う覚悟を決めた。
(続く)




