善役令嬢の幸せな結婚の話
ここは悪人だらけのスターシア王国。
悪人とは、古の哲学者の言葉を借りれば、生まれながらにして欲望が強く自己を抑えられない方々である。
例えば、信じられないが自らの悪行をSNSで晒す方々も自己承認欲求を抑えられないから悪人なのかもしれない。
「おら、我の新調したズボンをみるが良い!」
「おお、殿下、立派なエチケットポケットですな」
「何を入れているのですか?」
「フフフン、水牛の角だ!」
かつて西洋では男性の性器を大きく見せるスボンの王族の姿が描かれた。
きっと、こんな会話が続けられていたのだろう。
しかし、悪人がいれば善人もいる。
この王子の婚約者、公爵令嬢アルテシアである。
通称、善役令嬢と陰口をたたかれていた。
「まあ、殿下・・・」
「おう、アルテシア、その済ました顔で拝みやがれ!」
「いえ、医官殿の診断書では皮を被っておりますわ。結婚生活に支障がきたしますわ」
「何だと!」
「私が皮を切って差し上げますわ!」
「な、何だと!やめろ。鋏をチョキチョキするなー!」
ルイ16世に対して、オーストリア大使が夫婦仲を良好にするために陛下の包茎を治すように説得した事例がある。
王族にとって子孫を残すことは最大急務なのだ。
しかし、アルテシアの善は度を超していた。しかも、テロルにつながる知行合一、邪知暴虐は即のぞかなければならないにまで達していた。
彼女の凶行は男爵令嬢にも向けられた。
「まあ、スメル男爵令嬢様、殿下に近すぎではなくて」
「公爵令嬢様、私は殿下を慰めなくているだけですわ」
「なら、致し方なし!邪知暴虐をのぞくまで」
「キャア、誰か!助けて!アルテシア様が小刀を!」
男爵令嬢はすんでの所で助かった。
全くトンデモない奴だ。
殿下は怒った。
しかし、怖くて仕方ない。
どうしたら良いか。
会議を重ねた。
結果は婚約破棄。宣言をしたら何をされるか分かったものではない。
悪役令嬢がいそうな国の公使が呼ばれた。
「はい・・・、アルテシア様をどうすれば良いかと・・・」
「そうだ!知恵を貸してくれ。頼む」
「引き受けても良いですが、領土の件で少しお話ししましょうか?」
「分かった。係争地をくれてやる!」
「分かりました。ヒーローを用意しましょう」
いいですか?殿下、ようは正義が移れば良いのです。
殿下の正統性が薄れ天意が無くなった。
次に天意が乗り移っている貴公子を用意しましょう。
「分かった!どうやって、我に天意がないことを証明すれば良い?」
「愚かさです。愚かさも悪です。しかし、殿下も・・・ゴホン」
「分かった。馬鹿なふりをすれば良いのだな」
一見、上手く行きそうになったが・・・
殿下は元々馬鹿だった。
「今までの事と逆のことをすれば良いのだな」
まず、我は高い所に登って、キャ、キャと叫んで通行人に石を投げることをやめた。
また、王宮を裸で走り回ることもやめた。
臣下の話を良く聞き。政治を行う。我の知性で政治を行わないのだ。
「うむ。言われた通り治水工事が優先だ。我の別荘の予算は後回しだ」
「はい、殿下・・・」
「何、まだ、仕事は終わっていない?交代だ!」
有能な側近を遠ざけ。愚かな役人を取り立てた。
・・・・・この国は下に行けば行くほど能力が高い傾向があった。
さあ、婚約破棄をするぞ!と思ったら・・・
「ウフ、殿下・・・お慕い申し上げていますわ」
「な、何だと!我は男爵令嬢と浮気をしているぞ!」
「浮気ではございませんわ。王たる者、側妃が必要ですわ」
な、何・・・・・に、逃げられない。そうこられたら逃げられない。
我は逃げた。王宮の外に出ようとしたら、愚民が集まっていた。
「「「ジーク王太子殿下!ジーク王太子殿下!ジーク王太子殿下!」」」
正に愚民だ。我は愚かな王子を演じていたのに讃えてやがる。
「アルテシア様だ!」
「お似合いだわ!」
愚民どもがアルテシアの名を口にする。
肩に重さを感じる。アルテシアが顎を乗せたのだ。
「フフフ、殿下、スメル男爵令嬢様、さっき側妃を辞退しましたわ。折角私が性根を治して差し上げようと思いましたのに・・・」
「そうか、ところで我は愚かだぞ。いいのか?」
「良いのです。だって、悪人は努力次第で善人になれるのですから」
終わった。逃げられない。あの楽しい日々とはお別れだ・・・命が欲しい。
結局、婚約破棄は起きなかった。
年代記には夫婦仲は良好であったと伝えられている。
最後までお読み頂き有難うございました。




