入隊
「今日から配属になったスピカ君だね?」
目の前の、シルベと名乗る男が鋭い視線をこちらに向けてくる 。
皺ひとつない黒のスーツを着こなし、椅子に深々と腰掛けている。
40代くらいだろうか。
その姿は、まさに威厳ある上司という風貌ではあるが、「異能で戦う組織」だと思っていただけに、少し面食らってしまう。
「は、はい。」
なんとか言葉を返す。
嫌というほど自分の心音が響く。
消してしまいたくなるほどに。
そんなことを考えていると、シルベさんが言葉を続けた。
「君の異能は音を操るそうだね。実際に見てみたい。
まずは音を出してみてほしい。イメージしやすい音で構わない。」
その言葉を受けて、僕は目を閉じる。
「イメージしやすい音で構わない。」
シルベさんの声が、再度、部屋に響いた。
だが、その時、誰も口を開いてはいなかった。
彼は、イメージしやすい音と言ったのだ。
それは、今まさに聞いた声。
僕はそれを、そのまま再生した。
一瞬、シルベさんの表情が止まる。
そして、わずかに目を見開いた。
「能力としては素晴らしい。だが、人によっては煽りだと捉えられかねないだろうね。
人の神経を逆撫でするような真似は、我々には好ましくない。気を付けるように。」
僕は内心ホッとしていた。
というのも、直接の戦闘能力がない自分の異能で、超常警察として認めてもらえるか、不安だったからだ。
「はい、ありがとうございます。気を付けます。」
その言葉を聞いたシルベさんの表情が、少し和らいだように見えた。
「素直なのも感心だ。
我々超常警察は、異能犯罪を取り締まる組織。当然危険が伴う。場合によっては命を落とすかもしれない。そこは理解しているね?」
分かってはいたけど、改めて言葉にされると、その事実は重くのしかかる。
答えられなかった。
「君が覚悟して来ているのは、こちらもわかっているつもりだ。
軽々しく命を捨てられても困る。それくらいで構わないさ。」
シルベさんの思いがけない言葉に、僕はどう答えたらいいかわからない。
数秒の沈黙。部屋には秒針の音だけが鳴っている。
僕のそんな姿に見かねたのか、シルベさんが再度口を開いた。
「早速で悪いが、初任務を頼みたい。
とはいえ、今日は君の先輩たちとの顔合わせがメインだ。
経験は多い方がいいが、無理はしないように。
ブリーフィングルームの場所は分かるね?先に行って待っていてくれ。」
そういうと、シルベさんは手元の端末を操作し、他の隊員たちに招集をかけているようだった。
「分かりました。では、失礼します。」
僕は深く一礼し、執務室を後にする。
先輩との顔合わせに、初任務。
まだ不安はあるが、隊長に認められたという事実が、僕の足をいくらか軽くしてくれていた。




