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初の犠牲者

挑発にカエデが乗る。


「ほんっと……ムカつくなぁ!!」


そうやって上から目線で見下してくるのが腹立たしい。

昔からそうだ。年上だからというのを振りかざして上から押さえつけるような態度で。何を言っても子供の反抗扱いされ、笑われるだけ。自分だって大差ない年齢のくせに。

歯噛みしつつ、カエデが手をひらめかせる。舞い上がった炎が空気をねぶった。


「そっちこそ、顔に消えない火傷ついても知らないよ!」


女の価値を闘争の土俵に乗せるならこっちだって乗せてやる。売り言葉に買い言葉でカエデが応じた。

長年、妹分として押さえつけられながら付き合ってきたからわかる。サクラの血の操作は万能ではない。他者に干渉する場合はしっかりと集中しなければならない。たった数秒だが、集中するために静止する必要がある。

だったらその集中する隙を与えなければいい。異能を使おうと集中しはじめた途端に熱で炙って脅かしてやる。


「初戦から激しいね」


ばちばちと火花を散らし、激しく争う両者をラカがのんびりと眺めている。

その左右には対決を固唾をのんで見守る6人の未嫁。まるで侍らせているみたいだと軽口を叩きつつ、普段通りの微笑みを乗せた。


「大丈夫。あの血も炎もこちらに累を及ぼさない」


エンゲージを取り仕切る者として観戦者は守らねば。カエデがいくら暴走したとしてもその炎はこちらに燃え移ることはない。仮に流れ弾が来たとしても阻もう。自分の力を割譲して与えた異能だ。もちろん制圧できる。


「ラカ様ったら……!!」


きゃぁ、とクズノが黄色い声をあげる。

守るだなんて。なんと甘い響きだろう。頬がほてって仕方ない。


「私は大丈夫だけどね。むしろラカ様を守ってみせるよ!」

「ふふ。ミズキは頼もしいね」


ラカが相好を崩す。確か、ミズキの異能は防御壁だったか。

微笑みを受け、うんうんと自信満々にミズキが頷く。自慢の防御壁だ。多少の攻撃なら遮断してみせよう。カエデの炎が防げることは日々の鍛錬で実証済みだ。


「とはいえ、サクラの異能は結界じゃどうにもならないだろう? ならばやはり、わたしが守らねばね」

「ぴゃ」


ふっと優しく微笑まれて何も言えなくなる。完全に丸め込まれ、ミズキの頬に朱がさす。

それぞれ頬を染める少女たちを見回し、おやおやと笑ったラカは視線を庭に戻す。この間にもカエデとサクラの対決はヒートアップしている。感情の昂りにより温度が変わる炎はすでに赤から白へと移っていた。熱が空気を焼く。

庭の池の鯉は大丈夫だろうか。茹だってないといいが。呑気なことを考えているラカをよそに、対決はもはや手合わせの域を越えていた。


「死ね! 死ね! 死ね!!」


カエデが叫ぶ。白い炎は青へ。次の瞬間、サクラの全身が炎に包まれる。あ、とラカ以外の誰かが声を漏らした。

断末魔をあげる間も与えず炎はサクラを燃やし尽くす。人の形をしていた炭が塵すら残らず焼失する。あとには、ぜぇぜぇと肩で息をするカエデだけが立っていた。


「えっ……死ん……っ!!」

「あぁ。決着だ。巫女たち、後始末を」

「はい」


皆が動揺する中、平然とラカが呟く。世話人たちを呼び、後始末を指示する。

指示を受けた世話人たちが無言で進み出てくる。ミズキたち未嫁の肩を抱くようにして一人ひとり寝室棟の方へと連れ出していく。庭に降りた一人がカエデの手を引いていく。彼女も寝室棟へ、と声が聞こえた。


「こちらへ」

「え、いや、でも、あの、今、ひとが……」


倒れ込まないよう肩を支えながら誘導する世話人に引っ張られながらも、ミズキが庭を指す。

だって今サクラが燃えて死んだのに。世話人たちは何の動揺もせす、まるで何もなかったかのように処理しようとしている。焦げ付いた土を掃き、熱に煽られて割れた庭石を直し始めている。


「お気にせず。あれは選ばれなかっただけ」


淡々と世話人がそう答えた。異能を与えられながらも十全に振るうことができなかった、その寵愛に応えることができなかった、鹿神に選ばれなかった。だから敗北した。それだけだ。死んだなど些細なこと。

いやでも、と言いすがるミズキを無視して、ぐいと世話人がミズキの背中を押す。逆らうことができず、ただされるがままに引っ張られていくしかなかった。

見回せば、クズノたちも同じように動揺していた。淡々とする世話人に対し、でも、と言いすがっている。彼女たちもまた、粛々と寝室棟へと押しやるようにして移動させられている。


世話人に連れ出されていく未嫁たちの背中を見送り、ラカはただ微笑みを浮かべるだけだった。

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