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演武開始

そう。そして肝心の演武(エンゲージ)は何をするのかというと。


「単純に言えば、異能を使った戦いを」


わたしから与えられた異能で、わたしへの愛を示すため戦ってもらう。そうラカは言った。


何も殺し合いなんて血みどろの行為をしろと強制しているわけではない。勝敗が誰の目にも明らかであるならその対決の中身は問わない。

これは心の戦いだ。鹿神を愛しているのなら、鹿神によって目覚めた異能の力を大事にするはず。その下賜に応えんと鍛錬を積んでいるはず。そしてエンゲージはその実践というわけだ。愛と信仰の証明である。

何も難しいことではあるまい。鹿神をどう思っているか、どう思いながら育ってきたか。エンゲージによって鹿神への想いが浮き彫りになるだけだ。


「今回はシンプルに8人でトーナメントにしようか」


半端な人数だとバトルロイヤルにするのだが、今回は数がちょうどいいので。

8人で1対1の対決。つまり3回勝てば鹿嫁だ。簡単な話だろう。


「場所は……そうだね、庭にしよう」


本来は蹴鞠などして遊ぶための場所だが、手合わせをするにはちょうどいいだろう。

そこで、どんな方法でもいいので1対1の対決をしてもらう。もちろん必要なものがあれば用意しよう。


ルールを整えつつ、ラカが視線をめぐらせる。特に質問がなさそうなので了承とし、話を次に進める。トーナメントの組み合わせだ。


「こだわりもないし、順番でいいかい?」


カエデとサクラ、ミズキとハギネ、クズノとモミジ、シダリとニイカ。この組み合わせでトーナメント表を作ろう。

ラカがそう嘯くと、脇に控えていた世話人が素早く手を動かし、その場で即興の表を書き記す。


「これでいいかな。あと言うべきことはあったっけ?」


抜けている説明はあっただろうかとラカが思考を巡らせる。特になさそうだ。では質問は。なさそうだ。よし。

ならばあとは未嫁同士で争うのみ。自分はその経過を見守り結果を受け取るだけだ。よいしょとラカが座布団に腰を下ろした。それと入れ替わるようにしてカエデが立ち上がる。


「じゃぁさっそくやりましょ! 第一試合よ、サクラ!」


決まったのなら早速。待ちきれないように屈伸しながらカエデが庭に向かう。世話人が玄関から運んできた靴を履き、縁側から庭へ。少し遅れてサクラも立ち上がる。


「ほら、早く! あたしの炎舞を見せてあげる!」


演武とかけて上手いことを言いつつ、カエデが手招きする。もう待てないとばかりにカエデの周囲に火の粉が舞う。

これが彼女の異能だ。炎を操るという単純なもの。単純だがそれだけに難しいことを考えずに扱える。火加減を間違えて焦がした服は数え切れないくらいあるが。


「はいはい。アンタみたいな生き急いでるのをわからせるのも年上(ウチ)の役目よね」


年下の指導も年長者の役割だ。こうして落ち着きのない子供に待ったをかけるのも年上の重要な役目である。

ゆったりとブーツのジッパーをあげて立ち上がったサクラは口紅が乗った唇を吊り上げた。


「アンタみたいな乳臭いガキがラカ様の相手なんてできるワケないし」

「はぁ!?」


挑発にカエデが眉を吊り上げる。

何を言うか。異能の力に目覚めた途端、鹿嫁になれる資格を得たと喜び、当時付き合っていた恋人を振って乗り換えた尻軽め。それまで敬意を持ちつつも異性としては興味ないと振る舞っていたのに、乗り換えるなりラカ様ラカ様と黄色い声をあげだしたくせに。

サクラなんて儚く可愛らしい名前をしておいて、そのイメージとはまったく真逆。あぁ確か桜には害虫がよくつくのだった。そっちの意味合いだったか、などと挑発してみせる。


「乗り換えた途端にキャーキャーと年甲斐もなく騒ぎだした年増のくせに」

「はぁ!?」


カエデの煽りにサクラが食ってかかる。てめぇこの野郎、と女らしからぬ罵倒が彼女の口から漏れた。

泣かす。低く唸ったサクラが指を鳴らす。途端、カエデの二の腕が小さく爆ぜた。


「いっ……!!」

「ふん。口の聞き方に気をつけな、ガキが」


はっと鼻を鳴らす。これがサクラの異能だ。血を自在に操る。自分の血液だけでなく他人の血液も対象だ。今のはカエデの血に干渉し、血管を爆ぜさせた。普段は血の流れに干渉して止血の助けに使っているが、傷つけることに転用すればそんなこともできる。もちろん、もっと深い場所の血管、それこそ心臓を流れる血液に干渉すれば殺害すら可能にするだろう。


「顔の血管全部爆発させて、一生消えない傷つけてやろうか?」


殺すなんて物騒なことよりも女にとって残酷なことを。にぃ、とサクラが嗜虐的に笑った。

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