黄金の騎兵と遺されし双刃
金色に輝く巨大な槍斧が、空を裂き、大地ごと草木をなぎ払う。
その猛撃を紙一重でかわした《対峙する者》に、さらなる追い打ちが迫る。
風が咆哮となって横なぐりに吹き荒び、身体をかすめるだけで皮膚が裂けるようだった。
横転しながら逃れようとしたその姿を、風圧が弾き飛ばす。
視界が揺らぎ、意識の輪郭が崩れていく。
最後に映ったのは、宙を裂く黄金の蹄。
ひと蹴りで、夢のように、すべてが遠のいていった。
何人を屠ろうとも、《対峙する者》は現れる。
荒野に屍を積もうと、その行列は絶えることがない。
それは《別の誰か》であり、《同じ誰か》でもあった。
死闘は、いつも夢のように訪れ、夢のように終わる。
槍斧が、円盾が、蹄が。
悔恨の色を湛えた顔が、まるで誓いを呑みこむように消えていく。
騎兵は、その戦いに誓いを刻んでいた。
それは他でもない、自ら選んだ誓いだった。
だからこそ、幾度も槍を振るい、盾を叩きつけ、蹄を振り下ろす。
《対峙する者》の姿を識ることもなく、想いを知ることもない。
ただひたすら、蹂躙することだけが存在の意味だった。
また一つ、小さな盾が宙に舞う。
何度目のことだったか、もはや数えることすら忘れてしまった。
かつては身を守るためのそれも、今や紙切れに等しい。
《対峙する者》は体勢を崩しながらも、地を蹴って踏みとどまる。
騎兵の槍斧が空を切り裂き、黄金の軌跡が振り下ろされた。
金属がぶつかる鋭い音が、大地を震わせる。
折れた曲剣と、どこかの屍から奪い取った錆びた長剣。
その二本の剣を交差させ、迫る刃の柄を受け止める。
剣が軋み、力が食い込む。
それでも、剣を滑らせながら一歩、踏み出す。
右手の曲剣が、黄金馬の腹へ突き刺さる。
馬が嘶き、騎兵の巨体を跳ね上げる。
金の塊のような体が、草原に墜ちる。
砂塵が舞い上がり、時が滲む。
《対峙する者》は、荒れた風を踏みしめて跳躍する。
逆手に構えた長剣が、しなるように騎兵の首元を穿つ。
身体を貫く冷たい衝撃。
その瞬間、騎兵は何かを思い出しそうになる。
歓喜に染まった《対峙する者》の表情が、まるで幻のように光を帯びて揺れている。
遠ざかっていく黄金馬の嘶きが、地を這うように伝わる。
それは終わりの音。
だが同時に、始まりの音でもあった。
誓いは、まだここにある。
薄れゆく意識の奥で、かつて何度も繰り返し抱いた想いが、再び胸に宿る。
いつかの《対峙する者》の顔が、夢とも現ともつかない霞のなかに浮かぶ。
今の自分は、どんな顔をしているのだろう──
誰にも届かぬ問いが、静かに、胸の底に落ちていった。