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09 聖鋼のメイス

「おお。さすがにいろいろあるなぁ」

「この店の主人は腕も確かだし知識も深いらしいわ。姉様の話だと、これだけの品ぞろえがある魔道具店は王都にもないらしいから」


 ロザリーが言うなら、多分本当のことなのだろう。ソニアはうなずきながら店内を見て回った。店内には武器をはじめ、いろいろな魔道具があって、見ているだけで興味深かった。


「おうおう。こんなアミュレットまであるたぁな。これ、風の魔法を強化できるんだろう? 緑の魔力が扱いやすくなるって評判だぜ。小さいお嬢ちゃんにぴったりじゃねえか」

「いやぁ。これもあっさりと見つけるなんて。さすがは竜殺しの魔術師様ですね。最近は魔族を見たっていう話もあるし、物騒なんでおすすめですよ」


 案内してくれる店員じはなんだかうれしそうだった。この界隈ではオースティンは有名人らしく、彼が声を掛けると喜んで答えてくれた。


 なんとなく店内を見回っているソニアは、アミュレットを真剣に見つめているオデットを見つけてしまう。


「ん? なに? 婚約者にプレゼントでもすんの?」

「まだ婚約者とかじゃないから。私、アイツ嫌い。母様やチャールズは私とくっつけたいみたいだけど」


 小さいころからかわいくて有名だったオデットには婚約者らしき少年がいる。母に連れられて行った先で出会った同い年の裕福な貴族令息らしい。熱烈に求婚されて母も乗り気だが、本人には不評らしかった。父も判断を保留にしている。


 オデットの返事に頷いたソニアはさらに店内を物色することにした。たくさんの魔道具が所狭しと置かれている。そんな中、額縁に飾られている一本のメイスに目を引かれた。何の変哲もないメイスだが、何か印象深いものだったのだ。


「あれ、失敗作なんですよ」

「へ? あんなに厳重に保管されているのに?」


 思わず返事をしたソニアに、話しかけてきた女性店員は頭を掻いた。


「あれは聖鋼を使って使った武器なんです。聖鋼ってのは扱いは難しいけど、うまく加工すれば密度をすさまじく高められる素材なんです。あの神鉄に勝るとも劣らない、希少で高性能な素材なんですよ」

「そんなすごい素材を使っているのに、あれは失敗作なんですか?」


 ソニアが尋ねると、その女性店員は溜息を吐いた。


「依頼人からのオーダーだったんです。どんな時でも壊れない武器を作ってくれと。それで聖鋼を使って私と師匠があれを打ったんですけどね。調子に乗りすぎました。聖鋼の特徴が出すぎて、誰にも使えない武器になってしまったんです」


 メイスを見つめる女性店員の目はさみしそうだった。ソニアもつられるように再びそのメイスを見た。豪勢だけど普通のメイスのように見えて、ソニアには失敗作だとは思えなかった。


「何の変哲もないメイスに見えるけど?」

「みんなそう言うんですよ。でも試せばすぐにわかりますよ。誰もあれを使おうとは思わなかったんです。たとえお貴族様でも、あれ扱うのは無理だと思いますよ」


 女性が言うと、オデットはムッとしたような顔になった。


「いいわ。試してやろうじゃない。そして私に振れたら、あれは私のものよ。聖鋼が貴重なものだってのは私でも知っているんだから」


 オデットが言うと、筋肉質な店員が含み笑いをしながらメイスを取り外した。かなり筋骨隆々なのに、手を震わせながら重そうにメイスを持っていた。


 店員はメイスを床に置くと、柄の部分をオデットに差し出した。


「どうぞ」

「ふん。こう見えても男爵令嬢なんだから」


 柄を受け取りメイスを持ち上げようとしたオデットだが、動かない。メイスは床に縫い付けられたように、ピクリともしなかった。


「だ、駄目だ。振り回すどころか、持ち上げることもできない。なんなの、これ・・・。私、大剣だってふりまわしたことあるのよ? 大人用のサイズだからって、身体強化を使っているのにピクリとも動かない」

「これが聖鋼の特徴です。魔力をあっという間に無効化してしまう。依頼人にもすぐにダメだしされちゃって。今では戒めとして飾るくらいしかできないんですよ」


 肩を落とす女性店員だった。オデットもあきらめたのか、溜息を吐いてメイスを床に下ろしてしまった。


「まあ普通の奴には持ち上げらんねえだろうな。ほら。貸してみな」


 オースティンだった。彼はオデットからメイスの柄を受け取った。そのまま持ち上げるかと思いきや、すぐに眉を顰めた。


「こいつはやべえな。持った瞬間、魔力が霧散しちまった。身体強化用の魔力までひっぺがされたじゃねえか。魔力がつながっていりゃあ、全部消しちまうってか?」


 オースティンは深呼吸すると、そのまま両手でメイスを握り締めた。


「こいつはかなり神経を使うな。武器に魔力が流れないようにきちんと操作しなきゃいけねえ」


 そして―――。


「ふおおおおおおおおおおお!」


 そのままメイスを持ち上げたのだ。かなりの重量があるようだが震えながらでも両手でしっかりと振り上げて見せた。


「す、すごい! 私の時は全然動かなかったのに!」

「メイスに魔力が全然行っていない! 流れをコントロールすることで魔力を霧散させなくしているんですね! オースティンさん、さすがです!」


 褒められたにもかかわらず、オースティンはすぐにメイスを床に落とした。


「持ち上げるのでくたくただな。多分、2,3発しか振るえねえと思うぜ。身体強化用に魔力がちょっとでもメイスに流れると全部拡散しちまう。戦いながら、詳細な魔力コントロールを行う? 無理だろ。これで戦うなんて考えられん」

「でしょう? 吸い取られた魔力はすぐに空気中に逃がされちゃうし、もう踏んだり蹴ったりですよ。師匠が作ったものだから迂闊に廃棄することもできない。誰かが持っていってくれるといいんですけどねぇ」


 女性店員が嘆く傍らで息を整えるオースティン。そして彼は、ソニアの目を見つめてきた。


「師匠?」

「これも、いい機会かもしれんな。店主! 武器を試用するための所はあるんだろう。チョイっと貸してくれねえか」


 女店員は目を見開くが、戸惑ったまま頷いた。


「え? え、ええ・・・。あることにはありますが・・・」

「うし。じゃあ少し貸してくれや。俺の秘術を使えば、このお嬢ちゃんがそのメイスを使いこなせるかもしれねえんだ」


 オーツティンの言葉に、ソニアはおろおろと立ち尽くすのだった。

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