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07 魔術師オースティン

 ソニアは茫然としてしまった。


 思い出したのだ。白の魔力を、嫌う人たちがいることを。


「え、えっと・・・」

「驚いたぜ。まさか、この国で白の資質の持ち主に会えるとはな」


 オースティンが目を見張っていた。その顔に嫌悪の色はないがソニアは安心できなかった。もしかしたらそれはふりで、ソニアを害しようと狙っているかもしれないのだ。その証拠に、オースティンは何かを考えこむような顔になっていた。


「あの・・・。私は」

「しかも色が尋常でないくらい濃ゆい。少なくともレベル4はあるんじゃねえか? てか、大丈夫なのか? レベル4以上は魔力過多になるはずだろう!」


 叱責されるどころか心配されてしまった。まだ油断はできないが、ソニアにはオースティンが本気で心配してくれているように思えた。


「えっと。特に問題はない、と思います。一応。あっ! 私、魔力操作の練習は繰り返してたから、それが影響したのかな? 透明な魔力でも動かせたから」

「聞いたことがあるぜ。白の魔力はかなり特殊で、なんかしない限り魔力を染めることができないとな。それまでは四大属性の資質によって魔力操作の技術は決まると」


 オースティンはしばらく考え込むと、すぐににやりと笑った。


「もしかして、お嬢ちゃんの四大属性の資質は極端に低いとかじゃねえか? 普通は魔力を動かすのも一苦労のはずだが、お嬢ちゃんは白を覚醒できるまでに操作技術を鍛えた。それが、魔力過多でも暴走しない要因かもしれないな」

「えっと・・・。父が作ってくれたんです。このあたりの砂を使って、資質がなくても使える魔力板を。それを使ってずっと訓練してきたから」


 何度もうなずくオースティンだった。


「えっと・・・。オースティンさんは、白の属性が危険だとは思わないんですか?」

「ん? 属性が危険って・・・。ああ。ピレイル連邦の連中はそう言うのもいるよな。あそこでは昔、白の力を悪用した犯罪者がいてな。かなり暴れ回って大変だったらしいのよ。それ以降、白は危険って言う考えが広まったんだ。俺はクローリー王国で学んだこともあるからよ。属性に善悪はないって考えなのさ。まあ闇だけはあの国でも嫌われがちだがよ」


 オースティンの言葉にほっとするソニアだった。


「だが、お嬢ちゃんは貴族とはいえ男爵令嬢か。しかもこの国の。ああ。だから、魔力量について悩んでいたんだな。白の属性は特に量を食うらしいからな」

「え。そうなんですか?」


 オースティンはだらしなく足を崩しながら答えてくれた。


「まあそうだな。基本的に白は魔力消費が大きい。火力が最低限のフラッシュだって、他の属性の3倍ほどじゃなかったか? まあクローリー王国の貴族なら何とかなるかもしれんが、この国の貴族はな」

「そうですよね・・・。魔法王国の貴族なら魔力量は高いそうですが、うちの貴族はそれほどでもないですからね」


 魔道王国と言われるクローリー王国では貴族はみんな魔法使いだ。中でも爵位を持つ貴族は大量の魔力を持っていると言ってもいい。でも、ソニアたちフラレンス王国の貴族はそれほどでもない。ましてや男爵のロルジュ家の魔力量となるとたかが知れている。


 魔族との真っ最中なのに、なんとも情けない話だった。うわさでは魔族の滅ぼされた街もあるそうなのに、肝心の貴族がこれでは、ソニアだけでなくみんなが不安に思ってしまうかもしれない。


「うう。確かにそうかも。地下室で魔力を使ったときはすぐ気絶しちゃったし。私には、やっぱり魔法は使えないのかなぁ」

「お前さんの場合は白の資質がすごいみたいだからな。比較的少ない魔力でも魔法を扱える。魔力量があるに越したことはないが、使えないってことはないと思うぜ」


 オースティンが慰めるように言ってくれたが、ソニアは沈んだままだった。慰めてくれるのはありがたいが、現実として魔法が使えないようでは意味がない。


 ジト目になったソニアだった。むくれたソニアを見てオースティンは笑い出した。


「いやすまんな。お嬢ちゃんの親父さんから言われてんだ。もしよかったら子供に魔法について教えてくれってな」

「ま、マジですか? 高名な魔術師のオースティンさんの教えを受けられるなんて!」


 オースティンは子供と言ったが、父の目的は、おそらくロザリーに魔術について教えることだろう。でもソニアは構わなかった。高名なオースティンから知識を得られるのなら、どんな理由だって問題ないのだ。


「俺は高名なんて言われるような存在じゃないんだがな。お前さんのような小さな子にものを教えるなんてこそばゆいことはしない主義なんだが」


 そう言って腕を組み、横目でソニアをねめつけるオースティンだったが・・・。


「まあ、いいか。お前さんなら、俺の知識を教えてやってもいい」

「おおおおお! ほ、本当ですか!?」


 偉そうだけど、頷いてくれたオースティンに感嘆の声を上げたソニアだった。


「俺にもわかるぜ。お嬢ちゃんが本気で魔法について学んでいることをな。その年で、白の資質を解放させたんだ。相当に魔力操作を鍛えてきたんだろう」

「い、いえ、そんなことは」


 反射的に否定してしまうソニアだが、オースティンはがははと笑って肩を叩いた。


 うれしかった。資質も何もないだろうと言われ、それでもあきらめずに魔力を鍛え続けた自分が、オースティンの言葉で認められたような気がしたのだ。


「あ、でもいくら知識を与えるからって安心するんじゃねえぞ。毎日の瞑想でも魔力量は上げられる。ほんの少しなんだけどよ。毎日さぼらず続けるんだ」

「分かっていますって! さっき教えてもらった瞑想は今後も絶対に続けていきます。コツコツした作業、得意なのは師匠も知っているでしょう?」


 ソニアが明るく言うと、オースティンは苦笑したようだった。


 だけど、オースティンが怪訝な顔でソニアを見つめてきた。上から下までさ振るような目でソニアの何かを確認しているようだった。


「えっと・・・。あの、私に何かついています?」

「いやお前・・・。白の資質に目覚めたのは最近だよな? あんまり慌てんじゃねえぞ。姿が変わってもおかしいことじゃねえんだからな」


 オースティンの言葉を、唖然として見つめ返すソニアだった。

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