24 転生者たちとの話し合い
「予想はできていると思いますが、あなたを含めたこの7人は転生者です。かつて日本で暮らした記憶のある人間が、『聖女列伝』というゲームの世界に生まれ変わったわけですね」
メガネの緑髪がそう話した。どうやら彼が説明役になるらしい。偉そうな口調が少し気にかかるが、より尊大そうな金髪に話されるよりもずいぶんましだなとソニアは感じた。
「えっと、皆さんは・・・」
「私たちが前世の記憶を取り戻したのは7年ほど前ですね。私の場合は家で本を読んでいたタイミングでした。日本で高校生だったことを思い出したんです」
「俺の場合は狩猟に出た時だったな。クマを追いかけていた時だから焦ったぜ。兄貴に叱られて焦ったのを覚えている。まあ、農作物を狙う獣はちゃんと仕留めてやったがよ」
言葉を遮った形の筋肉質に、メガネの緑髪はムッとした様子だった。
「私は婚約者と会っている時だったな。『どうせこの女は裏切るのに』と思ったのがきっかけだった。なぜそう思うかを掘り下げていったときに気づいたのだ。日本の記憶と、ここが妹やクロードがやっていたゲームの世界に酷似していることをな」
金髪が続けた。つまらないものでも見るかのような態度は崩さなかったものの、一応は説明してくれるようだ。
「ヒロインや悪役令嬢などつぶしてしまえとばいいと思ったがな。ロルジュ家はともかく、ジョアンヴィル家は強大だ。何よりシナリオが」
「ちょ、ちょっとロベール! 今はそんなつもりはないからね! フランシス王家はあなたたちに含む者はありませんから」
金髪の、ロベールの言葉を青の女性が慌てて遮った。
ソニアは内心動揺していた。
ロベールと言えばこの国の第1王子の名前だったはずだ。同い年だがクラスは違うし、普通は会う機会もない。あの件があっておそらくイベントはめちゃくちゃだろうから注意すれば接点はないと踏んでいたが、まさかこんなところで会うなど、想像だにしないことだった。
彼とは会ってもいなかったのにロルジュ家などつぶしたほうがいいと言われてしまった。日本人の発想ではないと思わなくもないが、この世界で第1王子として生きてきたならそう考えるのは自然なことかもしれない。確か、母親は子爵令嬢のようだが、国王の寵愛が深く、王位を継がせたいのではとのうわさがソニアの耳にも聞こえてきている。
「あなた、日本での記憶は17歳くらいまでじゃない? 私たちはそうなの。高校2年生の嵐の日、赤堤高校の教室にいたのが最後だったわ。登校日に久しぶりにみんなが集まって担任の先生の言葉を聞いていたら急にあたりが光に包まれて・・・。それが、最後の記憶」
「わ、私もそうです。確か、最後の記憶は転校する高校に説明を聞きに行ったときだったはずです。先生がいろいろ説明してくれたときだったから覚えています!」
しみじみと語る青いロングヘアーに、ソニアはなんとか答えていた。
「僕たちは同じ高校の生徒だったんですよ。マンモス校だから生徒数も多いし、偏差値とかも様々でしたけど」
「そうなんですね。私、秋から転校してくるはずだったから知り合いもいなくて」
黄色い髪の少年の言葉に全力で同意するが、金髪の王子に睨まれて体をすくめてしまう。赤髪の筋肉質は苦笑しながらも説明を続けた。
「ゲームの世界に転生したのはいい。あんたもいろいろあったろうが、俺たちもいろいろあった。こうやって昔の仲間に会うのにも苦労したんだぜ? で、今の問題はゲームのシナリオさ。この国は魔族の脅威にさらされている。ゲームオーバーになったなら国が滅んじまうんだろ? 魔王ってのを倒せば解決すんのは、まあゲーム的だけどよ。こっちはそれに対して対策を練ってたってわけさ」
赤髪の筋肉質は自信満々だった。
「えっと。私は年々記憶が薄れてきているんですが、それでもゲームでは」
「ああ。いい。分かっているんだ。クロードがプレイ済みだからな。ゲームのシナリオも、魔法についてもな。私たちは7年前に記憶が戻った。魔法について研究する時間も、こっちの味方を強化する時間もあったわけだ。ロベールに至っては王族だからいろいろ準備する時間もあった」
緑髪の眼鏡は冷たい目のまま、ソニアを見下ろしていた。
「いわゆる転生者チートというわけさ。知識を使って日本での暮らしを再現できるようにしてきた。戦いも、魔法もな。相手がどんな手を使うかが分かってたら対策するのも難しくはないだろう? どんなことをやってきたまでは教えられないけどな」
筋肉質にも小ばかにするように言われ、ソニアは途方に暮れてしまう。
「えっと、でも」
「一応は、お前の力を見せてもらおうか。主人公は光魔法が使えるんだろう? まさかそれすらもできないというんじゃないだろうな」
ロベールがめんどくさそうに命令してきた。ソニアは混乱しながらも、首を振った。同じ転生者だからと言ってこんなことを命じられる筋合いはないはずだ。
「けっ。このくらいのこともできないのかよ」
「やりなさい。私はスミュール侯爵家の人間だ。高々男爵家のロルジュ家をつぶすことなど、簡単なのですよ」
「そうだな。少しやりやすくしてやろう。王家の命令だ。お前の力を見せてみろ」
言われて顔をゆがめた。正直、従いたくはなかったが、王家の命令と言われれば従わざるを得ない。ソニアは震えながらそっと両手を前にかざした。そして悔しさを感じながらも、思いっきり集中した。
次の瞬間、手の間に現れた小さな小さな光の玉。ソニアは精一杯集中することでそれを出すことができた。
「ふはっ! 光魔法っつってもこの程度か! ちょっと光源ができただけではないか!」
「集中力を高めていたからどんなのが出るかと思ったら、これくらいしか作り出せないんですね。まるで小学生みたいじゃないですか」
「やっぱりお前はあれだったのか。ヒロインだから何でも許されると思ったお花畑の。ろくに練習もしていないんだろ? ロルジュの家は高名な魔術師を雇ったと聞いてたからちょっとは期待してたんだがな」
口々に言われ、ぐぬぬと歯を食いしばったソニアだった。
「で、でも相手にはもしかしたら」
「あんたに望むことはなにもない。余計なことはするなってことさ。こっちは生活を豊かにしてきた。魔力も鍛えている。相手の戦略だって分かってるんだから、主人公の出る幕はないんだよ。あんたのことはルームメイトのあたしがしっかり監視するから、余計なことすんじゃねえぞ」
そう言うと、シャルロットは席を立った。そしてそれにロベールたちは続いていく。次々と去っていく彼らを、ソニアは茫然と見送ることしかできない。
「急に言い出してごめんなさいね。でも、あなたが無理をする必要はないってことは分かってほしい。せっかくの異世界転生だけど、あなたが自由にしていい世界ではないの。でも、ファンタジーの世界に来たことに変わりない。あなたが楽しく暮らせるチャンスは無数にある! あなたはあなたなりに、今世を楽しめばいいと思う」
青のロングヘアーがそんなことを言い残した。喫茶店の部屋には呆然としたソニアだけが残された。
◆◆◆◆
「どう思う?」
喫茶店からの帰り道だった。第1王子のロベールが他の5人に聞いてみた。『聖女列伝』という名のゲームの、主人公たるソニアの印象を。
「意外と普通の子だったわね。髪も目もありふれた色だったし。釘も刺したんだから、あの子が主人公として暴走することはないんじゃない? あっちも記憶がうすれているようだし」
「そうですね。僕が見てもあの子が野心を持っているようには見えませんでした。忠告もしたし、放っておいてもいいのでは?」
青髪の少女と黄色い髪の少年が言うが、他の3人は違うようだった。
「でも主人公だろ? 強制力とかがあって俺たちの邪魔をする可能性だってあるんじゃねえか」
「そうですね。まだ油断はできないと思います。今回のことで釘を刺したと言いましたが、私にはかえって彼女を頑なにした印象があります。この物語を操るために干渉してくることだって考えられますよ」
筋肉質とメガネが続けて言い募った。どうやら彼らはソニアに不信感を持ったようだ。
「じゃあ、決まりだな。あの女のように孤立させちまえばいい。そうすりゃ主人公とはいえ、何かをする気力もなくなんだろ」
シャルロットはいやらしい笑顔を浮かべていた。
「シャルロット! あなたは、また!」
「なあに。あくどいことをするわけじゃねえさ。権力を使いすぎるのがやばいって、あたしにも分かってる。ただちょっと、クラスの連中に教えてやるだけだ。第1王子がロルジュ家の次女を気に入らなないってな」
唇を吊り上げたシャルロットを見て、ロベールは嬉しそうに笑うのだった。




