23 シャルロット・アルトワと転生者たち
「シャルロット・アルトワ ・・・。え? あの?」
「そうさ。へへっ。ある程度の知識もありそうだな。あのクソゲーを知っているのなら、あたしの名前も覚えがあるってわけか」
ソニアはごくりと喉を鳴らしてしまう。
確かに、ソニアはシャルロット・アルトワの名前を知っていた。その名前は、あの『聖女列伝』にキャラクターとして登場していたのだから。
「いやでも! シャルロット・アルトワって、全然イメージが違うんだけど!」
「髪が長くて、みつあみで眼鏡を掛けてるあれだろ? いや、さすがにあんな格好はできねえって。性格もあれとは全然違うしな。あたしのキャラじゃねえ」
ソニアは絶句してしまう。
ゲームにおけるシャルロット・アルトワは、いわばお助けキャラだ。会えば攻略のヒントを教えてくれる他、各キャラの好感度なども教えてくれる。なぜか最初から主人公への好感度は高く、親身になって教えてくれるのだ。
「まあ、驚くわな。頼みの綱のシャルロットがこうなっているなんて思わなかっただろ? 主人公として好き放題するのに暗雲が立ち込めたって感じか?」
「い、いや、私はそんなつもりは!」
ソニアは慌てて手を振るが、シャルロットは冷めた目をしたままだった。
そう言えば、とソニアは思い出した。ネット小説とかでよくあるのだ。ヒロインに転生した登場人物が世界に優遇されていると勘違いして悪役令嬢に断罪されてしまう話が。
「わ、私は本当にそんなつもりはなくて! えっと、家族と一緒に暮らしていければそれで十分というか」
「そいつはどうでもいいんだよ。あんたが本当のことを言ってくれるなんて思わねえしな」
シャルロットは扉の外を指さした。
「あんたが来るのを待っていたんだ。会わせてやるよ。他の転生者ってやつにな」
そう言って、シャルロットは上目づかいにソニアを睨んできたのだった。
◆◆◆◆
シャルロットに連れてこられたのは、寮と学園の間にある喫茶店だった。森の近くにあるがかなり高級そうな店で、ソニア一人だったら決して入ろうとはしないだろう。店の前には武器を持ったどこかいかつい男たちがいて、ソニアは思わず目をそらしてしまう。
「まったくよぉ。すぐ来いっつってんのにクズグズすんだから。これだから主人公様ってやつはよ」
「い。いやいきなりそう言われても・・・」
強引なシャルロットに反論しようとするが、鋭い目で睨まれてしまう。実はすぐに行こうとするシャルロットを引き留めてソニアは準備だけはさせてもらったのだ。
「とにかく、早く行こうぜ。みんなあんたを待ってんだからよ」
「え、いや、ちょっと・・・」
慣れた様子で店に入っていくシャルロットに、ソニアは慌ててついていった。説明を求めても「みんな待っているから」とだけ言う始末で、ソニアは彼女の後を歩くことしかできなかった。
店内はお昼過ぎに差し掛かっても賑やかだった。シャルロットはこの店に何度も来ているようで、躊躇わずに奥へ奥へと進んでいく。
そして彼女は、守衛に守られた扉の前で立ち止まった。あからさまにVIPが利用するための個室だったが、シャルロットはにやりと笑うと扉を開いた。
「やっと来たか。遅かったな」
「こいつがもたもたするからよ」
ソニアは驚いていた。シャルロットにぞんざいに扱われているからでも、高級そうなこの店に、ずげずげと入っていったからでもない。
そこに座るうちの3人に、見覚えがあったからだ。
「なんだ? そいつ、逆らったのか?」
胡乱な顔でそう言ったのは筋肉質な少年だった。赤く長めの髪を逆立たせ、緑の眼を輝かせながら唇をゆがめていた。
「もしかしたら、逆切れしたのかもしれませんよ。この世界は私のものだってね」
見下すようにそう言ったのは眼鏡をかけた少年だった。緑の髪をオールバックにまとめ、黄色の冷たい上目遣いでクイっと眼鏡の位置を戻していた。
「我々を待たせるとは、予想通り傲慢な奴らしいな。私たちはもう、原作とは違う。そのことを理解させることから始めねばならんとは、厄介なことよ」
溜息を吐いたのは王子様のような少年だった。豪奢な金髪に青い目で質のいい服を着て、高貴な生まれだということがまるで隠せていない。彼は腕を組み、あきれたような目でソニアをねめつけていた。
5年前のあの日、夢で見た3人が座っていた。もちろん、細部は違う。髪型だって服装だって変わっている。でも彼らは夢で見た3人に、ゲームの登場人物に違いなかった。
「もう。怖いことばかり言わないで上げて。彼女、王都に来たのは初めてみたいだから」
「そ、そうですよ。こっちに来たばかりで戸惑っているのかもしれませんし」
こちらは青いロングヘア―をした少女と黄色い髪の少年だった。少女はおそらく同年代ではあるようだが、かなり落ち着いた物腰でゆったりとカップを傾けている。目の色は水色で右目にある泣きほくろが妙に色っぽい。少年のほうは純朴そうな見た目で、周りの人たちに遠慮しているようだ。
この2人だけはどこかソニアに好意的で、それだけでちょっとだけほっとしてしまう。
「えっと、あの、その・・・」
「さて。改めて警告しておこうか。私たち転生者がこの世界で自由に過ごすにはまずはルールを作る必要があるからな」
傲慢さを隠さずに話す金髪に、ソニアはごくりとつばを飲んだのだった。




