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18 報告

「ご当主様! 魔族の死骸です。それにウルフとオーガも!」

「うむ。やはり、魔族だったか。最近動きが活発化しておったからの」


 どうやら、ロルジュ家の当主は素早く動いてくれたらしい。直属の兵だけでなく、まさか当主自らが来てくれるとは、ソニアにとって予想外だった。


「本体が来るんなら、待つべきだったな。済まねえ。俺の、判断ミスだ」

「なに。我らがいたとて、被害がなかったとは限らん。孫たちの命が助かった上に魔族を3体も屠れた。十分よ」


 オースティンのつぶやきに答えたのは、まさかのロルジュ家当主だった。オースティンが慌てて頭を下げるが、当主は笑って手を振った。


「しかしさすがよの。魔族を3体に、ウルフが3体。しかも、オーガの死体まである。さすがは竜殺し。鮮やかな手並みだ」

「ええ。さすがですわ。彼を見出した兄上の慧眼も、同時に讃えねばなりますまい」


 当主に追従するように語った側近は、ソニアたちの叔母、コロンブだ。黒い鎧をまとった彼女は、しかしソニアたちを見て表情を曇らせた。そしてきびきびとこちらに歩み寄ってきた。


「え・・・」


 不安を感じたソニアをよそに、コロンブはソニアを通り過ぎてロザリーとオデットの前にしゃがみ込んだ。そして彼女たちを優しく抱きしめた。


「なんてこと。怪我をしているではないですか。まだ就学前なのに。オデットも」

「水魔法で傷は塞いだ。だが・・・」


 それからオースティンはロザリーの状況について語りだした。思っていた以上のけがの状態に、コロンブが沈痛な顔になっていく。


「ロザリー様だけじゃありません。オデット様も顔に怪我をさせてしまいました。すみません。この家の孫たちを、無事に返すつもりでしたが」

「師匠のせいじゃないよ! 私だ! 私が、焦って扉を破壊したから!」


 オデットが捕まっていることが分かり、最悪の状況を想像したソニアは、焦って扉を壊してしまった。そのせいで乱戦になり、結果としてロザリーとオデットに取り返しのつかない怪我をさせてしまった。謝っても悔やんでも、もうどうしようもない。自分の罪深さに、頭を下げることしかできないソニアだった。


「あ、あの! 私、何でもします! だからオデットだけは!」


 食い下がるように言うソニアを、ロルジュ家当主のカジミール・ロルジュは面白がるように見ている。


「ふむ。確かに顔に傷を負った貴族令嬢は、商品価値が激減したともとれるの」

「私! がんばりますから! 今まではろくに魔法を使えなかったけど、白の魔法を使えるようになって!」


 ソニアは必死でカジミールに食い下がった。


「オデットは、本当はいい子なんです! ちょっと口うるさいけど頑張り屋で! 生意気だけど、けっこう優しくて!」

「ちょっ、ちょっとソニア!」


 止めようと手を伸ばしたオデットを振り払い、ソニアは必死で言葉を続けた。


「勉強はそれほど得意じゃないけど、でも私が彼女の分まで頑張りますから! だから、オデットを放逐なんてしないでください! 口は悪いけど、この子も必死で頑張るはずです! がんばってこの家の役に立ちますから! だから!」

「ソニア」


 苦笑するように言われ、すがるような目でオースティンの顔を見た。神妙になっているかと思いきや、オースティンは笑い出しそうな顔をしていた。


「えっと、師匠? あれ?」


 きょろきょろと周りを見回すと、困ったような顔のロザリーと目が合った。その隣に伯母のコロンブがいて、なぜか彼女も笑いをこらえるような顔をしている。


「ふふっ。別にお前たちに思うことがあるわけではないぞ。確かに我が家は貴族家だが武を貴ばぬわけではない。顔に傷ができたとはいえ放逐など考えておらんよ」

「そもそもこの家で武力が重視されているのは私を見れば分かるでしょう? この領の騎士団を率いているのは私なんだし。オデットはきれいな顔をしていたから、それがなくなると冷遇されるかと思ったのね。そんなわけないでしょう。この子の道はちゃんと考える。私たちロルジュ家の人間は、子供たちを絶対に見捨てたりなんかしないわ」


 祖父と叔母に続けて諭されてしまう。それでも半信半疑なソニアは、おずおずと上目遣いで祖父を見つめた。


「えっと・・・。オデットをこの領からから放逐したりなんてしない?」

「しない」

「お姉ちゃんが腕を怪我したからって、邪険に扱ったりかったりしない?」

「するわけないでしょう。まったくあなたは」

「じゃ、じゃあ、魔法が使えなくっても、冷遇したりなんかは?」

「せんよ。少なくともこの家の人間はな。これまでもこれからもそう言うことはしなかっただろう? 我が家に生まれたからには見捨てたりなんてせんよ」


 当主にあきれたように言われ、ソニアは脱力してしまった。


「そもそもお前が魔法を使えないのは昔のことだろう。カルロスから報告が上がっておるぞ。お前が白の魔力に目覚めたことはな。お前の資質をいかに伸ばすかはオースティン殿と相談しながら決めていく。怪我をしたロザリーやオデットの将来もきっちりと考える。お前が心配するようなことは起こらんよ」


 当主に苦笑しながら言われ。ソニアは何とか頷いた。母や兄を見ていたら冷たくあしらわれるかもしれないと考えたが、そういうことはないのかもしれない。ほっとしつつも、どこか疑いを捨てきれないソニアだった。


「今回の件は悪いことばかりではない。アピールできたのだ。ロルジュ家は魔族を許さないとな。そのために領主一族が怪我を負ったとしてもプラスになりこそなれマイナスにはならぬ。それに、ロザリーの価値は剣のの腕だけではない。たとえ剣を振れなくなっても、進める道は無限というヤツだろう」

「ソニア様が順調に成長すれば、ロザリー様が剣を握れなくなるってことはないでしょうしね。幸いにして、2人はソニア様の血縁者でありますし」


 オースティンに名前を出され、ソニアは目を見開いてしまう。


「ソニアの血縁? それがどうしたの? この子はついこの間まで簡単な生活魔法すらも使えなかったのよ?」

「それはこの前までのことです。今のソニア様は違う」

「ふむ。聞いたことがあるぞ。白の属性を利用すれば、水以上の回復を行うことも夢ではないとな」


 当主の鋭い目がソニアを映していた。祖父とは言えその視線が何とも恐ろしく、ソニアはダラダラと汗を流してしまう。


「見てみたいな。お前が目覚めたという白の資質というヤツを。いかにカルロスから報告があったとはいえ、どれほどのものなのか。帝国の愚物でも魔法王国の王族でもないお前が、あの恐ろしい白の素質に目覚めたなど、前代未聞よな」


 当主の目はどこまでも厳しかった。


 ソニアは目をそらすように周りを見た。当主の隣では叔母のコロンブは相変わらず面白そうだし、オースティンは苦笑しながらもどこか楽しそうだ。オデットは、なぜか上目づかいで睨んでいた。


 そしてロザリーは・・・。


「おじい様。ソニアは」

「分かりました。私の資質を、確認されるといいでしょう!」


 全力で姉の言葉を遮った。


 おそらくロザリーはソニアをかばうような言葉を言うところだったのだろう。いつも心配してくれる彼女のことだ。わが身を顧みずに必死で守ってくれるつもりに違いない。


 でも、もしそれが当主の不興を買ってしまったら?


 ロザリーはただでさえ左腕に大けがを負っている。一応は当主から休むように言われているが、ここで不機嫌にさせてしまうと、本格的に嫌われることにもなりかねない。


「!! 待て! 今のお前の状態は!」

「行きます!」


 オースティンの言葉を振り払い、ソニアは集中した。体の中に練り込んだ魔力を器官に通していく。そして手のひら、足、お腹と全身すべてに魔力を循環させていく。


「!!」

「こ、これは!?」


 ソニアの全身から白い魔力が立ち上った。あまりに濃く、そして荒々しい魔力の渦は見る者すべてに衝撃を与えたようだった。ロルジュの騎士の中には飛びずさるものもいた。


「うそ、だろう? ここまでの道中に、入口の扉。そして、あのでかいオーガだろ? かなり魔力を使ったはずだ。なのになんでまだ、これだけの魔力を展開できるんだ」


 オースティンの声がソニアには遠くに聞こえていた。体がだるい。つむりそうになる目を押しとどめるのでやっとだった。


「あ、これヤバイ」


 言ったところで遅かった。すべての魔力を使い果たしたソニアは、糸が切れた人形のように倒れ込むのだった。

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