表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

17 ソニアとオーガと

「くおおおおおおおお!」


 方向が響いた。クザヴィエの支配を逃れたオーガが歓喜の声を上げていた。


「あ・・。聞いたことがある。支配を解けたばかりの魔物って、一番危険なんだよね。解放された喜びで勇んであがれ出すはず。特に自分と同じ種族じゃない場合はひどく暴れ出すっていう」


 ソニアがごくりとつばを飲んだとき、オーガと目が合った。メイスを持った少女を移したその瞳は歓喜に輝いているように見えた。


「げはははは」

「げっ」


 ソニアは慌てて飛びのいた。次の瞬間にはそれまでいた場所を、オーガの大きな影が通り抜けていく。まるでダンプカーが突撃してきたようだった。


 しかし・・・。


「あんまり速く感じない。それどころか、近づいた瞬間はスローになったような?」


 疑問に思う間にも、オーガの攻撃は続いていく。雅にソニアを押しつぶさんと、こん棒を振り回してくるが・・・。


 驚くほどスローなその攻撃を、かわすことは難しくなかった。


「がああ!!」

「よっ」

「うぼあああああ!」

「とっ」

「ぐぬあああああ!」

「それっ」


 叫び声とともに繰り出される攻撃を、簡単に避けてしまうソニア。段々避けるのが面白くなって、思わず笑ってしまった。


「ソニア!」


 声がして思わず振り返ると、左肩から大量に血を流したロザリーが心配そうに見つめていた。


「お、お姉ちゃん!」


 泣きそうになりながら、オーガの攻撃を避けていく。


「ヤバイ。速くなんとかしないと」


 ソニアは知っていた。ソニアを心配するロザリーが、簡単には下がってくれないことを。一刻も早く傷の手当てをしないといけないのに、ソニアが心配で決して引き下がらないのだ。


「ソニア! だ、だれか! ソニアを助けて!」


 叫んだのはオデットだった。顔から血を流しているのにそれでも心配そうな声を掛けてきた。


「早く倒さないと、2人とも傷の手当ても受け入れそうにないよね」


 ソニアは改めてオーガの姿を見た。オーガは恐ろしい形相でこん棒を振り上げてくるが、やはりソニアにはスローモーションのように見えたのだった。


「えっと・・・。確か必殺技を当てる前は軽くジャブを当てるのが基本だよね」


 ソニアは笑いながらオーガを見た。オーガの目には獰猛な獣が笑ったように見えたのかもしれない。ソニアを見て、おののいたように体を反らした。


「げ、げは?」

「いくよー!」


 恐れるオーガに素早く接近した。いつの間にか目の前にいたソニアに、オーガは目を見開いた。


「が、があ?」

「えい」


 気の抜けるような声を上げながら、メイスを振り下ろすソニア。攻撃は肩に直撃し、それをあっさりと破壊するが・・・。


「とう! そりゃ!」


 突き、払いと連続して攻撃を当てる。


 メイスの突きはオーガの胸に穴を開け、続く払いはオーガの頬を殴り飛ばす。


「そして!」

「ソニア!!」


 姉の叫び声を聞いて思わず手を止めると・・・。


「が、があああああ・・・」


 オーガが崩れ落ちていく。ソニアの3連撃は、大ぶりの一撃を与える前に、オーガを仕留めてしまった。


「あ、あれ?」


 振り返ると、姉のロザリーが心配そうに見つめていた。その後ろにはオデットがいて、こちらはドン引きしたような目で無言で佇んでいた。


 顔をひきつらせたソニアは、引きつった笑みを浮かべながら恐る恐る問いかけた。


「これ。遅いよね? おなかでもこわしていたのかな?」

「そんなわけないでしょ! オーガは人を恐怖に陥れる魔物なのよ!!」


 オデットの絶叫が、あたりに響いたのだった。



◆◆◆◆



 戦闘を終えたソニアたちは、さっそくロザリーたちの手当てをしていた。


「済まねえな。俺にもっと水魔法の腕があればいいのによ」

「いえ。命があっただけで十分ですよ。こうして全員がまた、顔を合わせられるだけで幸運ですから」


 ロザリーの笑顔がなんだか物悲しかった。


 左腕の傷は深かった。おそらく後遺症もあると思う。左手が使えない状態では近接で戦うことなどできないかもしれない。


「姉さま。すみません。私が捕まったばっかりに・・・」


 そう謝罪するのはオデットだ。彼女の傷も深かった。しかもけがをした部位が顔だ。可愛いと言われた美貌も見る影がない。顔に傷ができた彼女は、今後の嫁入り先も見つからないかもしれない。


 確かに、命は失われずにすんだ。だけど、この戦いでなくしたものも多い。ロザリーもオデットも、この戦いで未来を失ってしまったのだ。


「あの・・・。えっと」


 ソニアが何か言おうとした時だった。黒い鎧を着た騎士たちが続々と入ってきた。警戒するソニアの横で、ロザリーが素早く敬礼した。


 ロザリーが敬礼し、オデットも顔を引きつらせている。ソニアにも、この騎士たちに見覚えがあった。


 屋敷の本館で、この騎士たちの姿を何度も目にしていた。この騎士たちは、そう。ロルジュ家の当主直属の騎士たちだった。


 そして、騎士たちの間から、一人の老紳士が胸を張りながら歩いてきた。


「おじい様・・・。や、やばい・・・。おじい様にまで怒られる・・・」


 オデットのつぶやきに、ごくりとつばを飲んだソニアだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ