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16 ロザリーの覚悟とオースティン

「ぐあああああああああああ!」


 オーガの叫び声が響き渡った。一吠えすると、オーガはソニアを睨みつけ、鋭い瞬発力で突進してきた。


「わわっ」


 さすがのソニアも驚いたようで、何とか横に飛んで突進を避けていた。


「でくの坊! 次だ!」


 クザヴィエの言葉に反応するように、オーガが攻撃を続けてきた。それをなんとかかわずソニアは、珍しく回避で精いっぱいなようだった。


 オーガは、魔族に使役されることで脅威度が跳ね上がる。力はあっても頭脳はそれほどでもない魔物は、魔族の指示を受けることで変わるのだ。動きが洗練され、効率的に攻撃することで人間を簡単に蹂躙してしまう。


「くっ! ソニア!」


 助けに入ろうとするロザリーは、動けない。対峙する魔族に邪魔をされ、ソニアをフォローすることはできないのだ。


「邪魔を、するな!」

「くくく! いいのか? 俺をこのままにして。そのガキがどうなっても知らんぞ」


 アルマンと呼ばれたその魔族は、やはり戦闘経験が豊富のようだった。猛攻を防ぎ、しかもオデットを狙うそぶりも見せて、さすがのロザリーも抜くことはできない。


「くっ! 魔族なんかに!」

「ふっ。その魔族ごときにお前は倒されるのだ。我らを見下したそのつけを命をもって支払うがよい!」


 ロザリーは必死で剣を振るうが、当たらない。土の魔力で身体強化しているはずなのに、ロザリーの剣戟はかすりもしないのだ。


「やはり、所詮は子供だな。腰が引けておるのよ。怯えて震えた剣では俺を殺すことなどできぬ」

「あなたごときに!」


 アルマンに言い返すロザリーだが、現実は変わらない。相変わらず剣戟は当たらず、不意を突いたはずの魔法も簡単に避けられてしまう。


「こうなったら」


 ロザリーは覚悟を決めた。


 アルマンの言葉はすべてが的外れというわけではなかった。腰が、ひけているのだ。相手を殺してしまうのを恐れる気持ちもあるが、どこかで躊躇していた。攻撃して相手を倒してしまったら? そして、もし大振りしてその隙を付かれてしまったら?


「相手の身を、自分の安全を第一に考えて倒せる相手ではない! だったら!」

「ふん! 子供が何を言おうが結果は変わらん。かわいそうだが、お前の人生はここで終わりだ!」


 アルマンの攻撃を避けながら、ロザリーは構えた。攻撃に集中するためだ。


「ほう。くくく。それを選択するか」


 相手には分かったようだった。ロザリーが、次に何かを狙っていることが。


 腰が引けている云々を言い出したのはアルマンだった。それは事実ではあるものの、罠である可能性は高い。ロザリーにあえて集中させて、攻撃の隙を狙う気かもしれない。


「でも、腰が引けているのは確かなことよ。これ以上時間を掛けていられないのは変わらない。無傷で倒そうなんておこがましいのかもしれない。だったら!」


 動き出そうと足を踏み出した瞬間だった。アルマンが急にスピードアップしたのだ。


 気づけばロザリーの目の前に、大刀を大きく振りかぶったアルマンの姿があった。


 このままではロザリーが剣を振るうより先に、アルマンの攻撃があたるだろう。でもロザリーは下がることなくさらに一歩を踏み出した。


「これで!」


 アルマンの大刀が、ロザリーの肩に食い込んだ。このままいけば、ロザリーは真っ二つにされてしまうが・・・。


「!! 馬鹿な!」


 ロザリーを切り裂く前に、攻撃は止まった。大刀が体に届いた瞬間に土の魔力で、アルマンの武器を挟み込んだのだ。


 引き抜こうともがくが大刀はぴくりともしない。アルマンの目が次第に恐怖へと染まっていく。


「う、動かんだと?」

「これで終わりよ。魔族は滅する。それが、この国の貴族に生まれた私たちの責務なのだから」


 アルマンの喉を、ロザリーの剣が貫いた。魔力を込めた刺突はアルマンの魔力障壁を容易く打ち破ったのだ。


 力を失って倒れ行くアルマンを、ロザリーは茫然と眺めてしまった。でも次の瞬間には正気を取り戻し、素早くあたりを見回した。


「ソニアは? マノンは? オースティンさんはどうなったの?」


 左肩から血がとめどなく流れていく。それを無視するかのように、ロザリーは戦況を確認した。そしてちょうど、オースティンたちの戦いの終焉を目撃するのだった。


 

◆◆◆◆



「ほら! どうしたどうした!」

「うっ! くっ! このっ!」


 クザヴィエの猛攻に、マノンは翻弄されていた。歴戦の猛者らしき赤い魔族に、まだ成人も迎えていないマノンが食らいついていることのほうが奇跡かもしれない。


 剣と盾を使った堅実な戦い方。守りを第一とした堅実な戦術が、功を奏しているともいえるが・・・。


「ほらよ!」

「うぐっ! 貴様!」


 やはりというか、オースティンだった。マノンに襲い掛かる決定的な一撃を、魔法を放つことで無効化している。


「貴様さえいなければ、こんな小娘一人、簡単に殺せたものを!」

「はっ! 自分の未熟さを棚に上げてよ! これだから頭の悪い魔族は! まさに獣並みの頭なんだな!」


 歯ぎしりしながら叫ぶ魔族に辛辣な言葉を掛けるオースティンだった。いつもは飄々としているオースティンの変わり様に、マノンは内心かなり動揺していた。


「これだからこの国の人間どもは! 獣の姿をした我らが醜いか! 恐ろしいか! 外見だけで獣扱いされる我らの気持ちは分かるまい! 貴様らの内心がいかに醜いかを暴いてやろうではないか!」

「獣の外見? そんなことを気にしているのか? 心配すんなよ。お前らが嫌われていんのはそんなちんけな理由じゃねえ」


 オースティンが、また魔法を放った。これで何度目だろうか。オースティンが炎の鞭を放つたび、魔族の決定機がつぶされている。彼の援護がなければ、マノンはとっくに殺されてしまっていただろう。


「はっ! この期に及んで取り繕おうとは! これだから人間は」

「俺が魔族を許せねえと思うのは、故郷を滅ぼされたからよ」


 オースティンの言葉に、さすがの魔族も絶句していた。


「5年前の魔族の大侵攻の時を覚えているか? 俺はあの時襲われたカンパーニュの街で育ったんだ。何年も帰ってなかったがいい街だったぜ」

「ぐっ! だが! 人間の街だ! 我らを虐げる、罪深い人間たちのな! だから!」


 言葉を荒げる魔族に対し、オースティンはどこまでも冷静だった。


「語るに落ちたな。お前らは何の罪もないと知って、あの街を滅ぼしたんだ。それは、外見が獣のようだから蔑んでくる人間たちと何が違う? お前らはただ気に入らないから、気軽に発散できるから俺の故郷を襲ったんだろう」

「だ、黙れ人間ごときが!」


 クザヴィエはマノンを無視するかのようにオースティンに火を放つが、簡単に避けてしまう。


「ふ、ふん! 人間の魔術師ごときが! だが気づいているか? 貴様の炎が我には通じんということが! 資質が足りんのよ! お前ごときの魔法では、我を倒すことはできぬ!」


 クザヴィエの言うとおりだった。オースティンは炎の鞭を何度も放っているが、クザヴィエには全く通じていない。攻撃を打ち消してはいたが、ダメージを与えられていないのだ。


「忌々しくも、同胞を屠った一撃だが、我には通じん。それに気づいているぞ。ここまで来た身体強化に、その小娘を守るための魔法。相当に魔力を使ったな。残り少ない魔力で我を倒せると本気で思っているのか?」

「これだから頭の悪い魔族は。魔法戦は威力の大小がすべてじゃねえんだよ。素質が低くたって、技術次第で巨大な敵だって屠れるんだぜ?」


 オースティンが構えた。突き出された手から立ち上るのは、緑と青の2種類の魔力だった。


「お前! それは!」

「確かに俺の青はそこまで濃いもんじゃねえけどよ。足りないなら緑を足せばいいのさ」


 にやりと笑うオースティンから立ち上る2つの魔力。緑と青が交じり合って、一体となって重なっていく。


「ほら。くたばれよ」

「くっ! 何を!!」


 オースティンから放たれた魔弾が、クザヴィエに直撃する。クザヴィエの身体から緑と青の光が放たれーーー。


「ぐっ! 貴様!」

「終わりだ」


 クザヴィエの身体がはじけ飛んだ。それを中心に巻き起こった冷たい竜巻に、マノンは思わず腕で顔を隠してしまう。


「やったんですか?」

「ああ。しかし、ちきしょう。魔力切れだ。複合魔法まで使わされたんだからよ。もうすっからかんで、煙も出ねえよ。お嬢ちゃんたちを助けることもままならねえ」


 そして周りの様子を伺った。


 ロザリーは、大けがをしつつも勝利したらしい。まだ12歳の彼女が歴戦の魔族を倒したのだ。怪我の様子が気になるものの、まさに大金星と言えるだろう。


 でもソニアは?


 ソニアは、まだ戦っていた。狭いこの小屋で、3メートル近くもあるオーガと対峙していた。


「ソニアお嬢様!」

「やめとけ。お前も相当に魔力を使ったんだろう? 今行っても足手まといになるだけさ」


 いきり立つマノンを、疲れた様子のオースティンが制止した。


「しかし!」

「よく見ておくんだ。本当に才あるものの戦い方ってやつをな。あのお嬢ちゃんは本物だ。ロザリー嬢ちゃんのようにこの国有数の逸材なんてもんじゃない。それこそ、この国の、この世界にもまれにみる大天才なんだよ。ソニア嬢ちゃんは」


 マノンは驚いた顔でオースティンを見て、そのままソニアに視線を戻した。


 そして、気づいてしまう。


「うそ・・・。あのひどかった傷が、跡形もなくなくなっている!」

「覚えておきな。白の属性を持つ人間の恐ろしさをよ。白の魔力はどこまでも使い手を守る。ひどかった傷も、あっという間にあの通りよ」


 疲れたように言うオースティンは、どっかりとその場に座り込んだ。


「さて。俺たちもみようじゃねえか。魔族の言う、撲滅の聖女とやらの、その恐ろしさをよ」


 マノンは戸惑いながら、ソニアの戦いを見守るのだった。

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