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15 隠れ家での戦い

 手足を縛られたオデットと3体の魔族が目を見開いていた。


「アルマン!!」


 赤い魔族が仲間に命令したのと同時だった。


「うわっ!」

「なにが?」


 扉から炎の鞭が飛び出し、オデットを押さえようとした魔族を打ち据えた。2体の魔族は何とか立ち上がったものの、動くこともできずそのまま入口のほうを睨みつけた。


「はっ! さすがは魔族。きたねえ手を使いやがるな。こんな小さな子供を人質にしようなんてよ」


 ゆったりと歩いてきたオースティンだった。いつもは飄々としている彼も、魔族を前にすると目つきを鋭くしている。


「くそっ! どうやってここを突き止めた!」

「俺は魔術師だぜ? その嬢ちゃんを追いかけることなんぞお手の者さ。ああ。頭の悪い狼には分かんなかったか? 人間の魔術師はこんなもんはお手のものよ」


 挑発の言葉を放つオースティンを、魔族たちは歯ぎしりせんばかりに睨みつけている。


 次の瞬間、オースティンの傍らから突撃してくる影が一つーー。その小さな影は素早くオデットに近づいて後ろにかばった。


「オースティンさん! オデットは確保しました!」

「!! おのれ!」


 慌ててロザリーを確保しようとした魔族は、次の瞬間には大きくのけぞった。いつの間にかソニアが魔族の頭めがけてメイスを振るったのだ。


 魔族に悪寒が走った。もしあれを避け損ねたなら頭はスイカのように砕けていただろうから。


「む。さすがね。簡単に避けてくれちゃって」

「く、くそ! 撲滅聖女め! こんな時から我らの邪魔をするか!」


 ソニアは深呼吸してメイスを構えた。


 オデットは確保できたが、油断はできない。何しろここは敵の拠点。どんな罠があるかわからない。


「ぐるるるる」

「くっ! 魔物なんかに抜かれるわけには!」


 ロザリーが自分を鼓舞するように剣を構えた。


 慌ててオデットを探したせいで、こちらの人員は少ない。


 扉を壊したソニアと、素早く人質の救出に動いたロザリー。そして彼女たちを護衛するオースティンとマノンが要るのみだった。対するは、3体の魔族に3匹のウルフ。


 ソニア側の4人に対し、相手は6体。オデットをかばいながら対処するのは難しいとしか言えなかった。


「魔族が3体とウルフが3匹! でも数が多いからって!」

「違う! 6体だけじゃない! 奥にもっと危険な魔物が!」


 猿轡を外したオデットが、警告の言葉を飛ばした時だった。奥から大きな影が駆け込んできて、ロザリーとソニアを襲ったのだ!


 慌てて飛びずさったソニアを、魔族が追撃してきた。最初の攻撃は何とか避けたソニアだったが、更なる追撃には対処できない。メイスのガードをすり抜け、逃げようとするソニアを引き裂いた。


「くっ! 爪? 本当に獣みたい」

「ひょううううおああ!」


 爪の一撃だけに飽き足らず連続攻撃を仕掛けてくる魔族。直撃こそ避けたものの、ソニアはあっという間に血まみれになってしまう。


「あははは! 血まみれじゃないか!」

「くっ! でも隙だらけなのに仕留められないなんて、魔族というのもあんまり強くないんじゃない?」


 ソニアが悪態をついた時だった。


「あ、ああああああああ!」


 叫び声が響き渡った。オデットが顔を押さえて絶叫していた。指の隙間から流れる赤い血に、ソニアは絶句してしまう。


「オ、オデット!」


 ソニアは歯ぎしりした。魔族とウルフの連携で、ロザリーとオデットが引き離されたのだ。オデットはすぐにロザリーのほうに向かったが、走り出す彼女を魔族の爪が襲ったのだろう。


 魔族に切り裂かれ、顔から血を流すオデット。その姿を目の当たりにし、ソニアは思いっきり魔族を睨みつけた。だけど次の瞬間にはウルフに飛び掛かられてしまう。


「よくも!」


 ロザリーが剣を振るうが、魔族にひょいと避けられた。むきになって振るい続けた剣を、魔族は余裕で裁いていく。


「ははははは! 不意を突いたようだが所詮は子供! どうだ! 悔しいか! 人質を取り戻したつもりだったのになあ! お前の油断がそのガキの顔を傷つけたんだ! お前のせいで、そのガキは傷物になったんだよ!」

「くっ! 黙れ!」


 ロザリーの猛攻を、魔族は余裕で受け止める。大刀を振るった魔族は余裕の表情だ。


「くふふふふ。お前、人に剣を向けるのは初めてか? 神童と言われても所詮はガキ。震えた剣で、我らを倒せるとは」

「アルマン! 避けろ!」


 仲間の警告に、その魔族は反射的に飛びのいた。その鼻先を、何か大きなものが高速でかすめていく。


 過ぎていったものを見て、魔族のアルマンはぎょっとしてしまう。それは死体だった。頭をつぶされたウルフが、アルマンの鼻先をかすめて壁に張り付いていたのだ。


「なかなか当たらない。さすがは魔族。こそこそと逃げるのだけは得意なのか」


 そこにいたのは、メイスに着いた血のりを振り払う少女の姿だった。かたわらには床に大の字になって張り付いたウルフの死体も目に入った。


「ば、バカな・・・。お前も、重症のはず! なのに同胞の攻撃を避けながら、ウルフを始末したというのか! それを俺になげつけるなど!」

「へ? あ、うん。でも狼頭もウルフもゆっくりだったじゃん。遅いくせにしつこく襲ってくるから思わず反撃しちゃった」


 言いながらメイスを振り下ろすソニア。不意を突いたはずのウルフの頭を目の前でつぶされ、魔族は言葉を失ってしまう。


 ウルフの動きはゆっくりなどというものではない。素早く動くウルフを捕らえるのに魔族が苦戦するのも珍しいことではなかった。


 でも、ソニアはあっさりとウルフを仕留めて見せた。魔族の攻撃を凌ぎながら、3体のウルフを叩き潰したのだ。


「く、くそっ! いつまでも好きにできるとは!」


 動きを止めたソニアに、魔族が飛び掛かろうとした時だった。横合いから飛び出した炎の鞭が、魔族の頭を吹き飛ばした。


「油断大敵だろうが! 戦場では目の前の敵にだけ集中してればいいってもんじゃねえんだぞ!」


 オースティンだった。オースティンが横から魔族に炎の鞭を放ってくれたのだ。


 オースティンと対峙していた魔族はマノンに抑えられている。マノンと赤い魔族には相当の力量差があるが、オースティンの援護のおかげでなとか戦えている。


「おのれ! よくもステノを! この、人間の魔術師ぶぜいが!」

「何言っていやがる! 魔物の力を持つお前らが人間に負けたのはなぜだ? いかに数が多かろうが、凶暴であろうが、人間が勝てる理由はなんだ? 全部、魔法の差だろう! 俺たち魔術師はお前たちの天敵なんだよ!」


 オースティンに返されて思わず口ごもった赤い魔族だった。


「でくの坊! 何をしている!ターゲットがわざわざ来てくれたんだ! その忌まわしい撲滅聖女を殺せ!」


 苦し紛れのような赤い魔族の声は劇的な効果をもたらした。ソニアを襲ってきた大きな影がゆっくりと立ち上がってきたのだ。


 赤銅色の肌に筋骨隆々の身体。頭には2本の角があり、獣のような目でソニアを睨んでいた。


 3メートルほども大きな影を見て、オースティンはうめいた。その影を、人間にとって大きな脅威になるその魔物を、オースティンはよく見知っていた。


「ちきしょう・・・。てめえ、オーガまで使役するっていうのかよ・・・」

「くふふふ! 我は赤き堅狼のクザヴィエ! たとえウルフと違くとも! この程度の魔物を使役するなど朝飯前よ!」


 吐き捨てるようなオースティンの声とクザヴィエの嘲笑が、あたりに響いたのだった。

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