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14 発見と救出と

 ロザリーは駆け出していた。一刻も早くオデットを見つけなければならない。


 無事ならば、それでいい。でもオデットは男爵令嬢だ。誘拐される可能性は少なくない。祖父や父の奮闘もあって男爵領の治安は良いが、それでもオデットが無事とは限らないのだ。


「お姉ちゃん!」


 背中越しに声が聞こえ、ロザリーは絶句してしまう。妹のソニアがオースティンとともに追いついてきたのだ。


 オースティンは、分かる。彼は高名な魔術師で、身体強化の技術もずば抜けている。ロザリーたちに追いつくことも難しくはないだろう。


 だけど、ソニアは?


 ついこの間まで“加護なし”と蔑まれていた彼女がロザリーたちを凌ぐスピードで走ってきたのは信じられるものではなかった。


「オデットが居そうな場所に、あてはあるの?」

「自信はないけど、いくつかは。あの子が無事ならば、の話だけれど。一応、今日はどこに行ったのかは押さえてあるわ」


 ソニアと並走しながらロザリーは答えた。


 オデットは教育された貴族令嬢だ。こういうシチュエーションでどうすればいいかは学んでいる。それに従っているのなら間もなく合流できるはずではあるが・・・。


 ロザリーは不安だった。もし彼女に何かあったら。セオリー通りの行動ができない事態が起こったとしたら、彼女との合流は限りなく難しくなってしまう。


「優秀とはいえまだ子供だな。こういう時こそ魔法の使いどころだろう」


 オースティンが足を止めた。ロザリーはムッとするが、自分も立ち止まって振り返った。そばのマノンはあからさまに不満な顔をしている。


 でも、その表情が凍り付いた。ロザリーも目を見開いている。オースティンが魔法を展開したのだ。あたりは一瞬にして洗練された緑の魔力で満たされていった。


「オデット嬢ちゃんは魔道具店で風のアミュレットを買っていた。だからあれの場所を調べればオデット嬢ちゃんの足取りがつかめるって寸法よ」


 オースティンはにやりと笑い、手のひらにある緑の魔法陣を握りつぶした。


「そ、それは!」

「フィーデンってんだ。この魔法王国ではメジャーな魔法なんだぜ。あんまり威張れるものではないしな」


 砕けた緑の魔法陣な粒子となり、四方八方に飛んでいった。ロザリーたちが目を見開く傍らで、飛んだ魔力が戻ってくる。オースティンがその魔力を読み取ると、北東のほうを指さした。


「こっちに反応があった。大体300歩ってところだな。あのアミュレットとお嬢ちゃんの魔力だ。さすがは貴族令嬢。お嬢ちゃんはうまく、あのアミュレットを隠したんだな」

「隠した? やはり、オデットは誰かに捕まったのですね!」


 ロザリーの疑問に苦い顔をして頷くオースティンだった。


「ああ。お嬢ちゃんの近くに魔力反応がある。これはたぶん、誘拐犯だな。あのお嬢ちゃん、やっぱり捕まっちまったようだぜ」



◆◆◆◆



 オデットは震えていた。拘束してきた相手が笑い声を上げて談笑しているのだ。


「ぼろい仕事ですよね。貴族の子息だか何だか知らないが、護衛対象と離れたところで冗談なんか言っているなんて」

「そうですよ。くくく。あの魔術師がいたときは手が出せませんでしたが、あいつがいなくなった途端にこれですから。おかげで簡単にことが運べやした」


 しゃべっているのは、狼のような顔をした2人の男だった。灰色の毛皮を持つ彼らは、乱暴そうにそう語り合っていた。


 誘拐されたオデットは、近くの森の中に連れ去られた。扉のある読つで、手足を縛られたまま放り出された。そこで待っていたのは、3体もの狼面をした魔族だった。


 コボルトやゴブリンなど、人間のように2足歩行をする亜人種は多く存在する。その中で、一定以上の知能を持ち、人間の言葉を理解する種を、人は魔族と呼んで恐れている。


 魔族には特徴があった。知能が高いことや人間のように道具を使うことだけではない。


「ぐるるるる」

「待て。まだだ。こいつにはまだやるべきことがあるからな」


 赤銅色の毛皮を持った一際体格のいい狼男が、そばにいたウルフをたしなめた。それにもかかわらずオデットのほうを凝視するウルフに、ただ震えることしかできなかった。


 魔族の特徴だった。


 魔族は眷属となる魔物を従えることができる。ゴブリンもどきならゴブリンを。オークもどきならイノシシを。


 そして、狼交じりならウルフなどを。


 赤い狼頭の魔族は、3匹のウルフを引き連れている。ウルフの素早い動きに翻弄され、オデットはあっさりと捕まってしまった。あまりの連携に、助けを呼ぶ暇さえなかった。


 もっとも、チャールズの護衛やアンソニーは気づくそぶりすらも見せなかったのだけど。


「夜が深まったら移動するぞ。闇に紛れて動けばこちらの動きを察知することもできんはずだ」

「分かっています。あの方と合流してこれからのことを話し合いましょう。何せ人質はあの女の妹。聖女と言われるあの女なら、家族を見捨てるはずはありませんから」


 オデットは身動きを取れないながらも、男たちの会話に耳を欹てていた。一言一句聞き逃さないことで、脱出のための手がかりを掴もうとしていた。


(妹、というからには、狙いはロザリーお姉様? でも、なんで魔族がお姉さまを狙うの? それに、聖女という言葉も引っかかる。ロザリーお姉さまは素敵で凛々しいけど、聖女と言われたことは、なかったはず)


 疑問でいっぱいになってしまうオデットだった。


 何とか、情報を伝えなければならなかった。この洞窟には3体の魔族と3匹のウルフの他に、こちらがおののくような魔物もいるのだから。


 現状を変えようとしたオデットが身をよじらせた、その時だった。


 どおおん!


 轟音が響いた。何者かが、洞窟の扉を壊そうとしているのだ。


「くそっ! 誰だ!」

「落ち着け。ここの扉は中に鉄板が仕込んである丈夫なものだ。簡単に壊せるわけが」


 話している間にも轟音が響いていた。まるで攻城兵器でも使っているかのような轟音に、オデットは思わず身を震わせてしまう。すさまじい打撃音に、ここの扉がもつとは思えなかった。


 何度目かの轟音とともに、何かが砕けてしまった。ついに扉が土煙を上げながら壊れたのだ。


 土煙が晴れるにつれ、扉を壊した人影が明らかになっていく。その小さな人影が明らかになると、オデットは目を見開いてしまう。


 根元が白髪の老婆のような長い髪に、輪郭だけが黒い白の瞳。小さな体に大人用の大きなメイスを担いだその人影を、オデットはよく知っていた。


 毎日のように罵り合っていた。時に泣かすことも泣かされることもあった。無能だと言われながら、それでも毎日の日課をやめなかったその少女の顔を、オデットはいつも見ていた。


「オデット! もう大丈夫だからね!」


 その少女はメイスを担いで笑顔になった。彼女は、2歳年上の、大切な家族のソニアだった。


「くそっ! 撲滅の聖女が、なぜこんなところに! お前がここに現れるはずがないだろう!」


 狼頭の叫ぶ声に、オデットは泣きそうになってしまったのだった。

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