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13 護衛の任務

「あなたたちだけで帰ってきたのですか!? オデットをほおっておいて? なに考えてるんですか! あなたはうちの護衛でしょう!」


 激高したロザリーは駆け出した。マノンを大声で呼び、町へと向かうつもりだろう。必死の形相で動き出すロザリーを、チャールズとアレクシーが呆然と見つめていた。


「何事だ。騒がしい」


 歩み寄ってきたのは兄のフランクだ。母のカリーヌもいて、面倒くさそうな目を向けてきた。


「あ、いえ・・。その、オデット様がはぐれてしまって・・・。戻ってきているかと思い、先に帰ってきたのですが」

「何かと思ったら。オデットが迷惑をかけてしまったようですね。どうせはぐれてしまっただけでしょう? すぐに帰ってきますわ」


 カリーヌの言葉にあからさまにほっとしたアレクシーだった。


「ソニア嬢ちゃん。俺たちも行こう。オデット嬢ちゃんに何かあったのかもしれねえ」

「待て。すぐに戻ってくると言っているだろう。町の子供じゃないんだから」


 止めたフランクを、オースティンが厳しい目で睨んだ。


「オデットはあんたの妹だ。心配じゃねえのかよ」

「護衛ごときが偉そうに。心配しなくてもすぐに戻るさ。ねえ。母上」

「ええ。オデットは子供とはいえちゃんと教育しています。すぐに戻ってきますわ。大げさにすることなんてありませんのに」


 ソニアが言い返す前に、オースティンが冷たい目で彼らに詰問した。


「らちが明かんな。俺は行くぜ。そのバカがへましたせいで、その割があんな小さな子に行くのは耐えられん」

「くどい! 無視をするな! 私は貴族だそ! このロルジュ家の後継と目されているな。祖父や父を継ぐのは私だ。私が必要ないと言っているんだからそれでいいだろう。まったく。竜殺しだか何だか知らんが、ジラール家のご子息になんて口を聞くのだ!」


 多分オースティンに反感があったのだろう。フランクに捜索を阻まれてしまうが、オースティンはそんな兄を怒鳴りつけた。


「俺たちの仕事は! ロルジュ家の子供たちを護衛することだ! いなくなった子供を探すのは当然だろう!」

「そ、そんなに怒らなくても・・。きっとすぐに帰ってきますよ」


 慌ててたしなめるアレクシーを気にも止めず、オースティンは荷物を確認し始めた。ソニアも慌てて部屋にメイスを取りに行った。


「オ、オースティン殿!」

「俺たちの雇い主は誰だ!? そのバカ息子やケバい女じゃねえだろ! ロルジュ家の次期当主だ! 雇い主から与えられた仕事はなんだ?! ロルジュ家の子供を守ることだろう!」


 厳しい声で告げるオースティンに、アレクシーは何も言えなくなった。


「貴様! 私の言うことが!」

「あんたはいつからカルロスの旦那より偉くなった! いつから、旦那の命令を無視できるようになったんだ! 調子に乗るのもいい加減にしろ!」


 激高するオースティンに口ごもるフランクだった。そうした中、ソニアが息を切らせながら顔を出してきた。


「師匠! 準備できたよ! と言っても、メイスくらいしか持っていくものはないけどね!」

「うし! 俺たちも行くぞ! あんまりロザリー嬢ちゃんを待たせるわけにはいかないからな!」


 オースティンは駆け出し、ソニアもその後に続いた。


「ま、待て平民! まだ話が終わったわけでは!」


 フランクは手を伸ばすが、オースティンたちの背中は見る見るうちに離れていく。馬よりも獣よりも速く走るオースティンたちを、フランクたちはあっけにとられて見送るしかできない。

 

「フランク様。奥様」


 呆然とするフランクたちに、ロルジュ家の家令が声を掛けてきた。


「・・・なんだ。貴様ごときが。貴様に構っている暇がないのが分からんのか」

「そうよ。あの子たち。あんな恥知らずな平民に付いていくなんて。お義父様に言って、目にものを見せてあげるわ」


 口々に言うフランツたちに冷や水を掛けるように、家令から冷静な声が発せられた。


「今回の件は、私から旦那様に報告させていただきます。皆様が、当家の子であるオデット様にどのような対応をされたかを、すべてね」


 慇懃に頭を下げる家令に、フランツは絶句していた。


「お、おい!」

「私目も知りませんでした。まさかフランツ様に、カルロス様の命令を覆すほどの力があるとは。きちんと報告させていただきますよ。ジラール家のご子息が、どのように護衛の任をしているかを。カリーヌ様の言動を含めて、すべてね」


 口をはさむ暇もなかった。彼らはやっと思い出した。ロルジュ家の家令の主人が、誰かを。


「ま、待て! お前! 誰に向かって!」

「詳細に報告させていただきますよ。誰が、どんなことを言ったかをね。何しろ証人は多い。あなたたちの言動は多くの人に聞かれているのですから」


 フランツは慌てて周りを見渡すと、ひゅっと息を飲んだ。使用人たちが厳しい目でフランツたちを見つめていたのだ。


「ま、待ちなさい! お義父様たちには私から!」

「ああそうだ。一つ聞きたかったんですよ。もし、今回失踪したのがチャールズ様ならいかがしました? フランツ様なら、あなたは冷静でいられましたかな」


 問われて、カリーヌは絶句してしまった。やっと思い至ったのだ。もしチャールズがオデットのように置き去りにされてしまったら・・・。


「それでは失礼いたします。旦那様方に報告せねばならないですから」


 去っていく家令を、フランツたちは見送ることしかできないのだった。

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