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12 ソニアとオデットの事情

「お前さん。本当に白くなったな」

「あ、師匠もそう思いますか。さっき母にも叱られたばっかりで・・・」


 日課を終えた後だった。オースティンと挨拶をするとさっそく指摘されてしまった。


 白の属性に目覚めて以降、ソニアの姿は変わってしまった。栗色だった髪と茶色の目は徐々に色素が抜けて言って、どんどん漂白されていった。


 老婆のようになったソニアを見て母は嫌悪感を隠さず、兄は近づくなと冷たく言い放った。弟のチャールズとはますます縁遠くなった。


「親父さんも心配してたぞ。白の属性に目覚めた影響だって言ったらほっとしてたがよ。くれぐれもとお前のことは頼まれたぜ」

「へへ。そうですか」


 照れたように頭を掻くソニアだった。


 白くなって冷たくなる者もいればそうでない者もいる。父は忙しそうだけどちゃんとオースティンから学ぶように言ってくれるし、姉のロザリーも心配そうだけど受け入れてくれる。母や兄弟に避けられても、あまりダメージはないソニアだったけど・・・。


「あ・・・」


 オデットだった。オデットが今に入ってきたのだ。


「え、えっと・・・。オデットは今からお出かけするの?」

「うん。母様に呼ばれているから」


 言葉少なくその場を後にするオデットを、見送るしかないソニアだった。


「オデットと、あんまり話さなくなっちゃったんですよね。前はなんだかんだで悪態をついてくれる関係だったのに。やっぱり急に白くなったのは気持ち悪いでしょうし」

「そうじゃないだろうな。小さいお嬢ちゃんはそんなことを気にする玉じゃねえと思うぜ」


 フォローするように言ったオースティンをソニアは何となく見つめててしまった。


「師匠はなんか知っているんですか? その、オデットが私にそっけなくなった理由」

「ま、だいたいな。オデット嬢ちゃんも考える時が来たってことだろうさ」


 オースティンは溜息をつきながらもオデットが去っていったほうを見つめていた。


「あくまで俺の予測だがよ。オデットお嬢ちゃんは親近感を感じていたんじゃねえか? ソニア嬢ちゃんによ」

「へ? いやそれはないんじゃないですか? 顔を合わせるたびにうるさく言ってきたし」


 ソニアが溜息を吐くと、オースティンは苦笑しながら首を振った。


「ソニア嬢ちゃんとオデット嬢ちゃんは同じなんだよ。この家での立場ってやつがな。どちらも後継候補にはなり得なくて、しかも目立つ才能がないと来ている」

「それは・・・。そうかもしれませんね。私は加護なしってバカにされてたし、オデットだって才能があるほうじゃない。運動神経も学力も魔法の才能も、ロザリー姉さんはもちろんチャールズにだって及ばないようですから」


 思わず暗くなってしまうソニアだった。


 兄のフランクはともかく、双子の弟のチャールズにも見下されてしまうオデットのことを思ったのだ。生まれた日も同じで、顔も体格も似通っている。男女の違いこそあれ、チャールズにも比べられ、劣っているとみなされるのは辛いものがあるかもしれない。


 もっともソニアは、そのオデットよりも見下される加護なしだったのだけど。


「だけど、変わっちまった。同じようなもんだと思っていたソニア嬢ちゃんが、白の属性に目覚めたんだ。しかも、自分が持ち上げることすらできない武器を、簡単に振り回しちまったんだからよ。焦っただろうぜ。置いて行かれたような気持になっているかもしれねえ」

「オデット・・・」


 ソニアは微妙な顔でオデットが言ったほうを見た。


「ソニア嬢ちゃんに責任はねえ。考える時が来たってことさ。このままきれいなだけで何の技術もないチャールズ坊ちゃんの付属品のように扱われるか、それとも――。まあ、こればっかりは本人が考えるしかねえやな」


 無責任に言い放つオースティンに。ソニアは頬を膨らませた。


「師匠」

「まだ小せえのに貴族の子供は大変だな。俺なんぞ、お前たちの年のころは近所のガキどもと遊び回っていたからよ。お前らはその年で、これからどうやって生きていくかを決めなきゃなんねえんだからよ」


 にやにや笑うオースティンに、不機嫌さを見せるソニアだった。


「オデット。ああ見えて、あんまりチャールズと仲良くないみたいなんですよ。フランクともね。母とも婚約者もどきとも距離があるみたいだし。だから本心ではロザリー姉さんと仲良くなりたいようなんですけど」

「でも、この家の人間はチャールズの付属品みたいに扱っている。お前の母親を筆頭としてな。で、チャールズ坊ちゃんはフランク坊ちゃんと仲が良い。本人がなんか行動しなけりゃ、この構図を崩すことは難しいだろうなぁ」


 他人事のように言うオースティンだった。


「オデットはどうするつもりですかね」

「さあなあ。今日だってチャールズ坊ちゃんが街に行くのについていくらしい。お前の母親が息巻いていたぞ」


 そんな話を聞いても、オデットの去っていったほうを見つめることしかできないソニアだった。



◆◆◆◆



 日が暮れたころだった。オースティンの授業を受けてへとへとになったソニアの耳に、言い争う声が聞えてきた。


「何やってるの! あの子はあなたの妹でしょう! なんであなたたちだけ帰ってくるの!」

「あ、あいつが悪いんだ! 勝手に行動したりするから! 僕は止めたんだぞ!」


 姉のロザリーと弟のチャールズが激しく言い合っているのだ。


「お姉ちゃん?」

「ソニア! オデットが!」


 妹の名を聞いて反射的にチャールズを振り返った。確か今日は、チャールズがオデットを連れて町に行ったはずだった。でも、どこを探してもオデットの姿は見えなかった。


「オデットはチャールズと出かけたはずだよね? なんであんただけが帰ってきてるの? オデットはどこ?」

「いや・・・。その・・・」


 ソニアの剣幕に、チャールズはしどろもどろになった。なぜかアレクシーもいて、その剣幕におののいていた。


「あ、あの子は町ではぐれてしまって・・・。その、先に帰っているかと思って私たちも戻ってきたのです」


 オデットがはぐれてしまった。その事実に、戦慄を隠せないソニアだった。

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