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11 屋敷に戻って

 屋敷に戻ったソニアを待っていたのは、やはりというか、母の説教だった。また気を失ったことをとがめられ、厳しく叱られてしまった。


「ずいぶんと、厳しくやられてたみたいだな」

「まあいつものことだし。あの人は私がなにかするたびにこうだから。そんなものよ。褒められたことなんて、1回もないし」


 あっけらかんと言うソニアに何も言えなくなるオースティンだった。想像以上に彼が衝撃を受けているのを感じ、ソニアは慌てて言いつくろった。


「そんなに気にしていないよ。私、全然平気だから。叱られたらへこむけどさ。今はそう言う人もいるんだってわかっている。ロザリー姉さんや師匠は私のこと分かってくれてるからね」

「ああ。そうだな。お前がいつも頑張っていることは、俺でも分かっているつもりだ」


 以前のソニアなら傷ついていたことだろう。成果を出したのに、あの武器を振り回せるようになったのに、なんで褒めてくれないんだと、やはり自分が悪いんだと無限に落ち込んでしまっていただろう。


 だけど、前世の記憶を思い出したソニアは知っていた。母親だって子供を平等に扱ってくれるとは限らない。だから、ソニアは母のことをあきらめることができたのだ。


「あ! ソニア! こんなところにいたのね! 聞いたわよ! すごいじゃない! あのベルナール魔道具店で特別な武器をもらったって! それを使えるようになったのね!」

「お姉ちゃん! へへっ。私、これを振るうことができたんだ!」


 ロザリーに聖鋼のメイスを高く掲げて見せた。


 ソニアが気を失った後、オースティンがデジレと交渉してくれてメイスはソニアの手に渡った。聖鋼を使ったメイスはかなり高価なものだったが、オースティンが言うには父に言えばこれくらいは出してくれるとのことだった。ソニアの気分は上々だった。


「うわ! 本当に重い! なにこれ! 私の魔力がすぐに弾かれちゃったんだけど!」

「へへへ! すごいでしょう!」


 メイスを床に落としそうになったロザリーに、得意げに話すソニアだった。


「でも、本当に大丈夫? 白の属性は、やっぱり危険なんじゃない? 呪われた属性って言われるくらいだし」

「え? ああ、うん。多分大丈夫?」


 慌てて言い訳するソニアだが、ロザリーは厳しい目をしたままだった。


 ロザリーは溜息をつくと、真剣な顔をソニアに向けてきた。


「ねえソニア。私塾で聞いてきたけど、白の属性については分からないことが多いのよ。あの魔法王国では積極的に使われているらしいけど、専門知識がないとできないことばっかりらしいの。だから」

「う、うん」


 思わず上目遣いになってしまうソニアだった。ソニアにとって白の属性は懸念材料である以上に希望だった。それを、誰よりも味方になってくれる姉に否定されたら、どうしよう。


「だから、あなたはしっかりと白の属性について学びなさい。私も勉強するから」

「へ?」


 止めるどころか励まされて声を上げてしまうソニアだった。ロザリーは深々と頷くと、オースティンに目を向けた。


「オースティンさん。申し訳ないですが、ソニアに白の属性について知識を与えてあげてくれませんか。白の属性を使っても怪我がないように。高名な魔術師のあなたなら、きっと白の属性についても知っていると思うから」


 オースティンはにやりと笑った。


「いいのか。俺が知識を教えたら、こいつはお前もぶっちぎれるような奴になるかもしれねえぞ」

「私だって今のままじゃないですから。それに、私は知っているんです。この子が、今までどれだけ努力してきたか。いつも頑張っているこの子が報われないなんて、そんなことあっていいはずがないと思いませんか?」


 オースティンは大声で笑った。あまりに朗らかな声にソニアはびくりとしてしまう。


「いいぜ。お前たちに知識を与えるのは依頼人にも言われていることだからな。俺が魔法王国にまで行って得た知識、お前にも教えてやるよ」

「うそっ! やったー!!」


 快諾してくれるオースティンにはしゃぎまわるソニアだった。


 ソニアはうれしかった。オースティンが知識を教えてくれたことに。なにより、姉のロザリーが自分の努力を認めてくれていたことに!


「こら! あんまりはしゃがないの! もう! こういうところはいつまでたっても子供なんだから」


 あきれたように言うロザリーもどこか嬉しそうだった。


 しかしーー。


 オデットははしゃぎまわるソニアを厳しい目で見つめていた。しばらくそうしていると、そのまま部屋へと戻っていくのだった。



◆◆◆◆



「ほお・・・。やっぱりすごいもんだな」

「うひひ。これだけはお姉ちゃんにだって負けないんだから」


 ガラスに描かれた文字を見せて自慢げに語るソニアだった。


 ソニアの日課を見せた時の反応である。屋敷の庭の砂場に書かれた文字を見て、オースティンは感心したのだ。


「透明な魔力が出せなくなったかわりに白の魔力は簡単に出せるんだよね。白の魔力は動きがスムーズだからさ」

「それは白の資質の恩恵ってやつだな。魔力操作には資質によって補正がかかる。レベルが高いほど魔力を動かしやすくなるって寸法さ。魔力過多まで行くと、途端に暴れだしたりするそうだけどな。それも、操作技術がある程度まで上がるとスムーズに動くようになるらしい」


 やはりオースティンには様々な知識があるようだった。彼に師事できることは、ソニアにとって幸運と言っていいことかもしれない。


「で、他にも日課はあるんだろ?」

「うん。魔力操作の訓練の次は、武術の訓練かな。マノンさんが教えてくれたんだ。体の柔軟とか、基礎の訓練とか。そのおかげでいきなりメイスを振り回すことができたんだけど」


 説明しながら、ズボンに着いた汚れを叩くソニアだった。


「えっと。この日課、やめたほうがいい? 他の訓練とかしたほうが良かったり?」

「いや、毎日続けろ。瞑想も含めてな。基礎的な訓練は少しずつお前の力を高めてくれる。今のお前があるのは、毎日これだけの日課を続けてきた成果だからな」


 オースティンはうなずくと、ソニアに向かってにっこりと笑いだした。


「じゃあ、今日は授業だ。白の属性を使った基本的な魔法陣を教えてやる。言っとくが、俺の修行は厳しいぞ。ついてこれるか?」

「もちろん! 師匠こそ、手加減しないでくださいね! 手加減して、学園で恥をかいたらたまらないですから。本当に、失敗したらどうしよう」


 予測して顔を青ざめさせるソニアを笑い飛ばすオースティンだった。


 この日から、ソニアは毎日のようにオースティンに教えを請うようになるのだった。

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