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第6話 〝人生とは不条理の連続〟

 コスプレ喫茶から出た僕たちは近くにある公園の遊歩道を歩いていた。

 桜の時期をわずかに外れていたけれど、まだまだ花びらの残る道はたくさんの人で賑わっている。


 そんな頑固者の桜を眺めながら、部長はつややかな頬をニコニコと上機嫌に綻ばせていた。……僕とは対照的に。


「ねえ碧くん。ものは相談なんだが、たまにでもいいから部室でも呼んでくれないかな? お姉ちゃんって」


「嫌です! もう二度と呼ばないからっ!」


 呼ばないと地球が滅びるとしても呼ばない!

 ……。…………安◯公房の全集をくれるのならちょっとは考えるけど。


「ホントかい?!」

「嘘ですっ!」


 だからなんで心が読めるの?!

 というかそんなことより——。


「——なんで僕まだ執事服なの?! 絶対おかしいよね!?」


 コスプレ喫茶から出たのにもかかわらず、僕の身体は絶賛執事服に包まれている。


 もちろん店に出る前に着替えようとした。

 でも部長がそのままでいいからと僕を店の外に連れ出したのだ。


 それでも僕が強引に脱ごうとすると、なぜかお店の人も一緒になって止めてきて、あれよあれよという間にここまで来てしまった。


 ねえ、どういうこと? 買収でもしたの?


「当たらずとも遠からず、かな? 店員さんたちもきみの魅力にやられてね。ぜひ店の宣伝も兼ねて外を歩いてきてくれって頼まれたんだ」


「なにそれ僕聞いてないよ?! なんで勝手に決めるの?!」


「まあまあいいじゃないか。これもデートのうちさ。それに猫耳は外してるからそんなに目立っていないだろ?」


「目立ってるよ?! 何も隠せてないし丸裸だよ! 猫耳を本体みたいに言わないで!」


 部長の猫耳に対する謎の評価はなんなの?!

 執事服の時点で十分おかしいから!

 さっきからすれ違う人みんな二度見してくるよ!


「まあ、真面目な話をすると、きみにとっても良い訓練になると思ってね」


「……訓練?」


 またなにを言い出すんだこの人は。


「いやいや、そうおかしな話じゃないよ。きみは人前に出るのは得意じゃないだろ?」


「……。まあ、そうですね。知らない人の前だと緊張しちゃいます」


「でも作家になると色々なところで人前に立つ必要があるんだ。例えば授賞式やサイン会、講演会などなど。だから今のうちに何事にも泰然としていられるだけの不動心を養う必要がある。コスプレをして街を練り歩くというのは、人目に慣れるには良いトレーニングだと思わないかい?」


 うーん、まあ、一理ある……のかな?

 確かにみんな無遠慮にジロジロ見てくるし。

 でもなんで執事服なの?


「それはわたしの趣味だね」


「……」


「それはわたしの趣味だね!」


 笑顔で言い直さなくても聞こえてるから!

 あんまりな理由に悲しくなって無視しただけだよ!


「あーもうっ! わかりました! わかりましたよっ! このままずっと執事してればいいんでしょ!?」


 いつか絶対仕返ししてやる!


「ふふ、楽しみにしているよ。よし、じゃあ納得してくれたところで——はい」


 部長は僕に向かって手を差し出してくる。


「……? なんですか? その手は?」


「わからない子だなぁ。淑女をエスコートするのは執事の務めだよ?」


 ……。どこに淑女がいらっしゃるんでしょうか。

 僕の目にはイジワルな魔女しか見えませんが。


「む、そんな悪いことを言うのはこの口かね。このこのっ」


「ひゃあ! ひゃ、ひゃめふぇよ!」


 言ってないじゃん、思ってただけで!


「む、ならば訂正しよう。——そんな悪いことを思うのはこの頭かね。このこのっ」


「ひゃあ! だからなんで僕の思考が読めるの?! やめてー! 頭をぐりぐりしないでー!!」


 やっぱり部長は淑女なんかじゃなくて悪魔だよー!

 どうして僕にだけそんなイジワルするの?!


「そんなのわたしの口から言わせないでくれたまえよ。さ、馬鹿やってないで行くよ。デートはまだまだ始まったばかりなんだから」


「むぅ〜!! こんなの絶対デートじゃないよ〜〜!!!」


 しかし僕の心からの叫びは余計に衆目を集めるだけでなんの役にも立たなかった。


 まことに人生とは不条理の連続である。


 泣いていいよね?!

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