第4話 〝わたしがきみを立派な作家にしてみせる〟
「——果てしなくつまらなくてビックリだよ」
翌日の放課後。
僕が書いてきた話を見せると部長はすげなく断言した。
「なんだいこの女? こんな都合の良い女なんているわけないだろ。これだからお子ちゃまは……女に夢を見過ぎなんだよな」
「い、いいじゃないですか! ぼ、僕にだって憧れの女性像くらいあるんです! そ、それに妄想して来いって言ったのは部長じゃないですか!」
「わたしは妄想力を上げてこいと言ったんだ。気持ちの悪いオ◯ニーを見せてくれとは頼んでいないよ」
「お、おな——!! な、なんでそんな酷いこと言うの?! 部長が書いて来いって言うから頑張って書いたのに!」
「これがきみの全力? だとしたらきみには才能がないからやめた方がいいね。その辺の変態の方がもっと面白い話を書けるよ」
「う、う」
「第一、これじゃあきみの今の作風と一緒じゃないか。青春小説を書きたいんだろ? なら、もっと砕けた感じで書くんだ! 変な比喩なんかいらない! 読者は地の文なんか興味ないんだよ!」
「う、うう」
悔しくて涙が出てきた。
でも部長の言葉が正論すぎて何も言い返せない。
そうだ。これは青春小説を書くためのトレーニングなのだ。
なのに僕は部長に復讐することばっかり考えて……。
でも、頑張って書いたのに、ぐす……。
「……。ま、まあでもあれだよ。討論会の題目に『肉◯の悪◯』を選ぶところは良いね」
「……ほ、ホントですか?」
「うん、ドロドロの恋愛ものを選ぶところが実にムッツリなきみらしい。しかもそれをわたしとふたりで仲睦まじく読み合っているんだ。なにかそんな願望でもあるのかい?」
「なななななんてこと言うんですか?! 違うよ! ラデ◯ゲも僕もそんなことを表現したかったわけじゃないよ?!」
「そうかい? わたしはてっきりきみが持て余している内なる欲望を解放したのだとばかり。気づいてあげられなくてごめんね」
「————っっ〜〜〜〜!! もう返して!!!」
部長なんか大嫌いだ!
「ふむ、しかし零から一を生み出すのが難しいのもまた事実。妄想力を発揮するにも多少なりとも経験は必要か。——よし、決めたぞ!」
何を?
「——デートしよう。わたしときみで」
「うえ?!」
変な声が出た。
部長はとびっきりの笑顔を咲かせて、
「すまない、わたしは見誤っていたよ。きみに足りないのは妄想力ではなくて、ちょっとした経験だ。ちょっとした経験さえあれば、きみの変態的で豊かな妄想力は爆発する! 大丈夫。——わたしがきみを立派なラブコメ作家にしてみせるから!」
「嫌です! 僕は純文学作家になるんだ!」
「あっとそうだったね、ごめんごめん間違えた」
「……格好つけるんなら間違えないでくださいよ」
「ごめんごめん、ちょっとやり直させて」
部長は咳払いをひとつして、
「大丈夫。——わたしがきみを立派な官能作家にしてみせるから!!」
「絶対言うと思った!! もー!!!」
古典的なオチをつけてきた部長に僕もこれまた古典的な叫びで返すのだった。