第2話 〝考え事にはお風呂がいちばん〟
家の中でいちばんアイディアが湧いてくるのはお風呂に入っているときの気がするから、僕はよく長湯をする。
長湯をして、茹で蛸になる寸前まで物語を考えるのだ。
「んー部長をテーマにした話か……何を書こうかな……」
今日も湯船に浸かりながら僕は考える。
部長からの宿題。部長を登場人物にした小噺。
千文字くらいでいいかな、とか。
舞台をどうしよう、とか。
色々。
「……うぅ、色々と言えば」
——きみが小説内でどんなことをわたしにさせようが、きみの自由だ。
僕は部長の言葉を思い出して赤面する。
もちろん湯船に浸かっているからすでに頬は赤いわけだけれど、気分の問題だ。
「ぶ、部長は言い過ぎだったけど、も、もっとプラトニックで健全なことだってあるよね。た、例えば……き、キスとか——わわわ! 僕は何を考えてるんだ!」
慌てて湯船に頭まで潜らせる。
ぶくぶくと泡を吐き出して悶えた。
身近な人がキスをする想像をするだなんて、これじゃあまるで変態だよ。
もう! それもこれも全部部長のせいだ!
部長がいつも変態でえっちなことばっかり言うから僕にまで影響が出てるんだよ。
「……で、でもキスか」
部長は綺麗だし、黙ってれば可愛いし、誰かとしたことあるのかな?
僕もいつか——。
「——馬鹿馬鹿馬鹿! 何考えてるんだ僕は!!」
それもこれもあれも全部部長のせい!
急に部長のことが憎らしく思えてきた。
「……むー、ひどい目にあわせてみようかな」
部長が何してもいいって言ったんだ。
だから別にえっちなことじゃなくても、シンデレラに酷いことをしてきたお姉さんたちみたいに、不幸にしてみたりも——。
「——あーだから違う違う! 毒されてる毒されてる! 僕は健全健康な作家になるんだ! あの人のところまで堕ちる必要はないよ!!」
そりゃあちょっとは優しいところもあるし、勉強も教えてくれるし、基本的には良い人なんだけれど、僕にとって有害指定図書であるのはやっぱり間違いない。影響されるのは良くないことなんだ!
「よし、決めた!」
僕は気合いを入れるために頬をパチンと叩いた。
とりあえず初日だから無難に書いてみることにしよう。
僕の願望を反映した理想の部長像を書くんだ。
「そうすれば部長だって自分の言動がいかに後輩を振り回してるのか気づいてくれるかもしれないし!」
僕はざばんっと勢いよく湯船から立ち上がってお風呂から出ると部屋に戻って早速書き始めた。
筆が遅いから書き終わる頃には日付が変わっていて、僕は倒れ込むようにベッドに寝転んだ。
「……あーあ、でも本当に部長が今書いた話みたいな人だったらいいのにな」
そんなありもしない妄想を口に出して、僕は眠りに落ちていった。




