【10】【11】【12】
【10】 ─演奏室 9時─
演奏室に入ると、部屋に置かれているグランドピアノの前にまで移動した。
小さい頃から、この部屋の音が響き渡る設計になってるのが好きで、よくここでピアノを弾いたり、家族の演奏を聴かせてもらったりしていた。わたくしのお気に入りの部屋の一つでもあるのよね。
義弟はバイオリンの方が得意だけれど、私はピアノが好き。
前世でも学生時代はピアノのレッスンを受けていたりしたので、これはもう性分と言えるかもしれない。
ピアノに近づいて、鍵盤蓋を静かに持ち上げ、屋根を突上棒で押さえる。
そのままの流れで椅子に座り、鍵盤へと手を触れた。
曲は暗譜しているので、譜面台を上げる事はせず、わたくしはそのまま、静かに曲を弾きだし、演奏室に音を響かせていった。
そうして何曲か弾いていると、部屋の時計が 11 時の針を指しているのに気が付いた。
「久し振りに弾いたものだから、集中しちゃったわね」
このままもう少し弾いててもいいけれど、満足した気持ちの方が強いかな。
ピアノの鍵盤蓋を戻してから、私は演奏室を後にした。
「さて、と……」
この後はどうしようかしら。
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【11】
「わたくし、その様な事はいたしておりません。そもそもわたくしは」
「えぇい、黙れ! そうやってまだ言い逃れするつもりか!! リーリアがこうも泣きながら言ってるであろう! やっていないと証明出来る様な証拠はあるのか!」
「えぇ、勿論証拠ならありますわ」
「……なに? 出鱈目を言うな!」
「出鱈目では、ございません」
わたくしは、父から受け取った書類を封筒から取り出す。
「こちらの書類ですが、わたくしのこの半年間のスケジュール、誰と何をしたかなどの行動をした事が全て記載されております」
「えっ」
わたくしの言葉に、殿下よりも、ベルツ男爵令嬢の方が、あからさまに顔色を変える。
が、わたくしは勿論気にする事はない。
「……さて、まずは教科書を破られた先週の件ですが。そもそも先週も先月もわたくしは学園に登園しておりません。王妃陛下や宰相様等とお会いして執務にずっと携わっておりましたもの。ベルツ男爵令嬢、わたくしがどのようにして、あなたをの教科書を破り、池へと突き落としたと言うのでしょうか」
「え、あの、それは……!」
「デ、デタラメを言うな! どうせそんなの捏造した書類なのだろう!!」
「わたくしの発言が虚偽がどうか、王妃陛下や宰相様にご確認して頂いて結構です。登城した際の入出の記録も勿論ございますので。また殿下とベルツ男爵令嬢の事については、陛下にもご相談済みです」
「父上に、だと……!?」
陛下の名前に、殿下があからさまに焦り、真っ青になる。
相談を既にしていると思わなかったのでしょうね。
「陛下には元々、殿下が執務をわたくしに押し付けて来る事などでご相談はさせて頂いておりましたが、それに加えて、ベルツ男爵令嬢と浮気をされているという、王太子としての自覚の無さを憂いて、万が一の時の為に、父がわたくしや殿下、ベルツ男爵令嬢に王家の影の方を付けていただく様お願いしましたわ」
「は……影を、付けた……!?」
「えぇ、ですから、わたくしのここ数ヶ月の行動、全て影の方々は把握されておりますし、逐一陛下にもご報告されております。わたくしが誰と会い、どんな会話をし、どんな行動をしてきたのか。逆に誰に何を言われ、どんな事を言われてきたのかも」
「貴様……!!」
殿下があからさまに焦りだした。
私自分達がわたくしに何を言ったかしてきたかを分かっているからこそ、焦っているのだろうけれど。
ニッコリ。
わたくしは、柔らかく笑みを浮かべ、軽く首を傾げて手を頬に当てる。
「殿下は、ベルツ男爵令嬢の言葉を信じていらっしゃるのでしょう? でしたら、陛下を通して、影の方にわたくしとベルツ男爵令嬢がどこで会い、どんなやり取りが行われたのか、ベルツ男爵令嬢が一人の時に何をしているか、お伺いすればよろしいだけの事ですわ。
影の方々はわたくしに忖度する必要は無いのですもの。
陛下からのご許可があれば、きちんと伝えて頂けましょう?」
「……」
「あら、ベルツ男爵令嬢を信じていらっしゃらないとでも?」
「そんな事は、そんな訳がないだろう!! 私はリーリアを信じている! なぁ、リーリア!」
「……え、えぇ……」
「……リーリア…………?」
ベルツ男爵令嬢が殿下と目を合わさず、殿下が訝しむ表情になる。あらあら。こんな事だけで、挙動が怪しくなるだなんて、随分と杜撰な計画だった事。
「ベルツ男爵令嬢も、わたくしが貴女をイジメたとそう仰るのでしたら、口だけではなく、しっかり証拠を揃えて、反論すればよろしいだけですのよ?」
「……」
「今度はだんまりを決め込まれるのですか?」
「……ぃ……」
「……え?」
「うるさいって言ってんのよ! 何よその王家の影って!! そんなの設定資料集にだってなかったじゃないの!!」
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【12】
「まさか朝起きたら、もう諸々終わっているなんてわ思いもよらなかったわ……」
朝食の後、マティが昨日の事で報告あるよと言うから、陛下の所へ行くのが先でしょ? と伝えたら、もう終わったよって言うものだから、何がどうしてそうなったのかと、東屋でお茶をしながら話を聞く事にしたのだけれど。
わたくしが眠った後、お父様とマティは改めて、殿下が企んでいた、わたくしへの多数の冤罪の証拠、男爵令嬢に殺されかけた事などを、諸々纏めると、そのまま王城へと向かい(一応先触れは出したみたい)、陛下に提出されたらしい。
陛下は勿論影の方から報告はあるのたろうけれど、形式として伝えるのは大事ってやつね。
お父様とマティは、かなり怒り心頭だったみたいで、陛下も擁護はこれ以上出来なかったようで。
わたくしと殿下の婚約解消が、昨日の深夜のうちに行われたというから、さらに驚いた。
お父様、仕事が早すぎませんこと?
まさか寝ている間にそこまで話を進められているとは、流石に思わなかったわ。
それだけかと思えば、ビックリな事に、殿下側の有責と言うのもあり、陛下は、殿下の王太子を取り消して、代わって第二王子であるシュテファン殿下が立太子をにすると決められたとの事。
また、殿下は最低でも向こう五年は辺境で、一兵士として魔物と戦う事になるらしい。手柄を立てない限りは王都へ戻る事を許さないとか、あの軟弱ヘタレ殿下には、いい薬だろう。
お父様が言うには、現辺境伯は、陛下とお父様の学生時代からの親友らしく、殿下の横暴我儘三昧は通じないだろうとの事。
完全に放り出す訳でなく、親友の方のいる地に送る所は、陛下の親としての優しさなのかしら。
それと男爵令嬢だけれども。
冤罪を仕掛けたこと、上級貴族の暗殺を企んだ事、王配を狙った事などで、それはもう、彼女一人の罪では当然すまなくて。
お家は断絶。親類縁者は、全て平民落ち。王都から追放まではならなかったけど、かなり寂れた地域への追放になったみたい。
本来なら処刑になるはずなんだけど、陛下はこの連座があまり好きではないらしく、ベルツ元男爵令嬢以外は、平民落ちとして、処置されたらしい。
貴族だった人からしたら、寂れた場所に追放も、相当きついと思うけどね……。
ベルツ元男爵令嬢だけは、平民落ちに加えて、片脚の腱を切らされた上で、戒律の厳しい極寒の北の地に行かされたらしいわ。
下手に国外に追放して、他国に迷惑掛ける可能性がある事を考えると、それなら簡単に逃げれない様にと、片脚だけ腱を切って、労働活動をずっとさせる事になったそう。
確かに片足が上手く歩けないなら、脱走してもすぐに遠くには行けないし、見付かっても逃げ切るのは難しいものね。
両足だと、今度は労働させるのにも難しくなるし。
それと怪我をしても病気に罹っても、手当もされないらしい。
……中々エグいと言うか、容赦が無いと言うか。
地味にキツい罰だわ。
頑張って生き抜いてねとしか、わたくしからは言えないけれども。
「義姉さまは甘いよ。義姉さまを殺そうとしたんだから、これくらいで済んだのは可愛い方じゃない」
二人の処罰についての報告を聞いていたマティはマティで、容赦の無い言葉を呟きクッキーを一個口に放り込む。
「貴方も大概容赦ないわねえ」
「じゃあ聞くけどさ」
口に残っていたクッキーを紅茶で飲み干すと、マティは言葉を続けた。
「逆に僕が同じ目に合ったとしたら、義姉さまはどうする?」
「……」
マティの言葉に、紅茶を飲もうとしていた手がピタリと止まる。
確かにマティが、わたくしの様に冤罪や婚約破棄を、衆人環視の中でされる可能性があったとしたら……。
そうね、同じ様に容赦ない報復をするでしょうね。
それがマティでなく、お父様だったとしても。
わたくしの反応に満足したのか、にこーっと目尻を下げる迄の笑みを浮かべる。
「ね? だからあの二人への罰は、大袈裟でも何でも無いんだよ」
うんうんと頷き、マティは再び皿の上のクッキーを手に取り口にした。
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